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黒一色で何も見えない暗闇の世界。小さな泣き声が聞こえた。おとうさん、おかあさん。悲痛な泣き声に心が痛む。早く迎えに来て。もう嫌。どこからも助けは来ず、私はただ聞いているだけで、だんだんと私の頬も濡れていく。ぽたりと雫が落ちて、にゃあんと声がした。


…………にゃあん?

「ウワッ!?」
「ニャアッ!」
「いてえっ!」

飛び起きた。私の胸の上にいたらしいクルックシャンクスことクロが驚き私の胸に爪を立てる。バサッとなにかが落ちた。朝から負傷してしまった胸を摩り、びっくりさせてすみませんでしたとハーミーの飼い猫様に謝罪。何してんだ私は。

「おはようナマエ。すごい格好よ」
「ジニーちゃんか…おはよう」

すごい格好?と自分を見下ろすと、よれたシャツにくしゃくしゃのスカートに寝癖姿。頬が少しピリッとするのは多分、クロかな。いつ寝たっけ……。あくびをしながら落ちたローブを拾う。ソファの下には脱いでいた靴が揃えられており、その上に靴下とネクタイが畳んで置かれていた。私こんなことしたっけ…?してねえな。確実にしてねえわ。昨夜あれほど乱雑に積まれていた本も心無しか整理されている。ハリーがやってくれたのかな…申し訳ない……。

「あれ、そういやハリーは?」
「知らないわ」

大広間へ行くであろうジニーちゃんは近くの本を取り怪訝そうな顔で「水中人はペットには無理よ」と言った。なんじゃそれ、と本の表紙を見せてもらうと"他種族の飼い方 〜水中人編〜"という本が。そんな本も読んだっけか…?一晩たって全て忘れてしまったようだ。ほら…モンキー記憶力雑魚だから…。なお水中人にも人権が存在するはずだ、確か。やめようね人身売買とか。朝からシリアスチックな話題になってしまった。

「ハーミーとロン知ってる?昨日の夜連れていかれてからわかんないんだよね」
「さあ…私は見てないわね。大広間行かないの?」
「行く行く。ジニーちゃんは?」
「ナマエを待ってたのよ」
「おっと失礼」

最近ちょっとずつお姉さんっぽい雰囲気になってきたジニーちゃんにへらっと笑って後を追いかける。もしかしたら皆先に行ったのかもしれないし、とりあえずご飯食べよう。寮の出口でクロにいってきますと手を振るとシャー!と威嚇されてしまった。悲しい。

ハリーの口に何かを詰めない食事も久々だなあと朝からフライドチキンと野菜のスープをもりもり食べる。昨日カロリー使ってるはずだから補充。しかし食べ終わってデザートに手を出して、それを食べ終わってもトリオの中の1人も来ない。ジニーの恋愛相談とか試験のこととかぼちぼち話して、途中からディーンとシェーマスが来て危険スポーツと対ドラゴンのときのハリーの飛びっぷりの談義が繰り広げられていたが、待てども待てども来なかった。

「失踪事件か?」
「先生たちは騒いでないわ」
「もう会場に行ってるんじゃないのか?」
「そこまで置いてかれたんなら流石にショックを隠せない」

チクタクチクタクと針は進んでいく。ギリギリの本当にギリ、ギリよりのギリってくらいまで待ったけど結局来なくて、私はディーンたちに「もう待てない!行くぞ!」と引っ張られ会場の湖へ向かった。この有無を言わさない連行久々だわー。
しかし、湖は予想外なことになっていた。

「もう時間ギリギリで上の方しか空いてないじゃない!」
「は?湖?さっっっむ!!???」
「聞いてるのナマエ!」

聞いて、聞いてる、よ、と歯をカチカチ鳴らして言う。やばいめっちゃ寒い。ローブをぎゅってしても全然効かない。湖の近く舐めてた、本当に寒い。めっちゃ帰りたい。ジニーちゃんの言う通り、観客席はもうほぼ満員状態で上の方の席しか空いておらず、でも私は水面に近ければ近いほど寒いと思ってるので大人しく階段を上がった。水辺の寒さやばい。1番てっぺんまで上がったところでも水の湿った空気とはまた違う、冬のナチュラルな寒さが襲ってきてもう俺はダメだ……。

「ハリーが来たぜ!」

ディーンがわざわざ教えてくれたけど私には背伸びをして入口付近を見る余力もない。寒い、寒い、ひたすら寒いと縮こまり、なんとか湖が見えるあたりをキープした。首をこれ以上出せません。多分今の私の耳たぶ氷より冷たいよ。ふー、ふー、とローブの下でもぞもぞと自分の手に息を吐きかけながら待つこと数分。第2の課題が始まり────

「とびこっ、は!?」

飛び込んだよ!?ねえ泳ぐの!?やっぱり泳ぐの!?知ってたけどこの寒さで!?人間じゃねえよ……。私は何かを食ってから飛び込んでいくハリーを遠い目で見守った。栄養剤とかかな。薬物でないことを祈るぞ。ハリーはそんな事しないって信じてる。そんで頑張れハリー、多分ハーミーもロンもどっかで応援してるから。
第2の課題の内容は、奪われたものを1時間以内に奪還せよ、ということらしい。すげえアバウトな説明だったからよくわかってないけど、ハリーが奪われたものっていうとあれかな。眼鏡かな。でもさっきつけてたっぽいよな。そういえばハリーの眼鏡ってスペアあるのかな。とかなんとかぐるぐるどうでもいいことを考え、待ち時間暇になったんだろうジニーちゃんたちがまた危険スポーツの話をし、そうしてようやく第1の奪還者が帰ってきた。1着はハッフルパフプリンスことセドリック・ディゴリー選手です!わあっとホグワーツ勢が沸く。しかし私はそれどころではなかった。

「……チョウ?」

ディゴリー氏脳での中には、チョウがいた。正真正銘チョウ・チャン。レイブンクローのクールビューティー。………人、だ。嫌な予感がする。これ、奪われたものって、

「ハーミーと、ロン……?」

昨夜からいない2人、この喧騒の中でも危険スポーツの観客のハーミーを思えば彼女の声援は聞こえるはずなのに聞こえない。ハリーの親友はロンとハーミーだから2人ともが人質かはわからない。でもこれは確信に近い多分なんだけど、クラムくんってハーミーのことラブだし、セドリックのラブの相手はチョウなんだよ。ということは、だよ。

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