ブラウン泥棒
 茶髪の隙間から、銀色のイヤーカフスがぎらりと輝く。



「壱の傷は、それだったのか」

「……」

「ま、癒えるよ。おまえの傷。あの子といれば、きっと。治りはしないだろうが、癒えはする。俺が言うからには絶対な」



 将斗さんはどん、と俺の胸を突き、にこりと笑った。

 心底安心する笑顔。

 さすが――、保健室のやさしい先生。



「で? ほかには?」

「ああ、その、『恋』って――なんですか」



 辛いものですか、
 嬉しいものですか、
 悲しいものですか、
 温かいものですか、
 淋しいものですか、
 優しいものですか、

 胸が痛いものですか。



「     。」



 将斗さんが答えたものは、どれでもなかった。

 オレンジ色の夕日が眩しい。彼のイヤーカフスも眩しい。


 そのせいか。
 それとも、彼の答えのせいか。


 目を細めた。



「じゃあな、若造。おまえの心ん中、ちょっとわかったわ」



 やはり心の中を読めるのではないか。

 そんな疑問を抱きながら、道の真ん中に突っ立って将斗さんの背中を見送った。


 少しだけ心が軽くなった気がする。



「ほんっと、亜子の言う通りすげえ人だよ……」



 足取りも少し軽く、今歩いてきた道を戻る。

 Go ahead.
 歩みを止めるな若造。

 そう、言われたような気がした。


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不器用 親バカ

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