爆豪くんの隣の彼女 | ナノ


▽ 隣にいる彼女



勝己くんはすごい。それは私にとって当たり前のことだった。やればなんでもできてしまう天才型。体育祭でも一位になるという宣言通りに、本当に一位になってしまった。そんな彼の隣にいるのが私だ。なにも疑問を持つことがなかった。個性が発現してから十年以上ずっと彼の隣を歩いてきたのだから。これから先も、そうだと思ってきた。

「目障りなのよ、あなた」
「はあ…」

昼休み、先輩数人に呼び出されたかと思うと人気のないところに無理やり連れてこられた。私の個性を知っているのだろうか、手首を掴んで手には触れないようにしていた。少しでも触れることが出来れば何を考えているのかわかるのに…私は不思議そうな顔で先輩を見る他なかった。

「爆豪くんと別れてくれない?」
「は?」

話によると、彼女たちは勝己くんのことが好きらしい。彼を好きになってくれる人が増えるのは嬉しい。だが、別れてくれとはどういうことなのだろう。私は困惑した目で先輩たちを見つめ、一歩下がった。

「彼はきっとトップヒーローになる。そんな彼の隣にいるのがこんな冴えない女なんて、相応しくないわ。だから彼から離れなさいよ」

先輩たちはそう言うだけ言って、私に背を向けて歩いていった。

「ヒーロー科の人だったのかな…」

彼女たちは勝己くんと同じヒーローになる。彼女たちは勝己くんの背中を守ることが出来る。だが自分は?自分は勝己くんに何ができるのだろう。私はしばらくその場を動けなかった。



『今日一緒に帰れない。ごめんね』

そう勝己くんにメールをして、一人で校門を出た。今日ヒーロー科はヒーロー基礎学で私たち経営科より一限多い。いつもは教室で待っていた。校舎を一度だけ見て、背を向けて歩いて行った。



「心、どういうことだ」
「……ノックぐらいしてよ、勝己くん」

自室のドアを乱暴に開けるのは勝己くんの他にいない。横になってベッドから起き上がる。そんな私にずんずんと近づいてくる勝己くんの目はつり上がっている。怒っているのだ、勝手に帰った私に。

「お前、クソモブ女の言うこと気にしてんのか?」
「…! なんでそれを」
「透明野郎から聞いた」

どうやら葉隠さんはあの場所にいたらしい。全く気がつかなかった。いつもなら教室の前で待ってるはずの私がいないことに気がついた葉隠さんが、あのことを勝己くんに告げたらしい。

「俺はお前の心を読むことは出来ねえ」

そう言って、勝己くんは私の隣に座り、手を握った。勝己くんの思いがどんどん私の中に流れてくる。怒りや悔しさ、歯痒さそんな思いが直接伝わってきて私は涙を流した。私は勝己くんの考えてることをまさに手に取るように分かるのに、勝己くんは私の思いを知ることができないはずだった。

「でも、お前が今どんな馬鹿考えてるのか分かる」

そう言って流した涙をびっくりするほど優しく拭いてくれて、勝己くんは私の瞼に口付けた。そうしてくれることで、私の涙は一瞬で止まる。

「お前はくだらねえこと考えねえで、俺の手をとって隣に立ってたらいいんだよ」
「……うん」

勝己くんに勢いよく抱きついて、ベッドに二人横になる。勝己くんの手が私の腰に回って、私が勝己くんに目を合わすと彼は優しく微笑んでくれた。私はそんな勝己くんの額に自身の額をくっつけて、私の全部が伝わるように目を閉じた。


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