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ギアッチョは激怒していた。仕事上がりだと言うのに元気な事だとぼーっと聞いていた私に更に激怒した。机が壊れチェストにヒビが入った。そのくらい激怒していた。でも正直私は何故そこまで怒られねばならないのかよくわからなかった。

「大人しく出来ねえのかテメーはよォ〜〜!ホルマジオのとこが気に入らねえっつうのはわかるがよォ、ちったあ我慢して待ってろ!!」

そんなこと言われたって。不満げな私の顔が気に入らないのか、ギアッチョは私の頬を引っ張った。このクソガキ!という声にイー!と威嚇すると、この野郎!と抱えあげられおしりを叩かれた。お尻を。叩かれた。なんだと。ぐるんと足を回してギアッチョの顔に向かって蹴りつける。ぶほっとまともに当たったギアッチョが私を離し尻もちをついた。その隙にソファの裏に回ってじっとギアッチョを睨む。少女のデリケートゾーンをよくも。

「お前〜〜ッ、クソ!」

睨み合いの末、ギアッチョは何も持たずにドスドスと足音を立てて家を出ていった。ドアを足で蹴り開けて、舌打ちをして。ドアはカラカラと音を立てる。いなくなったことを確認してソファの裏から出る。ドアを確かめると蝶番は壊れていなかった。よかった。ヒリヒリするお尻を後ろからゲンさんがつんつんとつついてくる。ギアッチョがいる間は一切出てこなかったのに。はあ、と感情を流すつもりで息を吐いて、私は当初の予定通り寝ることにした。理不尽に怒られて少しムカつくから、今日はベッドで寝てやる。どうせ帰ってこないだろうし。帰ってきても、ソファで寝ればいいんだ。そう、思っていたのだが。



翌朝目覚めると、身体は温かいものに包まれていて、目の前に見知ったTシャツの柄があった。
手を伸ばしてぎゅうっと布を掴むと、柄が歪み、私の体を包むものが身動ぎをした。

「……うる、せ……ねろ……」

乱雑に頭を抑えられ、顔が胸板に当たる。昨夜の私の予想は大いに外れて、ベッドで寝てやった軽い意趣返しはジョブにもならなかったらしい。ギアッチョにすっぽりと抱き枕代わりにされている私の身体の大きさでは納得だ。昨日の私は知恵が足りなかった。
鼻が押し潰されて苦しいので顔を振って拘束から抜け出す。もぞもぞと体勢を変えて起き上がった。見下ろすと、ギアッチョは着替えて寝間着姿で、石鹸の香りがするから昨夜ちゃんとシャワーも浴びたのだろう。私を毎度シャワールームに放り込むことも考えて、ギアッチョはやはり綺麗好きだ。匂い消し、という意味もあるのだろうけど。ゲンさんがふわりと出てきて、眠るギアッチョの頬をつんつんとつついた。ギアッチョが嫌そうに顔を背けるが、ゲンさんは何が楽しいのかそちらへ移動し続ける。そうして数分後、

「うるっっせえ!!」

とギアッチョがゲンさんの指を掴みそのまま放り投げた。しかしゲンさんはふわっと飛ぶだけでまた楽しそうにギアッチョの頬をつつこうとしている。さては投げられるの楽しかったな。
しかしギアッチョはチッと舌打ちをして、のそりと上体を起こした。横に座る私を見下ろし、あー……と疲れたように息を吐く。寝癖でぼわぼわの天然パーマが揺れた。

「起きたのかよ」

うん、と頷く。ギアッチョはまだ寝てていい。ゲンさんがちょっかい出してごめんね。ゲンさんは構われないから飽きたらしく、姿を消した。

「…………お前、なんで……チッ……ちげえな……」

ギアッチョは寝起きの脳を動かすようにぶつぶつと話し、時折舌打ちをして繋がらない言葉を並べていく。黙って聞いていると、トッとおでこを指で弾かれ、油断していた私はそのまま後ろにぱたんと倒れた。何をするんだ。起き上がり、おでこを抑えてムッと見る。ギアッチョは眉間に皺を寄せていた。眼鏡が無いから目は睨むように細められている。

「どうしてホルマジオの家から逃げた?なんかされたのかよ」
「されてない」
「じゃあなんで逃げた」
「逃げてない」
「あ?脱走か?言葉遊びしてるわけじゃあ──」
「逃げてない。帰っただけ」

また苛立ち段々大きくなり始めた声が、ピタリと止まった。
ぽかんとギアッチョの口が開いたまま、呆気に取られたように私を見ている。なんだ。首を傾げると、ギアッチョはぐっと目を閉じた。ギアッチョの手が私に伸びる。
スパンッ。私の頭が軽く叩かれた。ぐらりと私の身体がまた倒れる。今度は頭か。頭を抑えて起き上がり、ギアッチョを睨んだ。

「だっ……グゥッ〜〜……犬かオメーは……ッ!」

ギアッチョはわけのわからないことを言いながらごろんと横になり、そのまま動かなくなった。……仕事で疲れていたのかな。実際その日はアジトにギアッチョは来ず、今回ギアッチョとペアだったというプロシュートは報告書を持ってきていたが、何故かアジトに入るなり私のおでこをピンッと弾き、私はやはりおでこを抑えて彼を睨むことになった。デコピン、流行っているのか。

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