第3節「雄英体育祭:後編」



会場に漂う冷気。
それはステージに立つ赤と白の特徴的な髪の色を持つ少年、轟によって生成された氷塊によるものだ。
その氷塊の中心にいるのは対戦相手である名前。


「苗字さん、動ける?」


主審のミッドナイトが名前にそう問いかけた。
刹那


「火柱ッ!!?」


急に現れた火柱に実況マイクが驚きの声をあげる。
冷やされた空気が漂っていたが、今度は熱気で会場の空気が変化する。
どこからか、その熱気に対する言葉も聞こえてくる。


「まだ動けます、先生」


先程ミッドナイトが尋ねた言葉に返す声が。
その声の主は溶け残った氷の上に立つ名前だった。


「今度は白!!お洒落だなオイ!!!」


白く染まった髪は名前の周りに飛んでいる火花の色を反射しているようで、やや赤く染まって見える。
先程の火柱の正体は彼女だったのだ。


「炎……、嫌がらせか何かか?」

「違う。……君が氷を使ってくるのを分かっていたから」


ステージに足を付け、名前は轟と対面する。
白く染まった髪に明るい青の瞳。
普段の彼女からは想像できないほどに、その表情は“無”に近い。


「個性使われる前に終わらせたかったんだが……、仕方ねェ」


轟が再度名前に向かって氷を生成する。
しかしそれを名前は火の玉を作り出し、その氷に向かって飛ばした。
氷の欠片が太陽の光に反射して輝きながらゆっくり落下していく。


「……お前も、緑谷と同じで延長戦をする気か?」

「いいや」


手に黄金の槍を出現させ、名前は轟に向かって走って行く。
その間にも轟は氷を名前に向かって生成していくが、炎を纏った槍にあっけなく破壊されてしまった。


「早めに終わらせる。……私が戦いたいのは君じゃない」


その言葉に轟は少し目を見開き、驚きの表情をちらつかせる。


「君に勝って……あの子と決着を付ける。だから……負けてくれるかな、轟君ッ!!」


名前は轟に向かって槍を構え、穂先から熱線を放った。
轟は素早く氷を自身の前に作り攻撃を防ぐ。


「溶けていない……?」


不思議そうにそう言った轟。
そう、名前が放ったのは熱線だ。轟は咄嗟に氷で防いでしまったが、本来は溶かされてしまうため無意味な行動と言おうと思えば言えるが……。


「……!」


轟は攻撃してきた本人を見て、短く驚きの声をあげた。
そこには自分よりも大きい槍を支えに立っている名前がいた。
……口元に赤い液体を垂らしながら。


「はは……っ、思ったより時間なさそう」


名前が早めに終わらせる、と言った理由。
それは名前自身の身体が個性を扱える限界を超えていた為である。

その隙を狙った轟が動きを止めようと氷を生成する。
しかしその行動は名前には分かっていたようで、槍先を地面に走らせて巨大な炎を発生させた。
炎で轟の視界を遮る事に成功した名前は一旦距離を取る。


「思ったより消費が激しい……。ランサー、もう少し耐えて」


氷と炎による攻撃が続く。相性で言えば名前が有利だろうか。
しかし轟には氷だけではなく、前の試合で見せた炎も使う事ができる。

ステージには轟が作り出した氷が所々残っており、ギミックのように存在している。
辺りは轟が繰り出す氷による冷気と、名前の個性で擬態している英霊…カルナによる力で使う事ができる炎がぶつかる度、白煙が会場に広がっていた。


「おいおい、煙で状況が確認しづらいんだけど!!どうなってんのー!!?」


マイクの言う通り、観戦している者からはほとんどステージの状況は見えていない。
ただし、時折互いの個性をぶつけ合う音が聞こえているためどちらもダウンしていないようだ。
主審、副主審であるミッドナイトとセメントスが止めていない所を見ると、試合を止める程のものではないらしい。


「なるほど。炎を使わなくても……氷だけで私に勝てる、と。……わかった」


自分の問いに答えない轟を見て、名前は槍を構える。


「なら、そのまま出ていって……!」


熱線を放とうとしたその時。


「お前、戦闘慣れしてないんだろ」

「!?」


名前の足下はいつの間にか氷が覆われており、動きを制限されていた。
轟は視界が悪くなった所を狙い、名前に悟られないように氷を生成していたのだ。
その氷は徐々に名前の身体を覆い尽くしていく。


「アクアの娘だから気にしてたが……本当、大した事ねェ」

「……っ」

「負けるのはお前だ、苗字」


轟が名前の元へ来て手を構えた。
俯いているため、彼女の表情は確認できない。冷気を纏った轟の手が名前に触れようとした時だった。


「羨ましいよ。……君が」


か細い声で紡がれた名前の言葉に、轟は動きを止めた。


「なんで両親ふたりが私の存在を公表しないか知ってる?……さっき君が言ったように、私が2人の個性を継いでないからだよ」


そう言った名前の声は低く、悲しそうだった。





2021/07/24


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