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「違うんだよナマエ!!」
「うわっえっ、なに!?」

魔法薬学の授業中、スネイプ先生からまずはこれを読みたまえとバァンッと渡された薬草の切り方教本を熟読しながら、いつもの如くグリフィンドール席へちょっかい出しに行ったスネイプ先生を待っていると、突然ハリーにがっちりと肩を掴まれ大きな声で謎の弁明をされた。びっくりして目が覚めた。あれおかしいな寝てたか…?教本は…?と手元を見ると読んでいたはずのページの端が折れていた。ぺたりと頬を触る。皮膚が軽く凹んで……これは……寝てましたな……。いつのまに、とびっくりしているとハリーが「ナマエ聞いてる!?」と肩をゆすってきた。お、おぉ……?とりま落ち着こ?な?
何があったんやと目を白黒させていると、スネイプ先生が教卓に放った本をハリーが指さした。なんだなんだ。聞けば、先程本を読んでいたから怒られてハリーだけ前に寄越されたのだという。私の隣の席だ。これでスネイプ先生の今日の教卓から見た視界はレッド多めだ。

「でもナマエがいるからいいかなって思ったんだ」
「キュン死にさせる気か?」

ファンサがすごいな……これが道徳的に素晴らしいハリーポッターか。私はウッと胸を抑えた。更に心配してくれたハリーは大変いい子でした。
少ししてスネイプ先生が何かをしに奥へ行ったのを見計らって、教卓に手を伸ばし本に目を通した。

「えー、”ハリー・ポッターの密やかな胸の痛み” ……ワァオロマンチックゥ〜ふぅ〜」
「違っ、いや、違くないかもしれないけど、でも違うから!」
「あっはい」

謎に違うと繰り返すハリーを横目にふんふんと続きを読むと、なんと驚くことにハリーの熱愛記事だった。なんてこった。いつの間に友人同士がデキていた。これは気まずいやつだ。パンジー・パーキンソンって誰?愛の妙薬…?なんじゃその朝刊のチラシに挟まれてそうな名前のやつ。うさんくせー。

「……えーと、おめでとう?」
「冗談でしょう!?」
「怖い怖いハリーどうしたのテンション」
「ナマエが変なこと言うからだよ!」
「ごめんて。しかし面白いねこれ、どこの出版社?センテンススプリング?」

私の小粋なジョークは残念ながら通じないままハリーはぷんすこ怒り、ダンッと虫を潰した。ひぇっ汁が飛んだぞ。これはぷんすこどころではない怒り方っぽい。私はそっと記事を教卓に戻した。スネイプ先生もこういうの読むんだ。と、噂をすればだ。スタスタとスネイプ先生が奥から戻ってきた。その手には何かの材料が入った入れ物を持っており、そしてそれを私の前に放った。中を見ると、虫。乾燥した虫だ。なんか怪しい色をしている。

「びょええ嫌がらせですか!?」
「貴様が用意したのはナガタマムシだ馬鹿者。4年にもなってまだ材料の区別も出来んのか、猿頭は大人しく森へ帰りたまえ」
「そんな虫の区別なんてつかな、うわあ大きさ全然違う笑うしかねえ。あざます……」

そりゃありがたいけどだからといっていきなり虫が入った入れ物を投げてくることは無いじゃん、という文句を飲み込み私は大人しく虫を受け取った。そしてスネイプ先生はハリーを向く。

「マスコミに注目されて、お前のでっかち頭が更に膨れ上がったようだなポッター」

ぶちんっ。ハリーの手元の虫が潰された。

「魔法界が君に感服しているという妄想に取り憑かれているのだろう」

虫がどんどん粉々になっていく。う、うわあ……。そっと見守りながら私は手元の乾燥虫を見て悩んだ。そしてそっとハリーの手元にそれを差し向ける。

「我輩にとってポッター、お前は規則を見下している性悪の小童だ。……ミョウジ!自分の分は自分で砕け!」
「ウェッすみません!」

ダメだった。スネイプ先生がハリーに集中してたからこう、ミスディレクション的に行けると思ったんだけどもダメだったね。私は大人しく自分で虫を粉にした。うぇ……4年経ってもこの作業は毎回ぞわぞわするからあと10年経ってもダメだろうし、まあ慣れる前に帰るつもりだけど。それにしても今日はやけにスネイプ先生怒り気味だな、と思っていると、どうやら話から推測するにハリーがスネイプ先生の研究室に忍び込んだみたいなことを言っている。ハリーは否定しているし、私もハリーの味方のつもりだけど、確かに試合の前の夜私の方が先に寝たからな……説得力がないな……。大人しく口を閉じていることにした。成行きを見守っていると、スネイプ先生が懐から印籠、ではなく小瓶を取りだした。

「何かわかるか、ポッター」
「いいえ」
「ベリタセラム──真実薬だ」

曰く、魔法界的にも指定の取扱危険物らしく、強力な自白剤らしい。なるほど。半分脅しのような注意方法だがグリフィンドール生には効きそ……いや逆に反抗するかもしれない。ハリーはマジウゼーみたいな顔で根生姜を刻み始めた。と、そこで、教室のドアがノックされた。スネイプ先生の返事を待つ前にドアが開かれ、スタスタと中に入ってくる。スネイプ先生に向かい真っ直ぐに来たのは、クラムくんのところの校長だった。

「話がある」
「授業が終わってからだ、カルカロフ」

ぴしゃりと跳ね除けたスネイプ先生の眉間に皺がすごい。許可する前に入った時点でピキッてきてた。しかしカルカロフ校長はスネイプ先生となにやらお話したいらしくめちゃめちゃ話しかけあしらわれ、授業中ずっとうろちょろしていた。気づいて、時間を増す毎にスネイプ先生の眉間がミシミシしてきてるの気づいて。
気の散る人はいたが気にせず授業が進み、ようやく終わる頃。私が鍋をガシガシ洗っていたときだった。カルカロフ校長が私の横を通り、そのときにドンッとぶつかる。うおっと机に手をついた時に、近くにあったビーカーが倒れた。

「あっで」
「カルカロフ、邪魔をするな!ミョウジ、貴様もだ、真面目にやれ!」
「今のはカルカロフ校長のせいじゃね!?」

すぐさまスネイプ先生の怒号が飛んでくる。カルカロフ校長はそそくさと移動した。は?おい謝れよ。お前のおかげで私の机の周りが生臭くなっただろうが。なにこれくっっっせ!これ何の匂い?ビーカー……うわアルマジロの胆汁じゃん。胆汁くっっせ!ぎゅむっと片手で鼻をつまみ、片手で雑巾を握って床と机を拭っていく。匂いが厄介だしこの匂い取り除かないとまた点減らされるし授業は終わったから人はいなくなって帰り遅れたし…許すまじカルカロフ……。唯一心の救いは苦笑しながら手伝ってくれたハリーである。ありがとう。
ハリーは雑巾を片手にちらちらとスネイプ先生たちのほうを見ていた。なにやら彼らの様子が気になるらしい。つられて私もちょいちょい見ている、と、カルカロフが興奮したようにスネイプ先生に腕を見せていた。

「どうだ?見たか?こんなはっきりしたのはあれ以来、」

ぱかんと私の口が空いた。うわびっくり。マジか。魔法界にもいるのか。俺の右腕が疼く──今回は左腕みたいだけども。俺の左腕が疼いちゃってるらしい。でもカルカロフさんその歳で……ぅゎ……ちょっとね……。スネイプ先生はそれに怒り、ついでにその怒りがこっちにも飛んできた。今日あの人怒ってばっかだな。

「ポッター!ミョウジ!何をしている!」
「そいつが零し、んぐっ」
「アルマジロの胆汁を拭いています」

答えようとするとハリーにそっと口を塞がれてしまった。そしてスネイプ先生はおそらくどう答えてもそう返答しただろうという感じで「もういい!出ていけ!」と言い、私たちは慌てて荷物をまとめて教室を出た。数歩歩いたところで振り返る。……結局なんだったんだあの人。ハリーは何故か難しい顔をしていた。

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