静かな住宅街には大きな家が建ち並ぶ。所謂高級住宅ってやつだろうか、そんな威圧感を放つ家がたくさんある。
母さんはその中の庭付き一戸建て、たぶん大きい部類に入るであろう家の駐車場に車を停め、俺を引っ張り出す。
外観からしてうちとは偉い違いだ。
話の通じない、如何にも危険そうな人が出てきたら俺はどうするべきか。母さんを引っ張って逃げる。これが最善か。
――と、いらない妄想をしている間に、母さんは迷いなくチャイムを鳴らしていた。
玄関横の郵便受けで見つけた《夏目岳司》の名。ナツメっていうんだ。
その下には《亜子》とある。例の娘ってやつか。
どんな子か思い描こうとしたが、思考を止めた。
どうせ今回も俺が原因で断られるのだろう。
一応今回の人はどんな人かとたった今玄関を開いた男を見る――が、突然のあくびに見舞われた。
口を押さえ、目頭に涙を溜めながら夏目岳司というらしい彼を再度見る。
きっと前の二人はこの態度が気に入らなかったのだろう。
しかし夏目岳司は優しく微笑み、「やあ、壱くんだよね。寝不足かい?」と尋ねた。
――“いい人”じゃん。
前の二人よりは気に入った。
そしていらない妄想をしてしまったことを、内心謝った。
「どうも。高柳壱っす」
下げた頭を上げ、岳司さんを見る。爽やかな笑顔だ。そして俺と目線の高さが同じくらいだったことに驚いた。