act.2 ブラウン泥棒
レースのカーテンの隙間から朝日の差し込む中、廊下でまるまると太った愛猫を抱え、「よし!」と気合いを入れる。
愛猫のおなかを何度か撫で、そうして彼が嫌がる――でも可愛いからついしちゃう!――抱き方をした。
やっぱり両脇に手を入れられるのはねこでも嫌なのか、嫌な表情をする。
「ご、ごめんね。あのね、わ、私、がんばるよ、たーくん」
「みぃー」
緑色の瞳を見つめる。
黒目が少し大きくなるのを見、私が「可愛い」と油断している隙をついたのか、突然ねこパンチがとんできた。
避ける術もなく、ぺち、と弱々しくほっぺに触れ、また「みぃ」と鳴く。
――やき、ってやつ?
「あ、ありがと、たーくん」
床に下ろすとたっぷりとため息をつかれてしまった。
そんな彼はご飯の時間のようで、朝日の差し込む廊下をのっしりと歩み目的地へ。
私も深呼吸をし、目的地へと足を向ける。
昨日お父さんが慌てて片付けをしていた、普段は物置として使っていたお部屋の前。
胸に手を当て、もう一度深呼吸。
冷たい空気が肺に入り、吐き出すときはあたたかい。
身体の中のものが入れ替わったようだ。
気を引き締め、目の前のドアを見つめる。さっきから何分見つめたのかな。もう木目の形まで覚えてしまっている。
いざノックをしようと手を伸ばしても、
――このドアの先に、壱くんが寝ている。
そう思うと手は引っ込んでしまう。
一恵さんに「よろしく〜」って言われたけれど、なにをどうすればいいんだろう。
ぐるぐると考えていると、ごはんを食べ終わった愛猫と再び出会い、またやきをいれられた。
「し、失礼します!」
さらにたっぷり時間をかけようやくできたノック。
返事はない。
――まだ、寝てるのかな……?