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減点とセットで戻ってきた赤字だらけのレポートにそこそこへこむ。スネイプ先生も「いつまで我輩の手を煩わせる気ですかな」とか言うんだったらそろそろオーケーだしてくれてもいいんじゃないの?はあー落ち込み。最近レポート格段に難しくなったっていうか私が退化したっていうか、今日も突っ返された上に枚数増えてげんなりと廊下を歩いていると後ろからガッと肩に手が回る。は?なに?重い…。

「まさか幽霊」
「おいおい俺たちを殺してもらっちゃあ困るぜ」
「そもそもゴーストは軽いだろうさ」
「60kgのゴーストがいたらホグワーツは湖の底さ」
「双子60kgなんだ、リークしようかな」

校内新聞の一面にデカデカと頼もうかな。っていうかむしろその背のデカさで60kgは少ないだろ。難しい思春期の年頃のガールズボーイズに魔法飛ばされちゃうねウケる。なんつって、この前よりさらに伸びたような気のする双子を見上げてなんか用かいと聞くとそっくりのフレッドとジョージはニヤッと笑った。

「まあ待てよ、そう急ぐなって」
「まずは世間話から入ろうじゃないか。エー、いい天気だな!」
「そうだまさに曇り空はふさわしい!」
「こんな素晴らしい曇り空の中どこに行ってきたんだ?」
「…スネイプ先生のとこ」
「ゲ」
「なんの用もないだろ」
「レポート再提出。またやり直し」
「また?」
「これで5回目」
「ごっ……お前Aとってなかったか?」
「まぐれはよくあるだろ言ってやるなよ」
「ああ……ごめんな」
「上級生にいじめられたってマクゴナガル先生にいってやるからな」
「おいおい落ち着けよお嬢さん」
「ほんの冗談だろ、ほら怖い顔するな」
「ところで、あのひん曲がった性格が課題にも出ている魔法薬学で」
「まぐれのAをとった優秀な魔女にワクワクする誘いがあってな」
「うっせうっせ」
「ひとつ噛まないか、ナマエ」
「協力したまえナマエ」
「ハーミーに怒られんのは勘弁スね」
「少し先の話だから大丈夫だ」
「お前にも悪い話じゃあない」
「なんか必死……怪し……」

今度は何企んでんだ?ジト目で見やると2人してかがんでくるからよほどバレたくない話らしい。廊下の隅に移動し柱の影に3人しゃがみこむ。

「俺たちの卒業計画その一!」
「ウィーズリー・ウィザード・ウィーズ開店!その二!」
「最高のパレード!その三!」
「これが一番重要なんだ、よく聞けよ」
「おー……?」

たしか双子が談話室で配ってるようなヤバそうな魔法グッズを売る店を作るって言うのは前に小耳に挟んだことがあるような無いような。双子にはぴったりの将来計画じゃんねと頷き拍手をする。2人は満足気に笑って言った。

「「アンブリッジをひっくり返す」」
「ははん流れ変わったな」

アンブリッジを?なんて?ひっくり返す?わぁ……たのしそ。

「それ私に噛めって?マジ?成績ヤバくなりそうな……まあ来年マグルに戻るからいっか。乗ったろ」
「いやそれは別にいい」
「ナマエがいたら大変なことになりそうだからな」
「なんでよいいじゃん、たまには私だって冒険するよ。ほらグリフィンドールだし」
「ロンだったら喜んで巻き込むんだが、流石に今のハリーをこれ以上刺激するべきじゃないって俺たちでもわかるぜ」
「そうそう、お前は楽しく見てなさい。そうじゃなくて、店の話だ」
「ホグワーツで俺たちの窓口やらないか?」
「つまりpart time jobだな」
「あーバイト?でも卒業後ってかなり先じゃん」
「ノンノン」

チッチッと立てた人差し指を振られてちょっとイラっときた。なんだってんだいと人差し指をぎゅっと握ると、片方はそのまま指を振り続ける。強靭な指…これが魔法使い…!?

「今年中には落ち着く話だ」
「はあ……はあ?無理ゲーだろ」
「いいや、無理などでは無い」
「なぜなら俺達には秘策があるからだ」
「ママだって怖くない」
「やらかし前提じゃねーか」

とんだ計画に巻き込まれそうな予感。でもありだわ、と思う程度には最近の私もストレスが溜まっている。

「まあいいよやったろうじゃん」
「話が早くて助かったぜ」
「それでこそ我が後輩」
「俺達も大繁盛して忙しくなりそうだ!」
「ああ、なんなら休みの間は住み込みでもいいぜ」

休み……というと長期休みのことか。いやそれは、と首を振ってもなんと言えばいいのか。あー、んー、と言葉を探すがうまく説明出来るものが見つからない。ちょっと色々あって、私自身もよくわかってないんだけどだめなんだよね。雑すぎる誤魔化しは変なとこ鋭い双子には効かない、どころかまさかの返答が来た。

「……聖マンゴか?」

びしりと固まってしまったのが答えになってしまった。ぐ、なんて演技が出来ないんだ。っていうかなんで知ってんだふたりは。

「えっ……ロンから聞いた?」
「いや、聖マンゴで見た」
「…………見た?」
「聖マンゴに貼られてる写真の中に、ナマエがいた」
「は」

なんだと!?写真があるの!?くわっと目を見開いて詳しく聞けば、入院患者の交流会のようなものの写真展示のひとつに私が写っていたらしい。ただ写っていた私は他の人達が自由に動いている中無表情で座っているだけでおかしいと思ったとか、顔は同じくせにあまりにも雰囲気が違いすぎて私じゃないと思ったとか。え、ええ、ええええ。もう本当にどういうことなのかさっぱりわからなくてそっと頭を抑えると、上から2人分の手のひらがぐしゃぐしゃに私の髪をかき混ぜる。

「あのさ、それ、ロンには、」
「安心しろよ、言ってない」
「ナマエも言ってないみたいだな」
「……うん。ちょっとね、まだこんがらがってて」

てか私も初耳だし。写ってんのに変な話。まあ、いつか、言うけど。ぽつりと零すと、勝手に髪が現代アート鳥の巣になった。こういうとこちゃんとお兄ちゃんなんだよな。




気を取り直して双子からバイトの詳しい話を聞きなるほどおもしれーじゃん、と少しテンションが回復したままこの勢いでやったろ!と元気に談話室で戻って再再再再再提出のレポートを広げると、ちょうど寮から降りてきたネビルが「僕も一緒にやっていい?」と聞くので喜んで向かいに座ってもらう。人がいると心強いよね。一人がいいってタイプと人とやりたいってタイプがいるけど、私は基本どっちでも平気なタイプだ。ちなみに前者はアリア、後者はサーシャがあてはまる。アリアが部屋で勉強するイコールカーテンを閉めるか部屋を追い出されるかだかんね。うちの部屋のヒエラルキートップのつよつよ秀才ガールです。なんてことをぺらぺら雑談していると、ネビルはわかる!とウンウン頷いた。あれいつの間にそんな交流してたのチミら。

「オーウェンはすごいね」
「そうだねえ」
「あっという間に魔法を覚えて自分のものにしちゃうんだ、本当にすごいよ」

同室だからこそわかるが、そのあっという間の中にはアリアの夜毎の努力がある。時にはイライラして八つ当たりしながらも頑張っているのだ。それをわかってるから、私のことじゃなくても褒められて悪い気はしないっていうか胸張っちゃうよね。伊達に監督生狙ってた女じゃないのよ。今神秘部狙ってる野心向上心誇りの高い同室者だ。無駄にドヤ顔をしていると、ネビルは少し悩むように口をもにょもにょさせてから言った。

「ナマエはどうしてDAに参加しないの?」
「……ん?」
「ナマエも、戦う術が必要だろう?」
「……ンー…」

DAってなんぞや。私のはてなマークを置いてけぼりにしてネビルはよくわからんが戦いに備えてどうのこうのと言っている。アーこれもしかしてなんだけど前にもあったような勘違い事故起きてたりする?私が復讐しようとしてるみたいな。ガセにもほどがある。ウーン困ったなあ!ぽりぽりと頬をかいて肩を竦めた。

「や、別に私はシリブラのこと──」
「闇の魔術に対抗するには魔法しかないんだよ」
「……ソッカァ」

結構食い気味で語気強めに言われてしまい圧に負けた。くっネビルなんか強くなったな。魔法が上達して自信がついたのかな、良い事だと思ぜ。思うけどごめんちょっと言ってることよくわかんない。
ネビルが脱獄の件でピリピリしてんのは去年のDADAからも察せるし、誰よりも心を痛めてる。それを否定するつもりは無いからこそ、秘技誤魔化しを発動した。へらりと笑って羽根ペンにインクをつける。

「私にも色々あんのよ」

ネビルは納得いかないような変な顔をしてたけど、一応頷いてくれた。ま、色々あんのよ。よくわかんねーけどしらんけど。

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