novel | ナノ





「皆久しぶりだなあ!」

「おう」

「おおポルナレフ!元気にしとったか?」


復活祭当日。
ジョースター邸の広いダイニングルームで承太郎とジョセフと花京院が三人で集まっていると、一際大きな声で此方に駆け寄ってくる男が現れた。
相変わらずの賑やかさに懐かしさを感じつつ、三者三様に彼を迎い入れる。


「この通りピンピンしてるってぇーの」

「相変わらずだなポルナレフ」

「カキョーイン!元気になって本当に良かったぜ…!前に見舞いに行った時はどうなる事かと…」

「あの時は世話をかけたね」


あの時とは、花京院のみがエジプトに残り、療養していた時の事だろう。
その時のジョセフは旅の後の財団の事後処理、自身が経営する不動産会社の貯まっていた仕事に大忙しだった。
承太郎は渡米を決めてからの手続きや引っ越しの準備もあり、何より、回復したとはいえ母ホリィの体調が気掛かりで家を離れにくく、エジプトまで足を運ぶことが難しかった。
そんな中ポルナレフは暫くエジプトに残り、花京院の世話を焼いてくれていたのである。


「遠いところから集まってくれてありがとう、今日は存分に食べて飲んでいってくれ!」


そう言ってジョセフが一旦その場を離れると、エジプトから帰国した両親との再会を喜んでいたリンダが此方に駆け寄ってきた。


「伯父さん、あっちでママ達が呼んでたよ」

「おぉ、ワシも今行こうと思ってたところだったんじゃ。行ってくるよ」

「そっか、じゃあまた後でね。
あ、承くんここに居たの?」


「ちょうど伯父さんの影に隠れてて見えなかったー」などと呑気に呟くリンダ。そしてそんな彼女を見て目を輝かせたフランス人に、承太郎は舌打ちした。


「Bonjourお美しいお嬢さん!ああ、なんて魅力的な黒髪、抜群のプロポーションってうおお?!」


息を吐くように愛を囁き出したポルナレフの首根っこを鷲掴みにし、承太郎はそのままずるずると暴れる彼を引き摺った。
後ろからリンダの焦ったような声と花京院の「あれは気にしないでください」という言葉が聞こえていた。


「何すんだよ?!」

「…相変わらずだなお前は」


ポルナレフは女好きの、頭と下半身がはっきり分かれている男だ。好みの女を見つけると激しくアプローチを開始する。
相手を褒める事から始まり、距離を縮められればボディタッチを行うなど、初対面の人間相手に対してでもかなり積極的である。
このままではリンダに何をされるか分かったものではないと、承太郎はポルナレフに釘をさす。


「もしかして前にジョースターさんが言ってたのってあの子かぁ〜?
ははーん、お前…って分かった分かった!そんなカリカリすんなって!挨拶くらいはイイだろ!?」


その後ポルナレフは承太郎の元から逃げるように引き返して二人の元へと戻り、勢いよくリンダと握手を交わしていた。
キスでもしそうな距離まで顔を近付けるポルナレフに圧倒されてか、リンダの笑顔は少し引きつっていた。


「ポルナレフ、彼女が困っているだろう。いい加減手を離さないか」

「おお、これは失礼。リンダちゃん、今日は宜しくな!」

「はい、こちらこそ宜しくお願いしますね」


ようやく彼から解放されたリンダが、一息付いてからふと承太郎の方へと顔を向けた。視線が合うと彼女は申し訳無さそうな表情で承太郎に謝ってきた。
どうやら無意識のうちに不機嫌な顔になっていたらしい。


「事前に言われてたのにごめんね」

「いや、すまん…あいつ女を見るとああなるからよ…」


自分の女が別の男に言い寄られる光景など、あまり目の前で見たいものではない。
スキンシップの激しいこの国でそれを一々気にしていたらキリが無いのだが、出来れば避けたい事柄である。


「悪い奴じゃあねぇんだが…」

「そっか」


承太郎が帽子の鍔を弄りつつそう言うと、リンダはふふと可笑しそうに笑った。
何か変な事を言っただろうかと首を傾げる。


「二人共とてもぞんざいに…じゃなくて、気軽にポルナレフさんと接してるから面白くて」

「そうか?」

「すごく仲が良いんだね」

「まあ、そうかもな」


大学の友人達とは違い、生死をかけた戦いを共にした仲間、謂わば戦友でもある彼に対して遠慮はあまり無い。
特に花京院はポルナレフの扱い方に容赦が無く、今も「握手の代わりだ」などと言って彼の横腹辺りに肘鉄を食らわしている。
大方ポルナレフが何か花京院の気に触る事を言ったのだろう。呻き声の大きさからしてかなり強めにやられたようだ。


「花京院さんって、親しい人の前だとあんな感じなんだ」

「あー…あれはポルナレフにだけだ」


それを聞いて小さく吹き出した彼女につられて、承太郎も思わず笑ってしまった。












ラム肉やイースターエッグ等が盛り付けられた皿が所狭しと並べられている。そのテーブルを囲むのは、ジョースターの血族とそれに連なる親族一同と友人。
親戚同士でも個々人で顔を合わせる事はあるが、一度にこれだけ大勢で集まって食事を共にするのは10年振りになるかもしれない。
実際、多忙な貞夫と会うのが10年振りだという者が数人居た。それぞれがお互いに懐かしいと挨拶を交わし、会話を楽しんでいた。ジョセフを除いてではあるが。
そして酒の量が増えると、男衆は羽目を外し始めた。
ポルナレフは脱ぎだし、承太郎は例の特技を行ない、笑い上戸の花京院は奇妙な笑い声を上げ出すなど、ホームパーティーは賑々しいものとなった。
中でも特に盛り上がったのが、承太郎によるリンダとの交際宣言だった。
反応の仕方は人それぞれだったが、皆一様に喜びを露わにした。特に、彼の積年の想いを知るホリィからは歓喜の声が上がった。


「きゃー!良かったわね承太郎!」


リンダの母も喜び二人の仲を祝福したが、財団員である父親の方は娘に男が出来たショックと、誇り高いジョースターの末裔と結ばれた喜びの間で固まってしまった。
それでも少し間を置くと、おめでとうと拍手をしていた。


「まじか承太郎!」


そしてジョセフは「Oh My God!」と言って天を仰ぎ、何やら嘆き出した。
喜んでいるのか愕然としているのかよく分からない彼の様子にリンダは戸惑い、承太郎は何か文句があるのかと睥睨した。


「まあアナタどうしたの?あんなに二人の仲を応援していたのに」

「お前にはこの複雑さが分からんかスージー?!また日本人の手に渡るんじゃぞ!」


確かに娘のホリィも異父妹のリーシャも日本人と結婚し、とどめに可愛がっている姪のリンダまでもが日本人と結ばれる事になる。
二人が結ばれるよう色々と手を回していたジョセフだが、いざ成就すると悔しさが勝ったらしい。
アルコールの影響も相まって遂には床を転げ回り出したジョセフにリンダは苦笑し、承太郎はハンと鼻を鳴らした。
日本人の旦那組は気まずそうに視線を彷徨わせ、他の女性陣はその様子を見て呆れていたが、ポルナレフと花京院は大爆笑していた。

その後は貞夫が二人の仲を祝福するためにと演奏を披露し、ポルナレフがそれに便乗して歌いだし、パーティーは真夜中まで続いた。
12時を過ぎ、深夜の1時を回る頃にはリンダがうとうとし出して目を瞬かせるようになった。
他の女性陣も欠伸を噛み殺し始め、そして遂にジョセフの自棄酒に付き合わされていた貞夫が机に突っ伏してしまった。
それが切っ掛けで、ホームパーティーはようやくお開きとなった。


「さあ奥様参りましょう」

「はいはい、じゃあねジョセフ、私達は先に部屋に戻っていますからね」

「皆また明日ね〜さあ貞夫さんしっかり立って!」


屋敷の各部屋に女性陣は解散していったが、男衆はその場に残り、冷を煽って酔いを覚ましていた。
ちなみに貞夫は動けない程に酩酊していたので、リンダとホリィが彼を支えつつゲストルームまで運んで行った。







「ーーあー…飲みすぎたわい」

「ったく、少しは加減しろよジジィ。歳なんだからよ」

「にゃにおうッ?」

「そうですよジョースターさん、自分の身体を労わらないと」

「そーだぜー爺さん」

「お前らまで…」


花京院とポルナレフにまで老人扱いされたジョセフはしくしくと泣き真似をし出し、それをリンダの父が苦笑して宥めていた。
承太郎はその間にクールサーバーから冷を自身のグラスに注ぎ、まだ顔の赤い花京院にそれを差し出していた。


「ーーで、さっき言ってた俺等に伝えたい事ってなんだ?親父さんよ」


ポルナレフが真面目な顔をしてそう尋ねると、SPW財団員であるリンダの父が軽く目を見開き、それまで緩んでいた表情を引き締めた。





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