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それからの日々は特に何事も無かった、と言ったら嘘になるが、今までほどのことは起こらなかった。強いて言うなら、レイブンクローの助けてくれた人にお礼に言ったら友達になった、ということくらいだ。話すと長いためまるっと省くけど、一つ上のチョウとマリエッタは私のことをたいそう心配してくれており、普通のお友達から勉強も見てくれるとのこと。本当にいい人たちだ。マリエッタに関しては私が名字を覚えていないことを笑い飛ばしてくれた。いい人。

それから、私にミサンガブームが返ってきたことだ。というのも、現在引きこもりとなっている私は宿題以外やることがない。本を読む、と言ったって飽きるわけだ。漫画をくれ。そうなると、自然とトランクの中にあったミサンガをいじるようになる。気づけば結構量産していた。一つだけ昔と同じように手につけ、あとは解いてまた編むを繰り返している。不毛と言うなかれ、単純作業は結構楽しい。


「あーっもう、あんなお茶のレポートやる必要があるの!?」
「おーおー荒れてんねえ」

チョウに手伝ってもらった変身学のレポートとネビルと一緒にやったDADAのレポートを提出しようと談話室に降りると、ハーミーがふわふわの頭をぐしゃぐしゃにして唸っていた。あたりには紙が散乱し、インクが散っている。傍から見ると酷いヒステリーな光景だが、事情を知っている分なんとも言えない。全科目、だもんなあ……。特にハーミーは占い学が嫌いだし、あれはほぼ適当に先生のお好みに合わせて書くものだがハーミーは真面目な分事実を書こうとする。でもなあ、お茶の葉の具体的な感想ってったって「お茶でした」とかしかない。わかる。それをつらつらと2枚分、ハーミーは心底嫌だろう。わかる。私はそういう誤魔化し大の得意なんですけどね!
前のDADAを思い出す。ロックハート先生元気かな……退院できたかな……?

「ンニャア」
「お?やっほー、クロ」
「クルックシャンクスよ!」
「はいはいクルックシャンクスね。今日もふわふわですなー」

クロ、もといクルックシャンクスはハーミーのペットの猫だ。猫というよりは魔法生物はらしいが、見た目から猫なので猫とする。存在を知ったのは結構最近で、言いにくいから勝手にクロと呼んでる。ちなみに毛色はオレンジ。日本語がわかる人がいたら二度見するね。

「うるさい」
「おっと。ごめんごめん」

私の声が耳障りだったのか、ハーミーは泣きそうに言った。大丈夫だよ、と彼女のふわふわした頭を撫で、小さく呪文を唱えて杖を振る。机の上に飛び散ったインクがインク缶の中に戻り、散らばった羊皮紙はくるくると巻かれ机の上に収まり……かけて落ちた。惜しい。あとちょっとだった。

「あんまり無理しないで。クルックシャンクスと職員室行ってくるよ」
「…………わかったわ」

クロを抱いて談話室を出る。ふさふさの尻尾は私の手を撫ぜるが、彼女は私を嫌がっている訳では無いのだ。顎の下撫でるとゴロゴロ言うし。猫じゃん。
驚いただろう、最近私はチョウたちのおかげで一味違う。彼女たちが根気よく発音を教えてくれているため、魔法がちょっとずつ使えるようになってきているのだ。フハハ、どうだ、すごいだろう!遅いって言われたら反論できないけど。

職員室の戸を叩くと同時に開ける。失礼しまーすマクゴナガル先生いますかー。

「返事を聞いてから開けたまえ」
「スネイプ先生、こんにちは」
「グリフィンドール1点減点」
「あっはいすみませんやり直します」

一旦扉を閉めて、もう一度ノックする。しかし返事はない。しばらく待って開けると、スネイプ先生はいなかった。は!?…………は!?

「なん、だと……」
「ンナア」

腕の中のクロがアホ、って感じのニュアンスで鳴いた。ごめんグリフィンドール、私のせいでまた1点消えたよ。はあ、とため息をつくと、くつくつと忍び笑いの声が聞こえた。そちらを見ると、奥の方にルーピン先生がしゃがんで笑っている。

「ルーピン先生盗み聞きっすか。ついでに1点ください」
「面白くて……スネイプも子供みたいなことするね」
「1点ください」
「ダメです」

にっこり笑って断られた。ルーピン先生は今日も今日とて疲れた顔をしている。
誰に用だったんだ?と聞かれ、ルーピン先生とマクゴナガル先生っす、と言うと「代わりに聞こう」とルーピン先生は私のそばに来た。マクゴナガル先生に渡して欲しいレポートを渡し、またついでに、とルーピン先生にもレポートを渡す。

「これ、レポートです」
「ありがとう。よくやってきたね、ネビルとやったのかい?」
「えっなんでわかるんですか」
「内容とか言い回しとか結構似ているから。他の先生には気をつけて」

ルーピン先生、優しすぎて2億くらい騙し取られてるんじゃないだろうか。だからいつもボロい……失礼、質素な格好してんのかな。可能性あるぞこれ。
変身学もDADAも自由提出だがやった方がいいらしいので暇だしやっているレポートだが、基礎を理解しきれていない私にはありがたいレポートでネビルもときどきやっている。

「マクゴナガル先生にもお渡ししておくよ。今日は授業は?」
「もう無いです」
「そう。……じゃあ、少し手伝っていってくれるかい?前の2年生の授業片付けなんだけど」
「はい喜んでー!」
「うん、いい子だ。よく働く勤勉なグリフィンドール生に1点」

やりい、ルーピン先生やっさしい。やっぱり2億くらい騙し取られてるなこれ。
以前ルーピン先生にお礼をしに行ったときから、ルーピン先生からこうして授業の手伝いを頼まれたりしている。手伝いも授業の一貫並みに濃く、先生も色々教えてくれるし、終わったあとは紅茶を振舞ってくれるため一石二鳥だ。紅茶タイムは先生とのお話も兼ねている。お話と言っても大したことはなく、世間話から先生の学生時代の話と幅広い。
研究室に移動しようとしたらクロは嫌よ、と言った感じで尻尾をふり私の腕から降りて廊下を颯爽と歩いて行った。それを「夜までには帰るんだよー」と見送り、研究室に行く。

「あ、これピクシーだ」
「そうだよ、もうやった?」
「2年の初っ端の授業で本物教室に出されました」
「……それで?」
「先生も気づいたらいなかったんで、教室で逃げ回って他の先生が来るの待ってたんだったかな」

思い出して少し笑うと、すごい授業だね、とルーピン先生も笑っていた。先生的には危険だけど楽しそう、って感じか。話していてわかってきたが、ルーピン先生は昔ウィーズリーの双子にも劣らないいたずらっ子だったらしい。意外だったが、言われてみると似合っていたりする。

「そうか……じゃあ、ピクシー妖精の退治の仕方、調べておいで。提出はいつでもいいよ」
「ファッ!?」

こうしてにやりと笑うところとか、かなりしっくり来るのだ。ちくしょう……。

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