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寮に戻り少し横になると、気づけば夜だった。消灯時間の1時間前。いつの間に寝てたんだ。昼の嫌なことと嫌な記憶を流したらしい寝汗で背中あたりがびしょびしょになった制服を脱いだ。

「あなた、本当に大丈夫なの?」
「……大丈夫だよ」
「そう。無理しないでちょうだい、迷惑」

ばっさりとしたアリアの言葉に苦笑が漏れる。ありがとう、というと、ふん、とそっぽを向かれた。ワン、という鳴き声とともに懐にわんこが入ってくる。

「サーシュもありがとね」
「私だって心配してる」
「うん、二人ともありがとう」

もう動く気がなくなってしまった。教授へのお礼はまた後日でいいかな。シャワーを浴びてその日は眠りについた。


翌日の午後、まるっと時間が空いたため宿題を片付けてから夕食後に職員室を訪ねる。職員室にはフリットウィック先生しかおらず、ルーピン教授は部屋らしい。私室らしいが、フリットウィック先生は場所を教えてくれた上、私に「大丈夫ですよ」と言いラスクのお菓子をくれた。その場で食べた。美味しかった。

行ったことのない塔の階段は親切に私を待った上で乗せてくれ、目的の階にぴたりと止まる。階段が親切とか私も大分染まってきてるわ。教員の宿泊塔らしいが、ほとんどの先生は研究室の奥の部屋を自室としているらしい。長く務めると隣に作っちゃうんだろうな。つまりスネイプ先生は地下に住んでいるわけだ。だからいつも顔色悪いんだろうな。
ルーピン教授の部屋の扉をノックすると、はい、と奥からラフな格好の教授が出てきてくれた。私の姿を見て驚いていた。

「お休みのところすみません。特急でのことと、先日の授業のこと、大変ご迷惑をおかけしました。ありがとうございました。これ、特急でお借りしたローブとささやかながらお礼になります」
「……あ、ああ、うん、ありがとう。そうだな、おいで、お茶くらいなら出せるよ」
「いえ、私はこれだけで、」
「そうだな……レポートの採点をしていたんだけど、疲れてしまってね。一人でお茶するのも寂しいから、少し付き合ってくれるかい?」

人差し指を唇に当て、いたずらっ子のように笑う教授に自然と頷いてしまった。頷いて、しまった。普通に考えて教員の私室に女子生徒が入るとかアウトな案件だ。そのへんこの人わかってんのか!?頷いてしまった私も私だけどさ!

部屋は思ったより広かった。というより、おそらく内部で魔法がかかっているんだろう、外から見ると形が違うってやつだ。全く魔法は便利。小さく火の焚かれた暖炉の前のソファに進められるままに腰掛けると、教授は魔法でひょいひょいとやり暖かい紅茶とクッキーを出してくれた。

「お砂糖はいくつ?」
「1つお願いします」
「ミルクはいる?」
「いえ」

はい、と出された紅茶に口をつける。喉を通るいい香りに、ほう、と息を吐いた。思ったより身体が冷えていたようで、じんわりと温かさが身体を巡り広がっていく。紅茶も魔法…?

「驚いたな、わざわざ来てくれるとは思ってなかった」
「すみません、突然お邪魔して……」
「いや、嬉しいよ。お礼なんて、むしろ申し訳ない」

開けても?と聞かれ、頷くと教授は楽しそうに包装を開ける。結構破れている部分が多い開け方を見ると、彼も結構やんちゃ気質だな?

「わあ、ビーグルのチョコレートだ!嬉しいな、私ここの好きなんだ。中々食べれないがね」

喜んでいただけて何よりである。お金の単位がよくわからないから適当に選んだが、ちょっと大きめに書かれた商品は大体当たりらしい。あと消えものは常識。
教授は大事にいただくよ、と魔法ではなく自ら冷蔵庫に仕舞った。

「それでーーナマエ、君に聞きたいことがあるんだ」
「うす」
「まず、特急でのことなんだが、君は何故あそこに?」

ウッ、答えにくい質問だ。なんて言えばいいのやら、まさかワープとか言えるはずもない。もしかして魔法界あるあるーーなら特急なんてもの必要ないもんね。さらっと嘘を吐こう。

「ちょっと気持ち悪くなってて、外の空気を吸おうとしたんです」
「そうか……私が行った時、君は床に座り込んでいて、通路に窓ガラスの破片と血が飛び散っていてね。君も俯いていたから、吸魂鬼にキスをされたのかと心底ひやっとしたんだ。本当に、無事でよかった。ところで吸魂鬼は、どうやって追い払ったんだい?」

あまり思い出させることではないんだが、と続けられ、よく私も覚えてないんですが、と、とりあえず窓ガラスの破片を投げつけたことを言った。

「────え?投げつけたのかい?破片を?」
「ええ、まあ、たぶん、身体が勝手に」
「ふっ、ふふふ、そう、なかなか豪気なレディのようだ、そんな方法聞いたことがない」

ルーピン教授はしばらくこらえるように笑った後、はあ、と息を吐いた。別に笑いたいのなら大声で笑っていいのよ。落ち着いた頃に「失礼したね」と声をかけられ、首を振る。

「ナマエの魔法にも期待しているよ」
「いやあ……成功する率50回に1回くらいなのであんまり……」
「すぐ上手くなるよ、得意な分野は誰だって違うんだ。僕は学生時代あまり変身学が得意じゃなくてね、ジェームズとシリ……いや、親友に教わったんだ」
「そうなんですか」
「ああ、2人とも天才と言っていいほどでね、なんでもすぐこなしてしまって。すごかったよ。特にハリーはジェームズにそっくりだからーー」
「…………ハリー?」

ジェームズさんとシリさんか、なんか頭良さそうな名前だ、と小並感を持つと、まさかのハリーの名前におよ?と首を傾げる。ルーピン教授は苦笑して、ごめん、口が滑ったよ。秘密にしてくれるかい?と言う。

「まるっと無かったことにすることも可能ですよ」
「僕はハリーのお父さんと親友だったんだ」

無視かい、とツッコむ間もなく、謎に空気がしんみりし始めた。シリアス展開なのこれ?
それから、教授の話を聞いた。ハリーのお父さんのジェームズさんはいい人で、その奥さんになったリリーさんもいい人だった(要約)とか、スネイプ先生とは学生時代同級生だったこととか、シリウスという人はいい人だったこととか。ぶっちゃけシリウスってnewキャラはよくわからないけどとりあえず相槌。まあ大体話を要約すると、

「人生色々ありますね」
「……うん、そうだね、本当に色々だ」

教授は思い出を瞼の裏でしまうようにゆっくりと目を閉じて息を吐く。そして疲れた顔で笑い、寮まで送ろう、と言ってくれたが、流石にそんな疲れた顔の人を付き合わせるわけにもいかないので遠慮する。が、消灯時間ギリギリだったらしい。アッ。私の足と階段率だと当然間に合うはずもない。大人しくお願いすると、ルーピン教授は楽しそうに笑った。寮への道の途中、運悪くスネイプ先生に会いモンキーがとグチグチ言われたがルーピン教授は上手く誤魔化してくれた。私の中で教授の株が爆上がりな夜だったぜ。

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