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2人とふくろうたちだけの小屋でバシッと渡された紙の束は新聞、それも日刊預言者、つまり今朝の朝刊。さっき大広間でハーミーに見るなと言われたソレ。一面を見てハーミーの心遣いに納得した。
ババン!アズカバンからの集団脱獄!

「”ブラックを旗頭に結集か?” ──なるほどねえ」

脱獄したらしい人達の写真がズラリと並んでいるが誰が誰だかよくわからない。とりあえず獄中があんま綺麗じゃないことは伝わった。アリア曰く、中でも注意すべきなのはベアなんたらなんたらレンジさんらしい。そらもうギラギラした瞳をお持ちのおばさんが写真越しに威嚇してきて慌てて目を逸らした。あのさ、魔法界写真動かすのやめない?怖いんだけど。っていうかニュースにびっくりして流してたけど集団脱獄ってマジでやばい案件じゃねーの。治安が危ない。

「てかこれハリーが危ないやつじゃね?」
「そうね」
「でもなんでこれを私が見ちゃダメって言われてんだ…?これもハリーの秘密のやつ?」
「ナマエが知ったところでポッターの仲間にはなれないでしょうね。あなたのおつむと魔法じゃあね」
「事実が刺さるわあ」
「私は知らせたけれど、反省も後悔もしてないわよ。ブラックと戦うのはナマエだもの」
「…………はい?」

思わずバサッと新聞を閉じた。アリアさん今なんつった?ブラック?と?たたかう?私が?

「なんで!?」
「敵でしょう。親の仇、あなたがおかしい理由」
「おかしいって、」
「同室者が何も気づかないとでも?ノットと協力してまでブラックを殺そうとしてるんだものね」
「おーーーいとんでもない誤解!?」

私ノットくんと協力してシリブラのこと殺そうとしてるって思われてたわけ!?は!?うそでしょ。そんなつもり毛頭ないし多分向こうもそんなつもりないぞ。いらねえクリスマスプレゼントくれたし。奴は私が悪感情を抱いてるって思ってないし実際私も抱いてない。見知らぬ女子生徒にクリプレ贈ってくるシリブラは確かにやばい奴だけど、なんかの事件だって実際は冤罪だったらしいし集団脱獄にも関わってない。はず。たぶん。
アリアはいまいち納得いってなさそうな顔してっけど本人の言うことくらい信じてくれよな。クリプレのことは伏せたまま、とにかくそれはないないないと否定をした。魔法大臣も大変そうで、と他人事すぎる感想を抱いて記事を閉じようとしたとき、アリアから待てが入る。

「これがキナ臭いわ。あなたに言っても無駄でしょうけど」
「…魔法省職員非業の死?」
「この人、無言者よ」
「無言者?」

なんだ無言者って。記事の内容は魔法省職員が入院中に植物に首締められ……ウッワ……最悪すぎる。入院患者に鉢植えを持ってっちゃいけないってこういうこと?びっくり魔法植物…コワ…。ドン引きしている間にもアリアの説明は進み、無言者っていうのは魔法省の神秘部ってところに勤めてる職員らしく結構トップシークレットな部署らしい。トップシークレットな割にアリアさん詳しくない?実は魔法省狙ってたりすんの?もしくは神秘部狙いか…進路の野望が強い。いいと思うよ。夢はでっかく。

「ほーん……神秘部ねえ……どっかで聞いたことある気が…………あっ。思い出したわ、ベクトル先生が前言ってた。神秘部って死のアーチとかいうのあるらしいよ、豆知識」
「死のアーチ?」
「そ、なんかくぐったら死ぬし死体回収も出来ないらしいよ」

アリアは怪訝な顔をしながらも「覚えておくわ」と頷いた。ナマエもたまには役に立つのねっていうのは余計だっつの。……たまには、ね。


その翌日のことだった。集団脱獄の話題は1日経っても冷めやらず昨日に続いてホットな朝だった。ホグワーツの近所らしい叫びの屋敷とやらに脱獄犯が潜んでるとかやいのやいの噂をしている同級にそんなんあって溜まるか!と野次を飛ばしつつ、周りに流されるまま掲示板を見て唖然とした。目を疑った。

”教師は、自分が給与の支払いを受けて教えている科目に厳密に関係すること以外は、生徒に対しいっさいの情報を与えることを、ここに禁ず”

「あれさあ…やばくなぁい…?」
「どうしようもないわよ、教育令が発令された以上はね」

意外にもハーミーは皮肉るものの怒らずにいて私が拍子抜けしたというか、むしろドン引いてるのは私くらいであとのみんなはアンブリッジに上手いこと反抗できると思ってるらしい。ははーん、さては天才か?このときばかりは双子とリーにめちゃくちゃ拍手した。

「っと、ごめん」
「! あなた、ブラックの事件の…」
「あ?」

廊下の角でぶつかりざまに多分上級生の知らない人に言われたことに眉を顰める。なーんか今日はこういうことが多いな?気のせいか?

しかしその日から数日間すれ違いざまにとか大広間でとか、知らん生徒からひそひそされることが続いた。気のせいじゃなかった。何気に腫れ物というか、それこそリーにもこの前「強く生きろ」なんて言われてなんのこっちゃと。私ほど強く生きている者もなかなかおるまいて。
よくわからんままスルーしていってたけど流石の私でもブラックの事件とかマグル事件とか言われるとあーあれねとわかる。だからといってパンピーの私がこんだけ注目されるのは初めてなわけで、しかも私だけじゃなくて校内に結構いるんだよな、いわゆる……被害者側?全く実感がないが私も組み込まれてるらしい。ついでにネビルもその一人で、最近こそこそ言われて疲れるねーって話したばっか。ハリー普段こんなだるい視線受けてるのかあ、大変だなあ。おいコラそこの1年生もしくは2年生くん人に指さしちゃいけませんよ!

そんで恐ろしいことに加害者の脱獄犯と被害者側の人数が明らかにおかしい。ガイシャ多すぎる。つまり、そういうことだ。……コレ、私が思ってたよりめちゃくちゃ危険なのでは?突然現実の恐怖。脱獄犯みたいなのもデスイーターって言うらしいけど怖すぎ、ってか『例のあの人』の仲間やばすぎ、名前をもっとダサいのに変えてやった方がいい。
なにより治安とハリーのためにも早くとっ捕まえて欲しいのに新聞の内容は全然明るくないし、噂は拡がってばっかだし、教育令のせいで先生たちもこそこそしだしてホグワーツは数日間でどうも風通しがめちゃくちゃ悪くなった。短期間でここまでぐちゃぐちゃに出来るアンブリッジも逆にすげえよ。でも占い学からは出ていって欲しいな〜ちらちら。

「ミスターウィーズリー!コカトリスが3羽いた場合の西方向の災いは?教えられているはずよね?」
「ゲッ、え、ええと…」
「ェヘン、もう結構ですわ」

授業中に突然振られて答えを考える隙もなく手を振られ。うむ。はああ!?という感情を顔文字にしたら今のロンの顔だろうな。ドンマイ!と軽く肩を叩くとロンはげんなりした顔で占う気も失せたのか紅茶を飲み干した。
アンブリッジは最近ますます授業妨害の嫌がらせババア化してきてる。ハーミーがいたらブチ切れリターンズだったろうね。今は占い学大好きなラベンダーがブチ切れ寸前、ムカつくのはわかるけどもちつけ、あつあつの紅茶から手を離すんだラベンダー!いけ!やったれ!

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