▽ 幼馴染から見た彼ら
心ちゃんとかっちゃんがずっと一緒にいることを僕は知っている。小学生の頃から付き合ってることだってもちろん知っているし、あのかっちゃんが心ちゃんにはとても優しくって、大事にしてるっていうのが手に取るように分かる。いつだって一緒に手を繋いでいるし、離れる時は二人とも名残惜しそうに手を離す瞬間も知っている。
「出久くん、またね」
「う、うん、心ちゃん」
「チッ、クソナードと喋ってんじゃねえよ。行くぞ、心」
僕に手を振る心ちゃん見てあからさまに機嫌を悪くしたかっちゃんはいつものように手を繋いで教室から出て行ってしまった。
「爆豪って以外とみみっちいというか嫉妬深いというかなぁ」
「彼女ちゃんに話しかけたら射殺さんばかりに睨みつけてくるからな、アイツ」
その様子を見ていた瀬呂くんも上鳴くんが笑う。彼らも似た経験をしたことがあるらしい。僕は曖昧に笑った。その後、残っているクラスの皆と少しばかり談笑して、教室を出る。それは二人の邪魔をしないために乗る電車を一本遅らせるためだった。
「今日の授業と有意義だったな。でもあそこは……あれ?」
電車に揺られて、自宅の最寄駅に着く。ゆっくりと自宅に向けて歩いていると、昔皆で一緒に遊んでいた公園に差し掛かった。懐かしい、と見つめていると見知った背中が二つあることに気がついた。心ちゃんとかっちゃんがベンチに座っている。肩が触れ合うほど近く、おそらく手を握っているのだろう。
「かっちゃん、心ちゃん…はっ、みちゃダメだ!」
そう分かっているのに、その二人の背中を見る。羨ましい、とは思ったことがないわけではない。ただ、自分が誰かとあの二人のようになれるとは思っていなかった。
「あ、」
二人の顔が繋がった。違う、キスしたんだ。一瞬だったけど確実に唇を合わせていた。見てはいけないようなものを見た気がして、僕は走って団地まで帰って行った。自分の部屋に戻ると、顔が真っ赤になっているのが分かった。先ほどの光景がフラッシュバックする。
「あの二人、本当に付き合ってるんだ…」
今更ながらにそう実感する。付き合う、男女交際するという意味を知っていたが、その本質が分かっていなかったのかもしれない。それを今日ありありと見せつけられた。僕は言葉にならない言葉を叫びながら、ベッドに飛び込み、先ほどの光景を頭から振り払った。
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