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「ブフッ」

ネビルのおばあちゃんの格好をしたスネイプ先生、字面だけでも笑うが実際に見ても笑う。どこの笑ってはいけないホグワーツ24時なの。腹筋を駆使して我慢しながらも、あまりのおかしさに目尻に浮かぶ涙を指で払う。周りは大爆笑だ。
教授は笑いも恐怖を越えるのに大切だと言うが、これは、逆に笑い殺されそうな。次の魔法薬学が少し怖い。絶対笑うわ。

ネビルから順々に回り、ミイラが転んだりネズミが尻尾を追いかけてくるくる回ったりした。ロンは蜘蛛だった。だが、その蜘蛛は胴体だけで転がり、そしてハリーの前になる。と、そのとき、ルーピン教授はこっちだ!
と声を上げた。ボガートは声につられ教授の方へーー行くはずが、何故か通過点である私の前に出てきた。はい?
しゅるしゅると回りボガートは姿を変える。蜘蛛の丸い胴体はだんだんと人型になっていく。

「…………ぁ、ぇ?」

その姿は、いつか見た血だらけの"私"だった。
スーツを着て、赤と白の斑になったヒールを手に持っている。赤黒い肌が背景に浮き、虚ろな黒い瞳は私を越してどこかを見つめる。
きゃあああ、と誰かの悲鳴が聞こえた。私は、動けない。

「ナマエ、リディクラスだ!」

「ナマエ」

ルーピン教授につられるように、"私"が私の名を呼ぶ。少し掠れた、今よりも多少低い声は、はっきりと日本語の発音をした。
その声を耳に、ぞわりと悪寒と気色の悪い何かが身体を駆け巡る。びしゃりと背中に冷水をぶつけられた気分で、足から力が抜ける。ぽっかりと空いた重力の重い暗い穴に飲み込まれるような心地だった。
虚ろな瞳から、目が離せない。

「ナマエ!」

横から、私の視界を遮るように誰かが抱きついてきた。大丈夫、と耳元で言われた言葉を飲み込む。大丈夫、大丈夫?ほんとに?

「リディクラス!」

ルーピン教授の呪文が聞こえる。そのビシッとした声に、唐突に目の前がハッキリしたような気がした。
抱きついている手を、力の入らない自分の手で軽く叩くと、ふわりと離されるが心配そうなハリーの緑色の瞳がはっきりと見えた。そのまま周囲を見ると事態は収束したらしい。

「は、はは、ごめん、ちょっと驚きすぎたよ」

皆から見られている。頬を無理やり動かしていつも通りに笑う。
大丈夫、うん、大丈夫だよ。

「すまないナマエ、君はーーいや、なんでもない。それより、医務室に行った方がいい。大丈夫かい?」
「大丈夫、っす。すみません」
「謝る必要は無いよ。むしろ謝るべきは私だ、すぐに助けられなくてすまない」
「いえ、私が実技ヘッタクソなのが理由なので」

私の言葉に、グリフィンドールの誰かがモンキーだもんな!と言う。それに同調するかのように少しの笑いが出た。


医務室へ行くにもハリーはついてきた。ハーミーもロンも次の授業があるはずなので行ってもらった。ハリーも行かそうとしたが、この子結構頑固で無理やりついてきたのである。
ひたすら無言の廊下を歩き医務室に入るとマダムがすっ飛んできた。すぐにチョコレートドリンクを渡される。マシュマロ入りの甘さ激増タイプだ。夕飯のデザートはいらないな、とあまりの甘さに痛む喉を軽く抑える。

「ミスターポッターは次の授業へ」
「でも、」
「私が見ているので大丈夫です、さあ」
「……はい」

ハリーに大丈夫、と頷き、すぐ行くから、と言い送り出したものの、私が医務室から解放されたのは夕食の時間だった。チョコレートドリンクinマシュマロでお腹はそこまで空いていない。大広間に入ると、真っ先にスリザリンからからかわれた。情報早いな。へらへらと笑って流し空いている席につく。ハリーたち含めて同学年はまだいないようで、一人寂しくもそもそとサラダを食べようとしたが、3口あたりで気持ち悪くなりやめた。気分が悪い。

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