171

積み重なる宿題レポートを片づけつつハーミーの魔法ポイントを拝聴してロンとグチグチ言い怒られながら図書室で奮闘していると、無事先には着いていなかったハリーがやってきた。
どこかそわついた様子で私の向かいに座り、目の前に積まれていた参考書の山を横にどけようとして既に机の上が物だらけなことに気づき、近くの椅子を持ってきてその上に置いた。すいません散らかして。あとでまとめて戻そうと思ってぇ!と言い訳をする前にため息を吐いたハーミーが杖をひとふり、本は自ら本棚へ戻っていった。うわ魔法ってすげー!ぱちぱちと軽く拍手をすると、その手を向かいからハリーに掴まれる。

「ンンッ……バレンタインのことなんだけど」
「おう」
「……チョウに、デートに誘われたんだ」
「エッ」

ヒューウ!やったなハリー、と口笛を吹こうとして下手くそに空気だけがなりふしゅ〜と間抜けな音がしたけど気にしないでほしい。こっち見んなロン。

「おっほん!やるじゃんハリー」
「え?」
「え?」
「……デートだよ?わかってる?デートだよ?」

再三確認するようにハリーは言葉を強め、同時に私の手を掴む力も強まって、ついでに机ひとつ挟んでんのにぐいぐいと乗り出してくる。おうおう。デートくらいわかるってばよ。チョウから誘われるとはすごいことだよ。なんたってチョウは美人だからなあ…同じアジア人でも私とは雲泥の差よ。月とすっぽんとはまさに。やだ自分で言ってて悲しくなってきたな、いいや私は月とはまた別の場所で輝く星だからさ…へへ……なんつって。
でもチョウといえばディゴリー氏のことはもういいのか?いつか見たラブシーンを思い出しどこか複雑な気持ちも抱えつつ、それは内に秘めてハリーの目を見つめ返すとハリーはムッとしたような、でもどこか寂しそうな顔をした。

「っ、もう知らない」
「うん…?」

可愛らしいじゃねーの青春。あまずっぺーのは私には遠き過去そして世界なわけで、微笑ましく見守る所存である。にやっと笑うと、ハリーはべ!と舌を出して私を睨んだ後荷物を引っ掴んで図書室を出ていった。一体どこへ…?首を傾げると、静観していたロンが「あんな気持ちで補習に、しかもスネイプのところなんて流石に同情する」とやけに大人びたことを言った。補習の前に授業あるけど??


そして午後の授業でハリーは私を避けた。一切目も合わなくて、こーれは怒らせちまったなあと頬をかく。
授業で偶然席が近くなったネビルから「何したの?」と聞かれたが濁して苦笑すると、何故かネビルは「ハリーも大変だね」と言った。ちょ待てよ!なんでナチュラルにハリー側にいるんだ。同室だからか?サーシャとアリアは絶対私側に立ってくれなさそう。ハリーは良い友人関係を築いたようでなによりだぜ。
しかしハリーとの関係がちょっと気まずくなろうが課題は待っちゃくれない。放課後ハリーが補習に行っている間にこれまたハーミー大先生のお力をお借りして図書館にかんづめになること数時間。ヒンヒン言いながらとにかく字を書いていると、ふとロンが「あ」と小さく声を出し、開いていた本を閉じた。振り向くと、補習を終えたらしいハリーがどことなくふらふらした様子でこちらへ歩いてくる。

「ハリー?」
「……」

返事が無いどころかどこかぼんやりした様子に心配になって椅子を引いてやると、ハリーはとすりと力無く座った。額を気にするように触っている。
顔色も白く、窓に写った姿はマジ幽霊みたいで明らかに体調不良。汗をかいてるらしく額に張り付いた髪を退けてやると、私の手にハリーの顔が擦り付けられたが体温が驚くほど低かった。汗ってこれ冷や汗じゃん!ぎょっとして私のローブも追加でハリーの肩にかけると、ハリーは肩に置かれた私の手をぎゅっと握り浅く呼吸した。午後まるまる人を無視してたくせにお調子者めとか茶化してられない。ハーミーが羽根ペンを横に置いて心配そうに声をかけた。

「どうだった?」
「うん……大丈夫、なのかな……」

明らかに大丈夫じゃなさそうだぞ。額の傷が痛むらしく、片目がキツそうに細められる。
魔法薬学の補習ってそんなやばかったっけな。まあスネイプてんてーはハリーがお気に入り(笑)だからよく扱かれてしまったのであろ…かわいそうに……。慰めのつもりで手を握り返し、もう片手でぽんぽんと背中を叩いてやる。

「ねえ…僕、気づいたことがあるんだ」

よく耳を澄まさなければ聞こえないくらい小さい声でハリーがぽつりと言った。3人でハリーの方へ顔を近づけ、話を聞く。

「僕が最近見ていた夢のことだ──廊下を進んだ先には神秘部があったんだ。ヴォルデモートは、」

あっこれ聞いちゃだめなやつだな。ぼんやりしながらもしっかり話しているハリーの手からそっと自分の手を抜いて、代わりにちょうど近かったロンの手を入れさせた。ハリーは気づいてないおっけー。ぎょっとしたロンと目が合い、よろしくな!とウインクしてそっと席を離れる。聡明なハーミーは静かに頷き、私もまた頷き返した。ところでスネイプ先生とんでもない補習してない?やば。




翌日になるとハリーのご機嫌ななめは回復したのかまた目が合わなくなっていて、なんだか面白くなってしまった。目は合わないけどおはようの挨拶はしてくれるんだねハリー。でもまだ顔色は悪いし、ロンの話では夜もあまり眠れてないらしいから心配だ。
朝食の席でハリーの隈を見つつもさもさサラダとトーストを食べた後に降ってきた手紙にげんなりした。すぅっごく見覚えのある宛名の文字にやっぱ無い差出人、ついでにふくろうは手紙を落としたらさっさといなくなる。またかよ〜この前来たばっかじゃん〜!差出人不明の着否ってどこに申し込めばいいんだろうな。朝から目を通す気にもならずとりあえず鞄にしまう、と隣で新聞を受け取ったハーミーが悲鳴を上げた。

「きゃああ!」
「ハッなに!?」
「どうした?」
「ナマエは見ちゃダメ!」
「エッ!?」

覗き込もうとすると顔をぐいっと押しのけられちょっとショック。だ、だめなの…?ハーミーをじっと見るが、彼女は険しい顔で首を振った。

「そんなやばい内容?」
「ええ。ナマエにとっては特にね」
「oh……」

私は見ない方がいいらしいものの、ハリーとロンは普通に見ているし、なんならハリーも私に「ナマエにはまだだめ」と言うのでワカッタヨと頷き先に席を立つ。
さてと、授業まで時間あるけど寮まで戻るのはなあ、でも廊下寒いしなあ…図書館今から行って授業に間に合うかなあ…と微妙に空いた時間に頭を悩ませつつ廊下をふらふらしていると、後ろから名前を呼ばれた。振り返るとアリアがいた。しかも1人。どしたん?と聞くと、さっと腕を取られる。

「ちょっと付き合いなさいよ」
「あら珍し。どこまで?」
「ふくろう小屋あたりが丁度良さそうね」
「手紙でも出すの?」
「いいえ、でもあなたにも知る権利はあるもの」

なんのことじゃろ。よくわからないがアリアに引きずられるままふくろう小屋に上がると、朝の一仕事を終えたふくろうたちが各々自由に過ごしていた。
休憩中申し訳ないと低姿勢でふくろうに心なしか睨まれつつお邪魔し、そしてアリアに渡された紙束を見て彼女言う意味を理解した。ははーん。

×
「#エロ」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -