第3節「雄英体育祭:後編」



数時間前



「あれ、炎司……じゃなかった。エンデヴァー!」

「……」


エンデヴァーと呼ばれた男に近づく男性。
その人物を見てエンデヴァーは少し目を見開いた。


「お前か、アクア」

「いや〜久しぶり。何年ぶりだろうな?」


アクアと呼ばれた男はエンデヴァーの隣に駆け寄る。
目元だけ露出した姿では彼の表情は読み取りにくいが、声からして楽しそうなのが伝わる。


「お前の娘……明らかにお前の個性を継いでいないように見えるが」



エンデヴァーの言葉にアクアは目を細める。



「別に、個性がどうであろうと僕の娘に変わりはないだろう?」

「ふん」

「しかし……。凄かったよ、あの氷。でも、君の個性の方は氷と比べてあまり慣れてなさそうに見えるけど?」

「下らん反抗期だ。そのうち使うようになる」

「……冬美ちゃんと夏雄君、2人も見てあげたらどうだ?」

「興味ない」



そう言ってアクアから背を向けたエンデヴァー。
数歩進むと、思い出したかのような声を出しアクアの方を振り返った。



「次、お前の娘とだな」

「……ああ」



エンデヴァーはそれだけだ、と言って今度こそ去って行った。
その背中をアクアはずっと見つめていた。



_________

______

___




時間はあっという間に進んでいくもので。
かっちゃんと切島君の試合が終わると次は私の出番だ。
控え室に向かっているとまたまた見知った顔が。



「名前!」

「お、お父さん……!」


大きな声で私の名を呼んだこの男性は私の実の父親だ。
今は『アクア』というヒーローの姿だ。


「あの……お父さん」

「ん?なんだい?」

「次の対戦相手の子……轟君って言うんだけど、あの子私が2人の子供だって知ってる」

「そりゃそうさ」


お父さんの返答に目を丸くしてしまう。


「何たって彼の父親はエンデヴァーだ。俺達は昔からの付き合いだからな、俺に娘がいることくらい知ってる。彼奴が教えたんだろうよ」

「そ、そうなんだ……」

「焦凍君、エンデヴァーの個性を使いたがらない理由を知ってるかい?」


首を横に振る。
お父さんは一度目を閉じ、一呼吸置いて口を開いた。


「……焦凍君は、エンデヴァーの上位互換として生まれた子供なんだ」

「じょうい、ごかん……?」

「そう。エンデヴァーの弱点を克服でき、平和の象徴であるオールマイトさんを超えるべく作った子供……彼奴は嬉しそうにそう言っていたよ」



その言葉に心臓がドクンッと脈打った。

エンデヴァーさんはオールマイト先生を超えられない事を悟り、次なる策に出たという。
それを実現したのが轟君だと言う。


「焦凍君の個性が発現する前はちょくちょく会ってたりしてたんだけどな……。あの個性を見たら会う機会が激減したのに納得がいった」

「納得……」

「彼奴は上昇志向の高い奴なんだ。厳しい奴だけど、他人だけじゃなくて自分にも厳しい。だから今の自分の地位に満足していないんだ」


こんな悲しそうな声音をしたお父さんは初めてだ。
目元しか見えないから読み取りにくいけど、きっとエンデヴァーさんと会う機会が少なくなって寂しいんだ。


「オールマイトさんと自分の壁。それに悩んだ末、編み出した結果が焦凍君、という訳だ」

「あの、お父さん……。私、轟君に『同じだと思ってた』って言われたの。……それってどういう意味だと思う?」


私の質問にお父さんは目を見開いた。
数分の沈黙のあと、答えづらそうに口を開いた。


「きっとそれは……、彼が受けていた”教育”だと思う」

「教育?」

「そう。……名前。確か一度、焦凍君と授業で戦ったことがあるんだろう?」

「負けちゃったけどね……って、もしかして……!」


頭に浮かんだ言葉に声を漏らす。
お父さんは一度頷いて口を開いた。


「焦凍君の実力はエンデヴァーが叩き込んだもので間違いない。だけど、あれは流石に度が過ぎていた。……あの子がエンデヴァーを強く拒絶しているのも分かるよ」

「拒絶……?」


その意味を知りたくて尋ねようとした時。



「いよいよ3回戦が始まるぜーィ!!」



マイク先生の声が聞こえた。
試合の準備が終わったのだ、もう行かなくては。


「試合前に話してしまったこと、謝る。……だけど、お前は気にしなくて良い」


お父さんに背中を押され、前に出る。
振り返ると、早く行けと言うように私の道の先を指さした。


「どんな試合になっていようと、見てるからな」


お父さんの言葉に頷き、私は先の道を歩いた。



「……本当は違うんだ。名前と焦凍君は、昔___」



私の背中を見て、お父さんが何か言っていた事に、私は気づかなかった。



***



急に明るい場所に出たからか、目が少し眩んだ。
会場へ入ると、耳が痛くなるほどの歓声が沸き上がる。



「準決勝第1試合!ヒーロー科、苗字名前VSヒーロー科、轟焦凍!!」



目の前にいるのは私の対戦相手である轟君。


「スタァーット!!!」


開始の合図が聞こえた。
右腕に令呪を浮き上がらせ、擬態の意思を示そうとした時。



「!!!」



大きな氷が目の前に迫ってきていた。





2021/07/24


prev next

戻る














×
人気急上昇中のBL小説
BL小説 BLove
- ナノ -