10

グサリ、肩に刺さったナイフには微弱な効果の毒が塗られていた。頬に飛んだ自分の血をピッと指先で弾き、ナイフをそっと抜く。ザリザリ皮膚が削られる。刃こぼれが酷いらしい、その分痛みと質も悪い。毒は効果は弱いが即効性のようで、だんだんぼんやりとした感覚になる傷口に失敗した、と判断した。油断していただろうか。心配そうにゲンさんがそっと傷口に手を当て、シュウウと瞬く間に塞いでいった。しかし毒は体内に残る。この日、行ったメンバーの中で怪我をしたのは私ただ1人で、任務は遂行出来たがその事実になんだか無性に苛立った。

揃いのタバコを吸い文句垂れながら酒を飲みに行くらしいプロシュートとホルマジオの背を見送る。血に濡れた上着を着て隠し、血の匂いをどうしようかとぼうっと悩むまま公園に足を運ぶと、静かな公園のベンチに1人、目立つ髪色が座っていた。彼もここが気に入ったんだろうか。ぼやけた頭ではあまり考えられないまま芝生の端の方に腰をかける。すると、ガタン、と音がして、ベンチの上に足が乗っていた。

「なんっっでそうなんだよクソが!!」

地面がひんやりと凍り、皮膚が冷たさに驚き痛んだ。近づいてくるギアッチョを見上げると、今度は首根っこを持たれ持ち上げられた。ぐえ、首がしまる。痛い、と手を叩くと、今度は小脇に抱えられた。これはこれで肩が痛い。

「いい加減わかれっつうんだよクソガキ! ……あ?なんだ、血……ヘマこいてんじゃねえ!!」

本当にそのとおりだ。あんなナイフを、毒塗りのものを受けるなんて。下手したら死ぬんだ、ほんとう、何をやっているんだろう。毒の抜き方なんて習ってない、このまま放っておいて大丈夫なんだろうか、もしかしたら私は死ぬんだろうか。
ギアッチョは私の怪我を知りながらも体勢を変えず、また彼のアパートへ入る。どさりと落とされたソファに、ああ、昨日ぶりだ、血がつかないよう身を捩った。机の上には、持ち帰られたピザがあった。まだ多少暖かそうだが、チーズが伸びることはなさそうだ。ギアッチョはおら食え、と私の口にピザを1切れ突っ込んだ。簡単にギアッチョの手に収まる1切れも、私の口には当然大きい。噛みちぎると、べちゃりとトマトソースが服に落ちた。ギアッチョはそれに舌打ちをしたが、何も言わずただ食べる私を見ていた。味は、よくわからなかった。

それから食べ終えたあとの記憶が無い。おそらく、気絶でもしたんだろう。久々に血を流したし貧血かな。起きたとき、私はまたあのよくわからないロゴのTシャツを着せられていて、傷口にはしっかりと手当がされていた。そして場所はまたあのベッド。今度はソファではなくベッドで寝かせてくれたらしい。一晩中付き添っていたのか、ゲンさんが心配そうに私を見ていた。手足の痺れも特になく、視界も明瞭、どうやらゲンさんは私の治療をしてくれたらしい。本当なんでも出来るな。

「おい」

着替えてリビングへ行くと、ギアッチョが新聞を見ながら片手間にパンを投げた。受け取り被りつく。あぐあぐと小さな口で噛みながら様子を窺う。ギアッチョって新聞読むんだ。似合わない。私は当然新聞の見出しさえも読めないからちんぷんかんぷん、一体何が書いてあるのやら。そして、ギアッチョは何を考えているのやら。
パンを食べ終え、鞄からお金を出して机の上に置く。ギアッチョはそれをちらりと見ただけで何も言わない。仕事に行かねば、と外に出ようとすると、おい、とまた声をかけられた。

「っわ、」
「持ってけ」

鍵を投げられた。小さな鍵だ。手の中に収まったそれを凝視する。ギアッチョが舌打ちをした。恐る恐るそれをポケットに入れて、ギアッチョの家を出る。ギアッチョがくれたパンは、なんだか甘かった。

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