ルームミラーを一睨みすると、母さんが折れた。
「だって壱、この前『嫌』って。だから……」
「……あー、はいはい」
俺が悪かったですよ。
「しっかし、よりによって今日かよ」
「あら。部活休みもらったんでしょ?」
「休め令、な。」
腹の上に置いたリュックサックを撫で、車窓を見た。ゆったりと景色が変わっていく。
――“新しい人”の家、近くなのかな。
いつもなら高速道路やバイパスを使うため、一般道の見慣れない景色は新鮮だった。
「あ、そうだそうだ。娘さん、かなりシャイな子だからヨロシクねー」
「ヨロシクって、」
俺にどうしろと。
なんとなく流れていく栗の木を目で追ったが、数秒で見えなくなった。
「その子ね、すーごく可愛いんだよ」
「ふうん」
「壱より年下」
「げ」
すっげえ年下だったら嫌だなあ、とさらに眉間にシワを寄せた。
シワを寄せたついでに(関連性は謎だ)あくびが漏れる。
目的地に着くまで一眠りすることにした。――が、すぐに目的地に着いてしまい、浅い睡眠となってしまった。