17.5

『おい、早くしねーと死ぬ!』

ギアッチョが言い放ったその言葉はメローネに深い衝撃を与えた。過去今までにギアッチョはそんな弱い言葉を吐いたことなんて無かった。「そんな柔な奴はいねえよ」と鼻で笑われても、ギアッチョは必死な様子でメローネたちを急っつく。その姿もまた強く瞼に焼き付く程度に衝撃を受けた。そして、向かった部屋でリゾットが白い顔をしてじっと見つめていたベッドの中、小さなナマエの様子に、メローネは頭が割れるかと思った。それほどに信じられなかったのだ。ナマエは狂犬だ、従順な犬だ、そういった噂を聞き信じていた。確かにそれは事実で、ナマエは自らに仇なす相手には狂犬となりその他にはまるで機械のごとく従順な犬であった。腹にナイフが刺さろうが任務は遂行しうめき声ひとつ上げず、涙ひとつ滲ませない。そんなナマエが、
────死にかけ、ている?

「ナマエって、死ぬの?」

メローネの声に、のったりとリゾットが振り返った。リゾットも、メローネと同じ目をしていた。ナマエの死を信じていない目だ。だが、揺れていた。その揺れがメローネに現実を見せた。
真っ先にジェラートが動いた。次にソルベが、2人はナマエの身体を見て考察していく。「毒か?」「毒物反応は無かった」「熱が高いな」「ウィルスかもしれねえ」「変なもんでも食ったのかこいつ」「俺らと飯も食わねえ警戒心だぞ、そんな馬鹿じゃあねえはずだ」「ふうん……ギアッチョ、こいつどこで拾った?」ジェラートの目が部屋を覗くギアッチョに向けられる。メローネは気づいた。リゾットたちからは見えていないだろうが、ギアッチョの足元、彼のズボンの裾をぎゅっと握りナマエのスタンドがそこにいた。まるで、ギアッチョに不安をぶつけ甘えているように、ナマエと同じくらい小さなピエロが隠れている。

「公園だ、俺の家から近えとこの」
「ああ、あそこか。──なんもねえとこだ、スタンド攻撃じゃあねえのか」

ホルマジオが顎に手をやり、最近のナマエの仕事相手を思い出しているらしい。ブツブツと聞いたことがあるようなないような名前を呟いている。だが、ナマエはポルポのお気に入りだ。ポルポが個人的に使った相手となればいくら情報戦のジェラートでも見つけるのは難しい。

「……栄養失調」

ソルベがぽつりと言った。

「…ソルベ?」
「下肢の浮腫、口内及び肌の乾燥、それにこの傷──俺は覚えてるぜ、これはこの前のマランドの仕事先でこいつが紙で切っちまった小さな傷だ、それがまだ治ってねえ」
「なら、栄養失調による免疫力の低下で、これはただの風邪か?」
「喉の腫れがでかいが、インフルエンザっつーわけでもねえ」

ほう、と誰かが息を吐いた。もしかしたらメローネかもしれない。ただの風邪なら話は別だ、ナマエが死ぬことは無い。ジェラートが点滴の準備をし始めた。リゾットがギアッチョを見て言う。「大丈夫そうだ、安心しろギアッチョ」ギアッチョが唇を噛んで小さく頷いた。ピエロはナマエのそばに行かず、怯えるようにギアッチョにくっついている。

「……ギアッチョ、どうしてナマエを見つけたんだ?」
「家に帰ったらいなかった。少ししてこいつが呼びに来た」

こいつ、とギアッチョはピエロの頭をわし掴む。そのままひょいとナマエの方に放り投げた。ナマエのスタンドは、ふよふよと宙を歩きナマエの隣にそっと寄り添う。「…………ナマエと、暮らしてるの?」ギアッチョは返事の代わりにチッと舌を打った。ホルマジオがあんぐりと口を開けてこちらを見た。リゾットも無表情のままギアッチョを見て、ソルベとジェラートはニヤニヤと笑いだす。先程までの空気が嘘のようだ。「ロリコン?」「ちげえ!!」

「児童ポルノじゃあないか、ギアッチョがそんな趣味だったなんて…残念だよ」
「ちげえっつってんだろテメエ!!!」
「でもスタンドが懐くくらいの仲なんだろ?もう寝た?」
「メローネテメエエエエェ!!!!」
「うるせえ!!!!」

ブチ切れたギアッチョのホワイトアルバムから逃げ、ソルベから部屋を追い出される際にメローネはベッドをちらりと一瞥した。ナマエの白い顔が、やけに浮いて眩しく見えた。

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