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まだ誰も、私とノットくんしかいない教室は静かだった。さっみ。ローブの前をぎゅっとして、靴を脱ぎ椅子の上で丸まりながら朝は特に冷えるなーとかぼやいてた私の横で、ノットくんがごそごそと羊皮紙を出した。そのままスッと差し出されたそれに目を向けると、Parallel worldという文字が。

「先日、占い学で興味深い話が出た」
「……ノット先生占い学もとってんの?」
「ああ」
「意外ですねえ。理系っぽいのに」
「リケイ?なんだそれは」
「超常現象は信じないタイプ」
「占いは超常現象ではない、はっきりとした魔法の一種だと考えている」
「…ほーん?」

意外と真面目に占いを違う方向から見てるタイプだ。ぼんやりそう思いながら、目は羊皮紙から話せなかった。ノット先生の神経質そうな細い字は、確かに興味深い内容を綴っている。
聞けば、たまたま占い学でホグワーツ七不思議の話になり、1人が2人に裂けちゃう事件とやらの質問にシビレル先生がパラレルワールド、平行世界の話をしたらしい。

「ホグワーツ七不思議ね。この前ロンも言ってたわ、流行ってんのそれ?」
「魔法界育ちにとっては幼い頃に聞かされる法螺話の定番だから今更流行っているということはない、多少生徒に面白可笑しく話されている程度だ。出処はおそらくボーバトンもしくはダームストラング生だろうな」
「他校のそういう噂に興味持っちゃったわけか。なるほどなるほど」

1人が2人に裂けちゃうというのは要約されたそれを読むに、占い学では平行世界の姿を透視したということ、らしい。結果の違ういくつかの世界のどれかを透視しているのだという。千里眼もそこまで来ると目が酷く疲れそうだ。

「で、なんでこの話を私に?」
「記憶が無いと言っていただろう。仮に、仮にだが、平行世界を体験していたとするならばどうだ?」
「……は?」

何言ってんのノットくん。全然意味わかんないんだけど。私は眉を寄せた。

「あなたは聖マンゴに入院していた際に、平行世界を体験した。が、何かしらの理由で──例えば知ってはいけないことを知ってしまった、あるいは自我だけが世界を越えたなど、そういった理由で記憶がその部分だけ抜けているんだ」

…………ホォー。またどえりゃー話が出たもんだ。自分の眉間をぐりぐり摩って、んんっと咳払いをする。

「…………魔法界って、そういうのもアリ?」
「卑俗なマグルとは違い自由かつあらゆる可能性を秘めていると考える」
「唐突の純血主義ビビるわ」

こういうとこあんだよなノットくん。一見話しててあれ?偏見ないのかな?って思うじゃん?ふとしたときに出るからねこれ。あっやっぱり生粋の純血主義貴族の子息スリザリン生徒だわってなるからね。閑話休題。えーと。ノットくんの考えは、まあ、わからなくもない。可能性のひとつとしては確かにあるんだろうけども。でもそんな突飛な話あるか……?私だぞ?なんか重大な使命を持った主人公とかならまだしも、私にそんなことが起きるとは思えない、というか、思いたくない。
仮にその説で行くならば、逆というものだ。今、私は平行世界を体験しているんだ。そう考える方が納得ってもんだろ。──なら、どうして帰れない?記憶がない間に帰ってるとか?それじゃおかしいじゃんか、なんでこっちにまた来てんのさ。あー、こんがらがるなあ。んー、いや、あー、なんて言葉にもならない呻き声を出しながらしばらく考えてもわからないものはわからない。ノット先生はその説を可能性のひとつとして留めておけと言う。可能性のひとつ、ね。
数占い学の授業の終わりにベクトル先生を捕まえて一応聞いてみた。平行世界ってありますか。

「平行世界ですか興味深い内容ですね結論から言えば数占い学において平行世界は存在すると考えられています平行世界は数現しの先に存在し一般的には姿現しが失敗すると空間と空間の間に残されると言われますがまさにその間というのは数ある平行世界のひとつに過ぎません」
「ほええ」

ぽかんと空いた口はノットくんがガチンと閉じてくれた。いてえ。……つまり、どういうことだってばよ。平行世界は姿現しの先に?姿現しってなに?

「空間移動魔法だ。難易度が高く扱うには試験必須、受験資格は17歳以上だ」
「ハン、お話にならないね…」

この話はとりあえず保留だ。私は考えすぎで痛む頭を抑えて、ノットくんとバイバイした。一旦忘れて呪文探ししようそうしよう。



「2パイントの水に刻んだマンドレイクの葉」
「違うわ」
「うぃ……」

見つからないよおお!図書館の一角を占領して自分の部屋のように好き勝手過ごせる程度には毎日毎日暇さえあれば来て探し続ける日々、本ほとんど読んだんじゃないの?って量に手分けして目を通したけど全く、これっぽっちも、見つからない。掠りさえしない。やばい。何がやばいってわかる?第二の課題明日なんだってよ……(震え声)
ハーミーはひたすら絶対!なにか!ある!と主張してるけどぶっちゃけ私もロンもハリーでさえ無いんじゃねって諦めモードになってきてる。多分これが人間性の違いってやつ。

「僕、シリウスみたいにアニメーガスになる方法習えばよかった」
「そうしたら金魚になれただろうさ」
「それか蛙だ。ホグワーツ七不思議にも僕が乗ってたかも。ねえナマエ」
「うん?そうだねえ」

ごろりとハリーが倒れ込んできた。そのまま体重を受け止めつつページを捲るのはやめない。この本2パイントの水だのなんちゃら谷の湧き水だの何かの材料だら……けは当たり前だよこれ魔法薬学の本だもん……。なんで私材料欄見てたんだバカじゃん。疲れを誤魔化そうとため息を吐く。と、横から頬が引っ張られた。

「ちょっと、話聞いてた?」
「いた、ちょ、ハリー痛いって。えーとなんだっけ?」
「もう!」

そんなぷんすかしないでおくれよ。鎮まりたまへハリーポッター。人の頬を引っ張る手を取り、そのまま違う本を持たせた。ハリーはぶすっとしてその本を開く。

「ダメよ、アニメーガスは習得するのに何年もかかるし、登録なんかもしなくちゃ」

一拍置いてハーミーがマジレスした。さっきまでやる気ですモードだったのに、燃え尽きたようにぼーっとしてる様子に流石に心配になる。大丈夫かハーミー…いやここ全員今そんな大丈夫じゃないな…もち私も含めて。

「これも役に立たないわ…」

ハーミーが本を閉じた。ぶつぶつと文句を言っているのを黙って聞くと、横から唐突に声がした。

「双子じゃん」
「よ、ナマエもやってんのか」
「辛気臭い空間だな。俺なら気が狂っちまう」
「気が狂う寸前の4人でお送りしております」

ウィーズリーの双子の長い背丈を仰ぎ見る。この2人もいつの間にか背伸びたよなあ…男子の背ってすごいな…。もはや心底どうでもいいことを考え始めた私の横で話はぽんぽん進んでいく。なんとハーミーとロンが先生に呼ばれたとかで抜けてしまった。ここで人員半減は手痛い。私とハリーは機械のようにページを捲り続けるしか無い。それは時間ギリギリまで粘って粘ってついに図書館のボスに追い出されるまで続いたし、図書館からクソ重い本を持ち帰った寮でも続いた。
多分日付も過ぎてる談話室で、あまり暖かいと私が寝るという理由から暖炉の火は控えめ。ネクタイとローブと靴下と靴をソファの周りに本と共にとっ散らかしたTHE修羅場状態。私は半分船を漕いでいる。マジで眠い。本これ全部読んだよね?ちょっとくらい寝ても良くない?効率ってのがあるじゃん?

「ハーマイオニーもロンもまだ帰ってこない…」
「んー…そうだねー…」
「僕はもうダメかもしれない……」
「そんなこたぁないよ……なんとかなるよぉ……」
「ナマエ寝ないで!起きて!」
「うんん……」

がくがくと揺さぶられそのまま勢いでソファに倒れるように寝転んだ。枕が固い……あっ本か。本を避けようともぞもぞ動いてみること少し、なんとか頭の下から抜けた本を手に当たった机の上に置いた。瞼は糊でくっついたように全っ然開かない。もう無理。

「ナマエー!」
「はりーも、ちょっとくらい、ねような…」
「わっ!ちょ、ちょっと、ナマエ!時間が──」
「うん………うん……」

起こしにかかってくるハリーを引っ張ってソファに引き込む。このソファデカくていいな。背中をぽんぽんと叩きながらハリーの文句を聞き流していると、そのうち声も聞こえなくなっていった。パチパチと暖炉の中で火花が小さく跳ねる音とハリーのぽかぽか体温は最強だった。認めよう、多分ハリーより私の方が先に寝た。

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