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目が覚めたとき、私がいたのは医務室だった。

「ミスミョウジ、起きましたか、ああよかった……!」

ほっとした顔のマダムに暖かいジンジャーティーを渡されたが、一口も飲む気にならない。
吐いたからか喉が痛み、鼻の奥に水が溜まっているような感覚がした。目元はぼってりと腫れ、身体全体が浮腫んでいるのか、皮膚が一枚増えた気がする。

「本当に驚いたのですよ、試験中にルーピン先生が形相を変えて連れていらして、」

マダムの話に相槌を打つ気にもならない。真っ白いシーツを見ていたくなくて目を瞑るが、瞑ってもトランクの中でのことを思い出して嫌になる。そもそもあれはなんだったんだ、私は一体何をしているの、そうだ、もう3年も、ずっと私は、私だけがここにいる。外の世界を知らないまま、どこにいるかもわからないまま、もう3年も経った。ずっと目を瞑っていた事実だ。私は、何故ここにいる。

「……ミスミョウジ、気分はいかがですか?ここまで話さないあなたは初めてですよ」
「…………さいあくです」

小さな声で言う。マダムは、そうですか、とだけ言い、私が持ったままのマグカップをとりサイドテーブルに置くと私の布団をしっかりかけ直し、カーテンを閉めて行った。ゆっくり休め、ということだろうか。休めるのだろうか。こんな状況で最悪も何も無い。

最初から、最初から何もかもおかしかった。目が覚めたら私の部屋じゃない?出口のない密室?視界が回って知らない駅のホーム?体は小さくなって、周りはどう見ても外国で、城の学校に魔法使い?何を馬鹿なことを、何を馬鹿な夢を。しかし、こんな馬鹿げた夢から私はもう3年も起きれていない。ナイトメア症候群にでもなったのか?ならあの私は、血だらけの私は誰だ?
考えられない、考えたくもない。





「ナマエ、こんなときだからこそ君に言わねばならぬことがあるのじゃ」

痛む頭を抑えながら、少し前にやってきたダンブルドア先生の話にも相槌を打たず聞き流す。
もう学校は終わり、夏休みに入っているらしい。ハリーたちは私をたいそう心配していた、という言葉にまた吐き気がした。嬉しい、そりゃ嬉しいさ、でもこれは夢だ。夢の中の友達?イマジナリーフレンドか?そうだ、先生も試験も全て夢だ。私の脳はえらく活発なようだ。

「13年前のマグルを巻き込んだ殺人事件の真犯人がわかったのじゃ」
「…………」
「……ルーピン先生から話は聞いておる、君の中に恐怖は残っておると。恨みを持ってはならんとは言わぬよ、しかし、その恨みは正しい方へ向けるべきじゃ」

この人は、何を言っているんだ?

「13年前、あの事件を起こしたのはシリウス・ブラックではない。……君のご両親を殺したのは、ピーター・ペティグリューという男じゃ」

わたしの、りょうしん?

「……は、はは、何言ってるんですか、何言って、だって先生、そんな、」
「ナマエ、これが真実なのじゃよ」
「そんなはずがない!!」

私の怒号が医務室内に響き渡る。窓の外、近くの木から驚いた鳥がバサバサと飛んで行った。

「私の両親は死んでなんかない!なんで、なんでそんな、そんなわけ、」
「──ふむ、そうか……ナマエ、落ち着きなさい、大丈夫じゃ。君がそういうのならば、そうなのやもしれぬ」

ふーっ、ふーっ、と猫が威嚇するように肩で息をする。頭がおかしくなりそうだ。いや、もうとっくにおかしいのかも。
モンキーだからね、そう、モンキーだからしかたがない、ははっ…、モンキーってなんだよ…………。魔法ってなんなんだ、なんだこのじいさんは、私が、私の両親が死んでる?そんなはずがない!!生きている、きっと今だって日本に、そう、日本に、私だけが帰れていない、かえりたい、かえりたい───

「私はどこにいるんだよ……!」

視界が真っ白に染まり、そしてぐるりと回った。



「ポピー、ナマエはショックで記憶が混乱しているようじゃ。ゆっくり養生する時間が必要やもしれん」
「まあ大変、気を失っているではありませんか!」

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