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暗殺チームが出来て一年が経った。メンバーは家族のようにアジトで過ごしている。今までのギャングをちゃんと見たことが無かったからわからないが、随分ほのぼのしている気がする。とはいえ仕事は殺伐もいいところなんだけど。
そんななんちゃって家族チームで一年間私は何をしたかと言えば、仕事しかしていない。アジトへ行きぼーっとして帰るか仕事して帰るかのルーティンは慣れたものだが、だんだん皆が仲良くなっていく中気遣うように見られるのはどうも居心地が悪い。とはいえ仕事は仕事、部屋の隅、棚と机の間の空間は私のものとなった。
仕事はまあ順調、下手をこくこともなくサクッと殺す技術が上がったような気がする。というわけでそちらは問題はないが、最近ちょっと私生活方面で問題が出てきた。

「さっさと払え!」

自宅のドアの前で構える腰の曲がったおじいちゃんにとりあえず有り金を渡す。どうも最近家賃が上がっているのだ。いくらかわからないからその時持っているお金を見せると、大体すべて掻っ攫われていく。一週間に三回のペースは管理人のじいちゃんは来るし、それがもう二週間ほど続いている。今日も全部持って行かれたし、かなり高騰しているようだ。これがぼったくりかわからないが、今まであのじいちゃんは優しく会った時は毎回にこやかにあいさつをしてくれていたのでそれはないと信じたい。しかしこれが結構由々しき事態。というのも、私は基本お金を持ち歩く性質だ。毎回渡されるお金がコインなのもあるし、そんなに量が多くないのもあって大体靴の中に入れるとか古典的な方法で持ち歩いている。なんだけれども、つまりは基本全財産を差し出すのだ。アホなのはわかっているが、わからないんだから仕方が無い。そんなわけで全財産は大体持って行かれるし、私は今めっちゃ金欠。パンを買うお金もあまりないので、一個買ったらそれを三日かけてちみちみ食べているものの、マジでお金がピンチなので明日仕事が無かったら食べるものがないのだ。これが結構しんどい。しかしこういうとき助けてくれるおじさんはもうお墓の中なので耐えるしかない。
そうして翌日、私は耐えた結果仕事が来てお金が入った。よっしゃあ、と内心ガッツポーズして帰りに食べ物を買おうとした。

「聞いたかい?あそこのアパートのじいさんの孫、亡くなったらしいよ」
「ええっ、あの人孫なんていたの?」
「たまに来ていたじゃあないか、あのそばかすの少年。この前の隣町でのギャングの抗争に巻き込まれたらしい」
「まだ若いのに、お気の毒ね」

イタリアでも井戸端会議は行われる。それを聞いたのは本当にたまたまだったが、なるほど、と納得する要因になった。あのおじいちゃんはつまるところ、私に出て行って欲しいのだ。
確か、あのアパートはおじさんが用意してくれたものだ。多分そっちの筋の紹介だから、あのおじいちゃんも私がギャングなのも知っている。殺される可能性もあるのにあんな態度を取るのは孫に会いたいからか、殺されてもいいからギャングが嫌なのか。どっちもだろうね。別に殺しはしません。井戸端会議に夢中な主婦の横を通り抜けて古びたスーパーへ入る。サンドイッチを手にレジのお姉さんにお金を見せると、お姉さんはにこりと笑って「グラッツェ、気をつけてね」とコインを数枚とって袋に入れたサンドイッチを渡す。私もグラッツェ、と返し店を出て部屋へ戻ると、あのおじいちゃんは今日は来ていなかったものの話を聞いた後だと居心地が悪い。部屋の中でサンドイッチをかじり物を整理する。いい加減お金も危ないし、出て行って欲しいなら出て行った方がいいんだろう。
私は家具を持っていないし、服も仕事着と普段着を併用しているから2着ずつのみ、あとは私に関する情報の書かれた書類があるだけなので身軽もいいところだ。布団とかそういうのもゲンさんが必要なときだけ出してくれるのでそれで十分だったし。ゲンさんに頼んで小さなカバンを出してもらい、その中に少ない所持品を入れる。枕代わりにもなって丁度いい。明日ここを出よう。次に住む場所は決まっていないが、別にホームレスでも仕事さえあれば生きていけるので構わなかった。私が殺したわけじゃないけど、ごめんねおじいちゃん。

翌日、私は鞄を持って家を出た。下の階のおじいちゃんの部屋をノックすると、おじいちゃんが「何しに来た!」と叫ぶように言う。部屋の鍵を差し出すと、おじいちゃんは乱暴に、奪うように受け取った。そしておじいちゃんは手を差し出す。なんだ、と見ると「金を出せ」と言った。……マジかあ。渋々今持っているお金を見せると、やはり全て持っていかれる。今朝、ちょっとだけだけど昨日のサンドイッチ食べれてよかった。グラッツェ、とだけ言いアパートを出る。おじいちゃんは何も言わなかった。
荷物を持ってアジトに行くと、真っ先にイルーゾォが鏡の中から好奇の目で見つめてきた。そちらを見ると彼はぴゃっと隠れる。次にメローネが「何?新しい武器?」と興味津々で来たが、否定するとつまんねーといなくなった。その他特に何もなく一日が終わる。今日は仕事がないらしい。明日はあるといいんだけど。
身寄りもなく、助けてくれるおじさんもおらず、人気の少ない私の住居地区で新たな住まいが見つかるはずもなく。その日私は大人しく公園の芝生の上で寝た。

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