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デブの仕事を終えて報告に事務所へ行くと、受付にいたお姉さんが変わっていた。眼鏡をかけビシッとスーツを来たお姉さんが私を見て顔を顰めた。「どうして子供が」その呟きにあれっと首を傾げる。デブのところによく出入りしているから、それなりに周知されていたと思っていたが自惚れていたらしい。ここは子供が来る場所ではないと言ってくるお姉さんにボンジョルノ、とだけ挨拶して、いつものようにデブの部屋へ行く。お姉さんのギャング歴は浅そうだ。
デブの今日のおやつはピザだった。おやつというか食事というか。報告を済ますと一切れを恵まれて、私がチーズと戦う間デブはブフゥーと息を吐きながら書類を見ていた。

「ナマエ、何か言いたげだな」

ちらりと見られ、首を傾げる。私がデブに伝えることはあっただろうか。報告はしたし、他に……。受付のお姉さん変わったことくらいか。そう伝えると、デブは肉に埋もれた目を丸くしてから大笑いしだした。グラグラと机が揺れる。やめろ笑うな揺らすな。

「お前が殺したんだろう?変わるのは当然のことだ」

今度は私が目を丸くする番だった。まあ、今回の女はスタンド使いではないから問題は無いはずだ。そう続いた言葉には納得したが、それよりも前に。私がお姉さんを殺した?全く記憶にない。仕事以外で私が殺すことは滅多にないのだ、とすると仕事で?でも女性を相手にした仕事なんて片手で数える程で該当者はいない。ならば、お姉さんがなんらかの形で私を狙ってきて返り討ちにしてしまったんだろうか。やはり全く記憶にない。
お姉さんの一件に悩みながらアジトへ帰ると、中には常駐のリーダーと、ソルベとジェラートがいた。リーダーの部屋でなにやら話しているのを気配で察知する。定位置でじっと座っていると、トン、と目の前に足が置かれた。顔を上げると、ジェラートが私の前にしゃがむ。ピラリと私の前に、一枚の写真が突き出される。

「カンニャッチョ、この男に見覚えは?」

モノクロの写真は少し汚れていたが、その顔は確かに見覚えがあった。でも、誰かはわからない。ええと。どこだっけ。ふわりと横からゲンさんが出てきて、首を傾げる。誰だっけ。しかし私の交友関係はとても狭いから、写真で見覚えがあるということは……過去の標的だろうか。私がそうひらめくと同時にゲンさんがパッと手を叩き、人差し指を立てて私に向けた。ゲンさんの記憶もそうらしい。私は頷いた。
ジェラートは静かに私の様子を見ていたが、そうか、とまた次の写真を提示した。この男に見覚えは?あるある。多分さっきと同じで前殺した相手だ。次もそう。その次も、その次もそうだ。しかしこの標的たちはデブのところで請け負った仕事だ、どうしてジェラートが知っているのか。ああ、そのハゲはついこの間の人だ。何度も聞かれる質問にゲンさんは興味が無くなったらしく消えてしまった。それを見計らったように、ジェラートが言う。

「俺たちに、言えないことが?」

鋭い視線。半月型に細めているがその瞳は決して笑っていない。何かを疑われているらしい。なんの話しだろうか。

「……質問を変えよう。ギアッチョに言っていないことはあるか?」

当たり前だ。ジェラートは何を気にしているんだ、じっと真意を探ろうと見つめる。しかし残念ながら私には意図を察する脳はなかった。何故、こんな尋問のようなことをされているのか。

「……ふうん。そうか。ギアッチョにも言えないことなのか」
「ジェラート、それまでだ」
「なんだよリゾット。お前は甘ちゃんだからこの犬を信じようってんだろうが、」
「ナマエ」

突然入ってきたリーダーの赤い瞳が私を見る。こちらも感情が見えない。なんだ、と首を傾げた。

「ギアッチョとはうまくやっているか?」
「Si」

もちろん、同居人としていい関係を保てていると思っている。頷くと、リーダーもまたひとつ頷き、それでいい、とだけ言った。ジェラートは「カンニャッチョがそんなに可愛いかよ」と毒づく。うるせえわんわん。結局、あの尋問はなんの意味があったのだろう。

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