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「は、ハーーミーーー!!ローーーン!!」

やべえ!私は周囲に構うことなく急いで転がり落ちるように階段をだだーっと降りる。べしゃっと転ぶように下に着くと、げらげらとどこからか笑い声が聞こえたがそれどころではない。
人をかき分け、スタンド席の柵ギリギリまで身を乗り出して水面を見る。ああ降りたい、でもこんな寒さの中水入ったら確実に心臓発作とかで死にそうだし何より外部侵入によってハリーが失格とかなっちゃうかもしれない。でも、心配だよどうしよう。ハーミーとロンは今冷たい水の底にいるっていうのか!?死ぬじゃん!

「ナマエ落ち着け!」

後ろからガッと羽交い締めされ引き戻される。危ない、あと少しで落ちるとこだったようだ。どうしようもない、うううと頭を抱える。

「どうしたんだ、落ち着けよ!」
「何かあったのか?泳ぎたくなる気持ちもわかるがタイミングってもんがあるだろ」
「だって!でも!」

声に振り返るとそっくりな赤毛が2人いた。ウィーズリーの双子は驚いたような顔をしている。2人はなんでこんな落ち着いてるんだ?心配じゃないの?なんで?私は観客の騒音に負けじと声を上げた。

「ハーミーとロンも湖の底じゃん!」
「はあ!?」
「昨日呼ばれてから2人とも帰ってきてない!」
「なんだって!?」

私の叫びに今度は2人とも蒼白になった。そして先程の私のように、いや私よりも身を乗り出した。慌てて2人のローブの裾をつかみ引っ張る。落ちる落ちるおまえらマジで落ちるって!なんの装備もなく落ちたらマジで死ぬって!
止めるな!離せ!と言われ必死で首を振り体重を後ろにかけ格闘していると、わあっとまた観客が沸く。しかし、すぐさま野次に変わった。どういうことだ?一時休戦と様子を見ると、ボーバトンの選手が気絶した状態で上がってきた。ボーバトンのあのでっかい先生が大慌てで駆け寄っている。

「フラー!フラー!」

名前を呼び、聞き取れない英語ではない、おそらくフランス語でわーわー言いながら気絶した選手を抱き上げていた。

「棄権みたいだな」
「水中で何かに襲われたか、変身が解けたか」
「えっ、そんな、襲われる!?」
「当たり前だろ、妨害があるって言ってたじゃないか」
「でも気絶するほどなのか!?」
「何を言ってるんだ、それこそ当たり前だろ!」

だってこれは過去に死者も出た三大魔法学校対抗試合なんだぜ!
青ざめた双子の揃った声に、ゾッと背中が冷たくなった。
死人とか冗談だろオイ。信じられないが、そういや危険スポーツだって楽しまれている魔法界だ。なんつったってふぁんたじい。ということはつまり、現実だ。カラカラの口内に無理やり分泌させた唾液を飲み込んで水面を見つめる。と、ぶくぶくと下から泡が出てきて、人が上がってきた。周囲がまた湧く。

「クラムだ!」
「あれは誰!?」
「グリフィンドールの生徒よ!」

「グリフィンドール!?絶対ハーミーじゃん!どいて双子!」
「どわっ!?」

ガッとローブを引っ張って代わりに私が前に出る。ハーミーが確かに、目を覚まして、目を覚ましてクラムくんに抱かれ泳いでいた。ほっと息を吐く。しかし、クラムくんは人間ではなくなっていた……。頭だけ鮫。頭だけ。ひいいっと悲鳴を上げてしまった。あばばばば。クラムくんがこんなんなら、ハリーはどうなって…!?これってあれか、水中人とか水魔とかの呪い!?

「ハ、ハリー!ハリーは!?」
「ロンーーー!!!返事しろ!!」

私たちは必死に名前を呼ぶが、無情にも時間ばかりが過ぎていく。私たちはもはや立ち尽くすことしか出来なかった。死体で上がってくるとは思わない、腐っても学校行事でそんなことは絶対に無いはずだ。無いと信じたい。でもさっき現実だと肯定したのは他でもない私だ。嫌な想像ばかりが脳内を駆け巡る。ハリーはあれだけ探しても結局全然呪文見つからなかったし、もしかすると……いや、棄権者がいるからそれはない、と思うが、だって今までハリーはたくさん命の危険に晒されてきたわけで……。

「ハリー……!」

両手を組んで祈る心地でただ待つしかない。学校行事だからな、そうだろ、ドキッとさせるんだろ、知ってんだよハハハ。空笑いがなんとも虚しい。双子もまた祈っていた。そうして謎の祈り集団が形成され始めたそのときだった。
ぼこぼこと泡がまた水中から現れ、水面が揺れる。ザバッと出てきたのはそう、ハリーだ。その両腕に、ロンと少女がいる。そしてハリーが浮かんだ周囲から、緑髪の頭がにゅにゅっと現れた。周囲が一斉に湧く。その中に私もいた。ああああ!と慌ててスタンドから身を乗り出す。

「危ねぇ!」
「落ちるぞ!」

今度は私が背中を掴まれる番だったが、そんなことに構っちゃいられない。ハリーもロンも水中でなにやら話している様子に、2人とも問題がないようだった。それでもやはりマダムポンフリーに連れていかれる後ろ姿には心配が込み上げる。しかし私がここで心配だと騒いだところでどうしようもない。一旦深呼吸をして自分を落ち着かせた。すううはあああと深く呼吸をすると、3人が無事だったこともあり、安心したのか一気に冷えた空気を感じた。肺が寒い。げほっと咳をすると喉が痛み、気づいた双子の片方がマントを掛けてくれ、バタービールを分けてくれた。じんわりと体温が温まる。

「ふー……ありがとう。ところでなんでビール持ち込んでんの?」
「レディーズアンドジェントルメン!審査結果が出ました」
「ハリーが1位だぜきっと!」

聞けよな、と普段ならツッコミを入れるところだが、今回ばかりは私もドキドキした。気分はモンペ。ここまで頑張ったのに時間超過で評価されなかったらクレームつける所存。 結果発表をするおじさんは細かく水中での結果を発表した。ミスデラクール、水魔に襲われたらしく25点。無事で何よりだよ本当に。ディゴリー氏は制限時間を1分オーバーしたが1着47点。クラム君は奇妙な鮫だったがナイス魔法の2着で40点。そしてハリーだ。結局魔法は見つからずじまいだったしと心配していたけど、えら昆布とやらを使ったらしい。そんな便利食品があるなんて。ハリーは水中で最初に宝物地点に到着したものの、人質全員を助けようとして遅れたのだと説明された。くぅ、なんていい子なんだ。その心の美しさと勇気に1000000000点だわ。しかし私のガバ点数とは違い、ハリーには45点がつけられた。

「セドリックと同点だ!よくやった!」
「は?なんで50点じゃないわけ?値するって言ってたんなら50点じゃんどう考えても」
「落ち着けナマエ」

審査員席を睨むとダンブルドア先生と目が合った。ウインクをされて、指でちょいっと方向を示される。そちらを向くと、ハリーがキョロキョロしていて、少ししてバチッと緑の目と私の目が合った。手を振られて、笑って振り返す。後ろからロンとハーミーも来て、3人で何かを話した後に3人とも手を振ってくれた。それに私も振り返しながら、ところでえら昆布っていい出汁が出そうだね、世間話のノリで双子に話しかけた。「ダシってなんだ?」と声を揃えられ、文化の違いを感じました、まる。

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