第3節「雄英体育祭:後編」



「お父さんの水の個性も、お母さんの治癒の個性もない……。だけど君は、お父さんの個性もお母さんの個性も継いでる……。羨ましいよ、本当」


それは、轟の出生を聞いて名前が抱いた正直の感想だった。



「お前に何が分かる!!彼奴の所為で……、彼奴の所為で、お母さんは……!!」



しかしそれは轟にとっては、地雷でしかない。
轟の怒りの声を聞いた後、名前が口を開いた。


「君の家庭環境とかは正直どうでもいい。……だけど、これだけは言わせて欲しい」


ゆっくりとした動作で名前は顔を上げる。



「親は……どんな形であれ、期待しているんだよ……!!」



名前から炎が上がる。
急な事に轟は反応出来ず、少し後ずさった。
氷による拘束から解放された名前はふらつきながらも自力で立つ。


「別の個性が宿った私を……、両親ふたりは受け入れてくれた!!ヒーローの子供だからとヒーローを目指さなくてもいいと言ってくれた!!………嬉しかった……ッ」


少し先に立っている轟を名前は見つめる。


両親ふたりの名に恥じない戦いをする。……期待に応えたいんだ。君は違うの?」

「……!」

「誰かの期待に応えたい。……誰だってそう思うでしょう?」


轟の目が見開く。
彼の頭に浮かんだのは、長年見ていない自身の母親。
目の前に見える少女の姿が……一瞬だけ自分の母親に見えてしまった。

少年は遠い記憶……幼い頃に出会った、自分にとってもう一人の救いの存在だった・・・・・・・・彼女を、自分の母親に重ねてしまった。


「その霜……。そろそろ限界なんじゃないの」


名前が持っていた槍の先を空に向ける。
そして……名前の周りに炎が纏い始めた。



「この一撃で君を撃つ!!」



轟の視界に入ったのは、別の姿に変わった名前だった。
所々に黄金の鎧を纏い、どこか神々しさを感じる。


「さあ、ここで負けて貰おうかッ!!」

「断る!!俺だって、負けるわけにはいかない!!!」



2人から強大な炎が現れる。
そこでやっと視界を覆っていた白煙が2人の炎の勢いで吹き飛び、観客席側の視界が良くなった。


「バーニングッ!!!やっと見えたと思えばなんだよ!!苗字に至ってはもう見えねーぞ!!!」


ステージに存在する炎。
片方は燃やし尽くす勢いの炎、もう片方は球体を形どるように燃えていた。
それは小さな太陽の様なものだろうか。輝かしい為、周りからはその中心にいる名前が見えていないのだ。


「これ、会場大丈夫なのかーッ!!!?」


マイクの声が聞こえた瞬間、2つの炎が衝突した。

炎と炎がぶつかった為か、黒煙が発生した。
再び視界が悪くなり、状況を確認できなくなった。


「2人とも、返事をして!!」


状況判断の為、ミッドナイトは轟と名前に応答を求める。
しかし2人の返事はない。
暫くして黒煙が晴れ始めた。


「黒煙から姿を現わしたのは轟だー!!!苗字はどうなってんのー!?」


先に姿を確認できたのは轟だ。
巨大な氷で吹き飛ばれるのを防ぎ、場外を免れたようだ。


「苗字の姿も見えてきたぞー!!……って、なんだその格好!!!」


黒煙の中、やっと姿を捉えられた名前の格好はマイクも驚きの声をあげたのだ。
それは対峙していた轟も驚いていた。
先程まで見せていた黄金の鎧が無くなっており、その代わりと言うように槍が巨大化していた。
観客席にいる者と主審副主審の2人も名前の今の姿……英霊カルナの武装した姿に驚いているのだ。

2人ともまだ意識はあるが、先程の炎の衝突でかなりダメージがあるようだ。
だが見たところ、名前の方が酷く見える。
とどめと言うように轟が氷で足場を作り名前に接近した。


「ッ!?」


その氷の音に反応したのか、名前が炎を発生させた。
その炎により梳かされた氷は足場としての意味を失い、轟のバランスを崩した。
ステージに着地した轟が名前の出方を窺っていると、


「……!」


巨大な槍が金色の光を放って消滅し名前の服装が体操着姿に戻った。……そして、そのまま身体が横へ傾いていった。
そう、先程の攻撃で名前は限界を超えてしまったのだ。……彼女にとって最後の抵抗だったのだ。


「え……っ?」


轟は倒れていく名前を、再び自分の母に重ねてしまった。
倒れる寸前の名前を腕で受け止めた事に轟は短く驚きの声を出した。……無意識だったらしい。

足音に気付き、轟は顔を上げる。
そこには主審のミッドナイトが立っており、轟の腕の中にいる名前の容態を確認する。
名前は個性の使用限度を超えたため、身体を休める体勢に入っていた。ゆっくりと呼吸して眠っているのが証拠だ。


「……苗字さん、行動不能。決勝戦進出、轟君ッ!!」


ミッドナイトの声に会場が盛り上がりを見せた。
轟の勝利と同時に、名前の敗北が決定した。

轟は自身に向けて上がった歓声よりも、ロボットによってリカバリーガールの元へ運ばれていく名前を轟は見送った。

会場修復のため、準決勝2試合目までの間、空白の時間が設けられた。



第3節「雄英体育祭:後編」 END





2021/07/24


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