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公園で寝始めて3日が経った。仕事がない。この3日間仕事が綺麗にない。つまりお金が入ってこない。流石に空腹を訴えるお腹をさすり今日は仕事がありますようにと願いつつアジトへ向かう。今のところ荷物を盗られることもなく普通に過ごせてはいるものの、いい加減シャワーを浴びたい。お金が入ったら私が真っ先にすることはシャワーを浴びてなにか食べ物を食べることだ。こういう時に限ってデブからの依頼もないんだから人生ままならない。
空腹からかわからないが、少しぼーっとする頭を抑えてアジトに入る。今日はリーダーしかいなかった。ぼーっとして過ごし、リーダーからの昼食を断ってまたぼーっとする。一瞬あまりにも空腹なので断るのを迷ったが、お金が無いのでどうしようもない。世の中マジで金。時は金なりというのなら今私がお腹空かせているのはおかしいだろう。どうして時給制じゃないんだ暗殺チーム。しかし私の年齢と見た目でバイトを雇ってくれるところはどこにもないのだ。そうして今日も仕事がないまま一日が終わった。途中ソルベがジェラートと喧嘩したらしく、ワインを飲みながらチーズを齧っていたのがちょっと羨ましかった。

今日も今日とて公園で眠る。お腹が空きすぎて寝ている間にお腹と背中がくっつくんじゃないかと思う。くっついたら死んじゃうのかな。そういえば昔餓死しかけたなあ。あのときのことを思い出せば、ボコボコに殴られていないだけマシだし、あのときの方がもっと酷かったので耐えられるような気がする。ボス、早く誰か殺したい人を見つけてください。いっそのこと私が教会とかに行ったほうがいいんだろうか。いや、多分拒否られそう。私の穢れを見抜かれそう。
ぐう、となるお腹をさすり落ち着けーと寒さを耐える。お腹が空くと寒くなるし、寒くなると眠くなる。しかしこんな街中で安易にゲンさんも出すことも出来ない。鞄を頭に、自分の体をぎゅっと抱きしめて夜を過ごす。そうしているうちに自然と眠りについた。




「…………」

えっ。
目が覚めた。天井が目に入る。固いが地面に比べれば柔らかなベッドの上で私は寝ていた。服もいつも着ていたものではなく、私には大きすぎるほどのTシャツに変わっていたし、仕込んであったナイフも銃も全てない。ベッドの横には私が持ち歩いていた鞄があり中身も変わっていなかったが、そんなことよりもこの状況が問題だ。
ぼんやりとした思考を振り払いベッドから降りる。少しふらふらしたが動ける範囲、狭い部屋には生活感があまり無かった。申し訳程度に区切られているが、扉はなく部屋と部屋、壁と壁の間にぽっかりと空いた空間から覗き込むと、置いてあるソファに見知った顔がいた。

「あ?起きたのかよ」

乱雑な口調、赤い眼鏡の下の瞳は基本怒っているような目をしている。青色のような淡い髪は天然パーマなのかくるくると渦が出来ている。そう、ギアッチョだ。暗殺チームの。知ってるぞこの人。そりゃそうだ、ほぼ毎日顔を合わせている。
ギアッチョは一つ舌打ちをしてから、固まる私を放置して部屋の中に設置されているキッチンへ行き何やらゴソゴソと調理をはじめる。ど、どうすればいいんだ。もしかして、このシャツもギアッチョのものなのだろうか。ぎゅう、と胸のあたりを握りしめるとよくわからないロゴが歪んだ。寝室よりはほんの少し広いようなこの部屋にも生活感はあまり無い。一応机とソファと冷蔵庫とテレビが置いてある。埃があまりないところを見ると、彼は綺麗好きなんだろう。
ガチャガチャと色々音を立ててしばらく、ギアッチョがドン、と机の上にお皿を置いた。中には見た目クリーム色のリゾットのようなものが入っている。

「おい、食え」

ギロリと鋭い目つきで見られ、おそるおそる席につく。食べていいものか迷ったが、さっさとしろと催促されたのでスプーンを握り少量を口に入れる。

「…………んだよその目はよォ!」

まずいって目だよ。しかしそれは口に出さずにもう一口食べる。イライラしながらもギアッチョは大人しく私がゆっくり食べるのを見ていた。居心地はあまり良くない。それにまずい。お米が半生で、硬い。しかし、久々の食べ物は私の心を潤した。空腹は最高の調味料です。
ちょっとずつちょっとずつ、噛むのには硬いので直接飲み込みながらあぐあぐと食べ進めていく。が、私には量が多く半分あたりでお腹いっぱいになってしまった。もう無理、とギアッチョを見ると、彼は眉間にしわを寄せたものの、舌打ちをするだけだった。

「テメェ、なんであんなとこで寝てた。家はどうした。っつーかよォ、偉い無防備じゃあねェか?普段あんな警戒心丸出しの癖して世の中ガキ誘拐もありませんってか、ア!?テメェなめてんのか!?クソッ!」

驚くほどの怒り具合になんと言えば良いのやら、とまごつく。まあ、確かに誘拐事件とかはアレだけど、私暗殺者だし大丈夫かなって…ゲンさんもいるし……。口には出さずに心の中で言う。

「なんか喋れよオメェはよォ!それともなんだ?話せねェってか?俺みてェな奴とは話す義理がないってかァ!?」
「ち、ちがっ」
「話せんじゃねェか!ならさっさと最初っからやれっつーんだ!」

ガン、と机が蹴られる。びっくりした。肩が思わず跳ねて、ぎゅ、と目を瞑ってしまう。と、途端にギアッチョは静かになった。おそるおそる目を開くと、ギアッチョは先程よりも深くシワを眉間に作っていたものの、悪かった、と小さく言う。こ、こちらこそ……。

「……チッ。それで、なんであんなとこで寝てた。家は」
「……出てきた。お金、ない」
「金だァ?何に使ったってんだ?」
「……パン?」
「パァン!?」

どんだけ食ってんだオメェは!?驚き半分キレ半分で言われ、一日一個と言うと更にハァ!?と言われる。いくらだ、と聞かれかなり昔に言われた金額を言うと、途端にギアッチョの額にピキピキと青筋が浮かぶ。

「思っくそぼられてんじゃあねェかテメェ!!」

アホか、そんな値段のパンがあるわけねェだろ!勢いよく言われた言葉にびっくりする。ぼ、ぼられていたの……。マジか……。呆然とすると、ギアッチョは「俺だってある訳じゃあねェがお前はジョーシキが無さすぎんだバァカ!」と怒り私の額にデコピンをした。めっちゃ痛かった。

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