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嫌な夢を見た。
背中が鈍くずくんと痛む。
涙が頬を伝うような気配。冷たい。あんな夢で俺は、泣いた?
日の光が目に入り、眩しい。
額には嫌な汗が浮かぶ。息も乱れる。途切れ途切れに畳の匂いが鼻に入る。
――まだ過去を引きずっている俺はなんて弱いんだ。
「お、おはっ、おはようございますっ」
「あ?」
前髪を掴んだ手のすき間から見えた、栗色の髪をした女の子。
しばらく目があって――彼女が驚いたような顔をして、俺も驚く。
「ごめっ……あ、別に、その、……」
「怖い夢、見てたんですか?」
無意識に触れていた彼女のやわらかな頬。彼女が、俺の手を優しく包み込む。
畜生。なんでそんなにあいつに似た笑顔をするんだ。
舌打ちをしかけて、ぐっと堪えた。
「……起こしにきてくれたの? ――って、え?」
「あ、……ぅ」
「ちょ、お、おい」
触れたままの手に伝う冷たい一滴。
栗色の瞬きと同時に、また手が濡れた。