ブラウン泥棒
 □■□■

 将斗さんに伝言を頼んだ彼――松本鷹雪は、亜子のことが相当好きらしい。

 何度か告白をしたらしいが亜子の答えは常に保留。

 彼女は「好き」という感情がわからない。曖昧すぎるその気持ちがわからないと言う。



「待ってるって。私が『好き』って気持ちがわかるまで待ってるって言ってくれたの。――でも、全然わかんなくて」

「曖昧だからな」

「私、どうすればいいのかな。ずっと松本くんを待たせてるの、悪い気がしちゃって」



 そんなの。

 嘘をついて、

「好きだよ」

 あるいは、

「嫌い」

 とでも言えばいい。それが一番簡単だ。

 しかし、それが一番傷付く。ふたりとも傷付く答えだ。



「……亜子は、嘘なんかつきたくねえよなあ」

「うん……」

「なら、待たせるしかねえよ。本気だからずっと待ってるんだろうし。待てねえようなら、亜子のことそこまで強く想ってねえだろ」



 人並みに恋愛論を語れただろうか? いいアドバイスはできただろうか?


 ――上手に恋をしたことのない俺が、そんなことを語る資格はあるのだろうか。



「ありがと」

「ああ……」



 しおれかけていた亜子のあほ毛がぴょこんと跳ね上がる。

 それから玄関の方を向き、「一恵さんかな?」とつぶやいた。あのあほ毛はアンテナかなにかなのだろうか。

 すぐに玄関の開く音がして、「ただいま」という声。母さんの声だ。



「チーズケーキ」

「うん、お腹すいたね。みんなで食べようね」



 思わずその単語が漏れ、慌てて口を塞いだ。顔も意識せずとも赤くなる。

 くすくす、と鈴の鳴るような笑い声がすぐ隣で聞こえた。

 恥ずかしくなって思わず睨む。



「おや、客?」

「一恵だよ。壱くんのママ」

「ああ、岳さんのワイフ」

「まだだってば」



 そんな会話をしながら、岳さんたちも俺たちに近づいてくる。


 1歩ずつ、幸せな音をたてて。


prev next // 目次
しおりを挟む


不器用 親バカ

49/102
人気急上昇中のBL小説
BL小説 BLove
- ナノ -