母さんの帰宅により、ついに解放された、皆して「わいろ」と称するチーズケーキ。
それはまろやかで、しっとりしていて、なかなか美味なものだった。
だが、「わいろ」の謎はとうとう解けなかった。
まろやか美味なチーズケーキで腹を満たすと、将斗さんは帰ることになった。チーズケーキを食べるまでが用事だったらしい。
彼を途中まで送ると言いながら、俺は「わいろ」の答えを探ろうと将斗さんの隣を歩く。
しかし彼の軽いはずの口は重かった。
「亜子ちゃんに聞けばよろしい」
の一点張りだ。
「それで? 『わいろ』が本題じゃねえんだろ?」
お見通しだったようだ。
つくづく彼の観察眼には恐れ入る。
「――俺って、幸せになっていいんすかねえ……」
「中二病か?」
「中二……、いや。人の幸せを、ねこそぎ奪ったことがあるんです。そんな俺が、幸せになっていいのかなあって」
「いいだろ。別に。神は怒ったりしねえよ? あいつは人が幸せになることを重んじりやがるからな」
「ま、俺は神なんか信じねえけど」。将斗さんは右耳に触れながら言い捨てた。とても冷たい目をしていた。