第4節「とある女性マスターのオリジン」
「また失敗か」
その言葉だけで価値が決まる。
そんな場所で私は生まれた。
「でもこの力……、今までの中で1番優秀よ」
「ならばこれを……」
作成者のやりとりは理解できなかったけど、後に分かったことがある。
私は兵器として生まれた……いや、『作られた』の方が正しい。
何人いるかも分からない兄弟達の中で、最も出来の良かったもの。……それが私だった。
痛みは身体が覚えていた。
だけど、その痛みを知ったきっかけは分からなかった。
必要の無い事は全て削除されてきた。
必要の無い事が削除されていく中、これだけは染みつくように覚えていた。
「指示をどうぞ」
口癖のように言っていた言葉。
作成者の道具として生まれ、道具として死ぬ。
私はその道のみを歩む事だけしか許されず、他の道を知らずして最期を迎えるはずだった。
……生まれた場所が炎の海に沈むまでは。
「……」
視界いっぱいに広がる炎。
それは私が生まれた場所だったもの。
「指示をどうぞ」
その返答をするものはいない。
キャッチしたのは何かが燃える音のみ。
私は命令を受け、それを実行する。……それ以外の事は知らない。
指示のないときはどうしたらいいんだっけ。そもそも、指示のなかった事はあったっけ。
自立して考える事を知らない私は、これからどうすればいいか分からなかった。
そんなとき、貴方は私の前に現れたんだ。
「……貴方が私の新しい指令者ですか?」
「違う」
「ならば、貴方は私が始末するべき目標ですか?」
「……違うよ」
悲しそうな目で見つめるこの男性が私の全てを変える存在となることに、この時の私は知らない。
その男性は『ロマニ・アーキマン』と名乗った。
「一緒に旅をしないかい?」
「何故です?説明を要求します」
「……えーっと、そうだな……。人生をやり直したいから、かな?」
「それが旅をするとどう繋がるのです?」
あの頃の私は、本当にあの人を困らせてばかりだった。
なのに、あの人は私が様々な事を知ろうとする度に嬉しそうな表情をしていた。
その表情の意味を理解した時には、もう___
「行ってくるね、名前ちゃん」
貴方はいなくなってしまった。
2021/07/24
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