口を開けながらぼんやりと彼を見ていると、背中に鈍痛が響く。
ビリッと首元に電気が走ったような気がした。
「イテ、」
「ごめんなさいね、壱、いつもこうで。変にマイペースっていうか」
――怪我してるとこ叩くか? フツー。
オホホと高貴ぶって笑ってもそんな風には見えねえぞ。
高貴ぶるのをやめた母さんは、岳司さんの後ろをじっと見ている。この人には霊の類が見えているのだろうか。
「こんにちは、亜子ちゃん」
俺が怪訝そうな顔をすると、女の子の声でたどたどしい「こんにちは」が返ってきた。
「亜子、壱くんにも挨拶」
「こ、こんにちはっ」
岳司さんの陰からひょっこりと現れたのは、栗色の髪をした中学生くらいの女の子だった。
泣き出してしまいそうな瞳で見つめられ、とっさに彼女と同じ挨拶を返す。きちんと笑えていただろうか。
「あ、俺、壱です。難しいイチで、壱。きみは?」
「わ、私……あの、その、……あ、亜子、です」
答えると同時にまた岳司さんの後ろに隠れてしまった。
俺の位置からは目視不可能だ。
――なるほど。
先程の母さんは第六感を働かせたのではなく、視覚で彼女を捉えていたのか。