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熱いお茶をふーふーと冷ましながら飲み干す。これ葉っぱ口の中に入るぞ。うげ、とティッシュに出すと、ハーミーから「もう、気をつけなさい」と言われた。回したカップをハーミーと交換する。教科書を片手に見てみる。なんとなくの形でいいのかな。

「えーと、花かな。愛情、尊敬、名声…と、犬?っぽいなあ、あ、良い友だって。あ、でもナイフっぽいのある。これは…トラブル?気をつけて」
「わかったわ。えぇと、あなたのは……」

「ハヤブサ、あなた恐ろしい敵をお持ちのようね」

聞こえてきた声にハーミーの眉がピクリと動いた。そちらを見ると、ハリーのカップをシ、シビレル?先生が見ている。恐ろしい敵?

「でもそんなの誰だって知ってるわ、本当の事だもの」

つん、と少し顎を上げてハーミーは言った。それにシビレル先生が非難がましく視線を送る。ハーミーはそのまま、あの人とハリーの関係は誰だって知っている、と続けた。え、なに、あの人って何、なんかあんの?
よくわからないまま傍観していると、先生は棍棒、とか髑髏とか続けた後に息をのんだ。自然と周囲も息をのむ。なんだなんだ。

「あなたにはグリムが憑りついています!」
「…………グリム?ってなに?」
「死神犬よ」

隣のハーミーに小声で聞くも、やはりよくわからなかったのであとで調べようと脳内にメモしておく。ハーミーはシビレル先生のカップを覗き込んでそれを否定した。見えないらしい。犬って言ってもねえ、シルエットだけじゃわからないしなあ。先程犬に見えたハーミーのカップを再度覗く。なんとなくワンコに見える、ってだけだ。犬種もわからん。

「失礼、あたくしあなたからは何のオーラも感じられませんわ。あなたはどなたとペアだったかしら?あたくしが代わりに見て差し上げましょうね」
「いりません、ナマエのカップは私が見ます」
「ナマエというのはどちらの方?」
「あ、はい、私です」
「ナマエ!」

眉を吊り上げたハーミーに、まあまあいいじゃんか、と笑って見せカップを見てもらう。どうせ明日にゃ忘れてる。そう小声で言うと、もう、とハーミーは少し笑った。対して、シビレル先生は私のカップを見て「まあ!」と声を上げた。ハリーの野次馬たちがこちらに来る。心配そうにこちらを見るロンにおや、と思いつつひらひらと手を振る。

「ああ、なんて可哀想なんでしょう、あんまりですわーーええ、ええ、そうね、恐れてはいけません、あなたは不幸を乗り越えることが出来るかわかりませんけれど」
「……アー、つまり、私に不幸が?」
「そう、そうですわ、あなたは強い、とても強いゆえにーーーー泡のように消えてしまいます」
「……なるほど。ちなみに、家とか、そういうのは無いですか?」
「家? そうね……ございませんわ。何故?」
「いえ、特に理由はないですけど」

同情の色の濃い瞳に見つめられ、消えちゃうなんてそりゃ大変だ、と首の後ろを掻いた。ハーミーの眉は吊り上っている。私の占い結果抽象的すぎィ。


何やら落ち込んでいるハリーを慰めながら駆け込んだ変身学の授業は他の生徒の視線が痛いものになった。後ろの席に座ろうがチラチラ見てくる奴らはなんなのか。移動中ハーミーが教えてくれたが、死神犬を見た人は死ぬとかなんとか。犬見ただけで死ぬって。某ノートと並んで人気になりそうな話だ。
ぼんやりと机の下で握られた手を握り返しながら先生の話を聞いていると、アニメーガスなるものがあるらしい。動物になれるとか。これもかなり人気になりそう。猫になりたいな、とか、鳥になりたいとか、変身願望は誰にだってある物だと思う。私は特にないけど。強いて言うなら寒さに強い動物とか。そう考えると猫はダメだな、と猫に変身した先生を見て思った。綺麗な虎柄である。人を感じさせないその姿にすげえ、と拍手するが、したのは私だけだった。えっこれKY?私KY?KYM?空気読めないモンキー。
一瞬焦ったが、どうやら周りが違ったらしい。先生が拍手を浴びなかったことは初めてだ、と驚いた。しかしハーミーがハリーのグリムの件を言うと、先生はこめかみを抑えて「わかりました」と言った。

「占い学というのは、魔法の中でも1番不正確な分野の1つです。私があの分野に関しては忍耐強くないということを、皆さんに隠すつもりはありません。いいですか、真の預言者は滅多にいません」

ああ、なるほど、と私も内心頷く。前言、完全に撤回しよう。どこの世界でも占いはうさんくさいまがい物が多いらしい。先生はハリーに対して「もしも死んだら宿題の提出は結構」と言った。思わず笑うと、でも、と誰かが口を開く。

「ナマエも言われていました!」
「お?」
「ミスミョウジが?何を言われたのです?」
「あー……なんか不幸があるとか、泡のように消えるとかなんとかって……あっ人魚姫ですかね?」

自分で言ってて気付いた。展開が人魚姫そのものじゃん、王子様はどこだ。へらりと笑うと、先生は少し柔らかい表情で「消えてしまったのなら、あなたも宿題は結構ですよ」と言った。消えなくても免除してくれないかなーないよなー……。

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