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何故私は今ギアッチョの家でオレンジジュースを飲んでいるのか。

ギアッチョにきたねえきたねえと怒られながらも全身くまなく綺麗に洗われた。ほかほかと温まった身体をソファに投げられ、ジュースを渡され、ギアッチョは何故かそのまま家を出ていってしまった。私の服を入れたビニール袋を持って。
何故。
私はどうすればいい。おかげで下着もないため、着せられたTシャツ一枚でソファに座り大人しくジュースを飲んで待つ。足先がスースーする。まさかとは思うが、幼児趣味だったりするんだろうか。だとしてもあんなに怒るか普通。いや、普段から何物にもキレているギアッチョだし……可能性が無くもない、けど、もしそうだとしたら私は今すぐここから逃げた方がいいのでは。そう思い立ち上がるが、すぐにまたソファに戻った。安物なのか、私の重さでさえギシリと音を立てる。こんな格好で外に出るなんてそれこそ危険だ。しかしここでゲンさんを使っても、己の手を見せることになるから使いたくない。もしテを出されそうになったら全力で抵抗して、まあ、最悪殺してしまえばいいか。リーダーは怒るかもしれないけど、まあ、いいか。ジュースを飲むと、柑橘の刺激に喉が少し痛んだ。

それから数時間後、ようやくギアッチョが戻ってきた。手に持つビニール袋の中には、綺麗になった私の服が。おらよ、と乱暴に渡されたそれを見て、ギアッチョの顔を見ると「何見てんだゴラァ!!」と怒られた。怖い。幼児趣味ではないらしい。
ギアッチョは空になったコップを見てチッと舌打ちをし、キッチンへそれを持っていく。その後ろ姿をそっと見送り服を着替えて家を出ようとすると、「大人しくしとけ」という心底低い声が聞こえた。怖い。やはり幼児趣味かもしれない。脱いだTシャツをどうすればいいかわからず、とりあえず畳んでビニール袋の上に置きまたソファに座る。わざわざコインランドリーに行ってくれたんだろうか。洗剤の匂いがする袖をくんくんと嗅ぎ、回る洗濯機の前で待つギアッチョを想像した。もしかしたらギアッチョは洗濯機にもキレたのかもしれない。怖い人だ。

ガチャンガタガタゴトン、なにやら物騒な音が聞こえてくるものの大人しくしていること数分、ギアッチョが湯気の立つお皿を持って出てきた。眼鏡を若干曇らせて、ドンと机の上にそれを置いた。お皿の中は真っ黒だ。

「食え」

よもやこんなものを食わされるとは。本気か、とギアッチョを見ると、奴は「あぁん?文句あんのかぁ!?」と椅子を蹴った。怖い。仕方なく席について手に余る大きさのフォークで黒いものを刺す。硬い。持ち上げると、それはマカロニの形をしていた。焦がすって言ったってここまで……炭じゃん……。おそるおそる口に入れると、焦げの苦味が酷く、匂いも酷かった。うぐ、と一度噛んだだけで静止する。しかしギアッチョは食えという。殴られたくはない。ついでに出来れば殺したくない。必死で唾液を出し飲み込む。しばらくは硬いパンかデブが奢ってくれるご飯しか食べていなかったからか、味覚が発達してしまったようだ。前なら不味くても食べてたのに。ひたすら我慢して嚥下を繰り返す。新手のいじめなんだろうか。元々あまり食べずとも平気だが、この味で食欲もない。必死で15口ほど詰め込むと、もう無理だと思った。フォークをそっと置いて、口の中に残る苦いイガイガするものを唾液で無理やり飲み込む。不味かった。
私のその様子を見て、ギアッチョはまた舌打ちをするとオレンジジュースを持ってきた。机に置かれたそれをガブ飲みすると、ギアッチョがまた舌打ちをした。あんたが不味いもの作るからだよ。コップに口をつけたままムッと見ると、ギアッチョは寝室の場所へ行きタオルケットを1枚持ってきた。綺麗に畳まれたタオルケットをソファの上に置いて、私の残したお皿をキッチンへ持っていく。ガチャンッドシャンッとこれまた物騒な音が聞こえた。お皿は割れてないだろうか。
すぐにキッチンから戻ってきたギアッチョは、部屋の電気を消してそのまま寝室へ入っていく。真っ暗の中に私を置いて。…………ここで寝ろと?

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