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プレゼントされた意味がわからない箒フロムシリブラを見なかったことにしてベッドの下へ封印し、全てを忘れて毎日午後に起きては宿題をやってマフラーを編み暖炉の前でゴロゴロし夕食の席でアンブリッジに「なんてだらしのない!」とチクチク言われながら極上の怠惰の極みを過ごした休暇が終わった。終わってしまった。新年明けてしまった。あけおめ。クリぼっちに続きあけおめぼっち。
まあ明けてしまえばみんなが帰ってくるのはあっという間で、寂しくなんかないんだからねっ!とセルフツンデレをしつつ上着を着込んで玄関まで出迎えに行き待っていると、人の波が落ち着いた頃少しよたついたハリーが走ってきた。勢いのままに体を受け止めふっ飛ばされ……るわけにはさすがにいかないからぐっとよろめくくらいに耐える。そのままぎゅうぎゅうに抱きしめられた。ぐええ。

「ナマエ!会いたかった!」
「おう…ひさしぶり…グゥ…つよくなったな……」

ギブギブ!と背中を叩き離れてもらう。去年ぶりのハリーの顔を見上げると、眼鏡の奥の緑がきれ……アレッ!?前より背が伸びてないか!?うそだろこの短期間で!?成長期ってすげえ。
後ろから戻ってきたハーミーとロンにもハグで挨拶を交わし、これまたロンがさらに伸びた気がしてぐぬぬ。悔しみ。わ、私だって成長してるんだからねっ!負け惜しみ乙。3人ともまずは寮だね、と歩く途中でもう話が止まらない。特にパーシーの話はびっくりした、ウィーズリー家といえば家族愛強めなイメージだけどまさかパーシーがねえ。受け取り忘れて返ってきたんじゃね?ほら忙しいと再配達忘れるのあるある。秘書なら尚更激務だろうに、っていうか魔法大臣の秘書っていつの間にすごい出世をしてる。俺のダチの兄貴は魔法大臣の秘書なんだぜ!絶妙にダサい虎の皮だな…。お前誰なんだよってハナシ。

談話室でゆっくり腰を落ち着けると、ハリーは改まったように私に向き合い、そして口を開けたり閉じたりして何かを言おうとする。紅茶を飲みハーミーの宿題計画帳の話を聞きながらハリーが喋るのを待っていると、宿題計画帳の真ん中のページに付箋が貼られたところでハリーが覚悟したようにごくりと唾を飲んだ。

「ナマエ……あの…クリスマスプレゼントなんだけど……」
「うん、ハンカチありがとね」
「…毎日使ってね」

ポケットからもらったハンカチを出してみせるとハリーがにっこり笑った。言いたかったのってそれ?フフンちゃんと早速使ってますとも!でも毎日は無理じゃん?妖精さんのおかげで洗濯が追いつかないなんてことは無いだろうけど単純に私が忘れるじゃん?自慢じゃないが一週間のうちハンカチを忘れない日は3日くらいだろう。ほんとに自慢じゃないごめん。
そしてクリスマスプレゼントといえば、だ。もちろんございますとも!ちょっと浮かれてポケットに入れていた紙袋を出す。

「それで……ひとつ、大きなプレゼントがあったかもしれないんだけど、」
「じゃじゃーん!」
「え?」
「あっごめんタイミング間違えたわ。リテイクするから続けて」
「無茶言うなよもう出てるだろ」
「決まらないわね…」

横で見てたロンが呆れたように茶々を入れてくる。ハーミーのため息にうっごめんとハリーを見ると、ハリーは大きな目をさらに大きくさせて私の手を見ていた。左右に動かすとハリーの目もまた私の手を追って動く。うはは猫ちゃんみたい。なお猫ご本人のクルックシャンクスことクロは暖炉前の特等席で人間の戯れをガン無視してすやすやしてる。

「……それって、」
「ちゃんと間に合わせましたとも!開けてみそ」

戦場のメリークリスマスならぬ年明けのメリークリスマスだ。エッヘンと胸を張りそのままハリーに渡す。ちら、と私の顔を見てからハリーはそっと宝物のように袋を開けた。いやラッピングもなにもないただの紙袋だからそんなふうに扱わなくていいんだよ。

「ナマエ……うれしい、ありがとう」

ハリーがあまりにも幸せそうに笑うものだから面食らってしまった。白いマフラーをぎゅっと抱きしめ頬擦りをしているのを見て、なんだか泣きそうな気分になった。これが…尊み…?私は編んだだけなのにね。ちょっぴりの罪悪感にもやもやする胸を抑え、誤魔化すように笑い返す。

「これで僕、明日も頑張れるよ」
「明日?」
「最悪なことに、スネイプの補習なんだ」
「補習だあ?」

ハリーが?魔法薬学そんなに酷くなかったと思うけどなあ、少なくとも私よりは平気だろうに。よくわからないが、大変だねと頷いておく。ついでに苦々しい顔をするハリーの眉間に寄った皺をぐりぐりと指で押してほぐしほぐし。

「大丈夫だよ、大鍋洗ってるあいだはスネイプ先生大体いないから」
「あなたのは罰則、ハリーのは補習だからスネイプはいるわよ」
「あうち……」

ずっと監視されてチクチク小姑されるのを想像しただけでぞわっときた。年明け早々超ドンマイ!
超ドンマイなのはおそろしやスネイプてんてーが補習中ずっといるのもそうだけど、そもそも補習となったらしい月曜は普通に魔法薬学が2限続いてるもんだからなおさらドンマイ超ドンマイ。

朝会って夜も会うことになるっつーことで、ハリーにとって月曜は魔の曜日になるんだな。しかも週の始まり、ウーン日曜の夜に朝が来ることに絶望しちゃいそう。おおハリー可哀想に!強く生きろ。
とりあえず午前中の授業は任せてくれ、何もせずとも的になる私がいる。……あやべ、材料入れる順番間違えたわ。まあ多少前後してもどうせ全部溶けるんだからなんとかなる。ボンッ!ならなかった。

「あっ。うーんカレーだったら上手く作れんだけどな」
「魔法薬学をなんだと思っているこの馬鹿者が!グリフィンドール5点減点!」
「すんません」

いい加減学習せんか!と怒鳴られ続けてついに上級生になってしまいました。最近下級生から真似しちゃいけない先輩として認知されてきた気がする。特にスリザリンからは近寄るなと言われるようになったけどそれはもはやモンキーではなく猛獣扱いなんだわ。
ただでさえ量が多いのに私だけ反省文の代わりにまたふた巻分増えた宿題を一旦横に置いて昼食を食べる。サンドイッチも疲れた私につられてなんかパサパサモサモサしてる……いやそれはいつものことだったな。
私がパサモサンドイッチをオレンジジュースで流し込んでいる間にも今日のハリーは随分とモテていて、人がひっきりなしに来ては話をしていた。それは昼食が終わったあともそうで、図書館へ向かう途中もめちゃくちゃ話しかけられしょっちゅう足が止まる。しかも話しかけられる度に補習の説明をしてるからだんだんとハリーも不機嫌になってくるしこっちがハラハラする。わざとか天然かわからないが煽るだけ煽って去っていくハッフルパフ野郎を睨みつけロンがハリーに言う。

「呪いをかけてやろうか?ここからならまだ届くぜ」
「ほっとけよ、きっとみんなそう思って──」
「んじゃここは私が」
「ううんナマエはこっち」

やったろうじゃん、と気合いを入れて腕まくりした手をハリーに取られてしまった。いいのか、まだいけるそうだけど。まあハリーがいいならいいさ、と苦笑した顔と目を合わせて肩をすくめると後ろからまた彼を呼ぶ声がした。揃って振り向くと、チョウがいた。

「ハリー」
「やあ」

ぎゅう、と手に力が込められ、力の主であるハリーを見上げると彼は真っ直ぐチョウを見ている。
視界の端でハーミーがロンの肘を引っ張るのが見えた。2人の様子にはっはーん!ピンときた私もファイトの意味を込めてハリーの背中をぽんと叩き、ハーミーたちに続こうと階段へ行──こうとしてつんのめった。

「エッ?」
「え?」
「えっ?」

や、あの、ハリーポッターなんで手を離さんのだ。ここに私がいたらダメな空気じゃない?これ。さすがに分かるって、と緊張からか力が込められた指一本一本を剥がして手を離し、黙ったままのハリーにぐっと両手を握りファイト!とジェスチャーで表して階段の数段上にいるハーミーたちに追いつく。

「…ナマエ、あの、いなくていいの?」
「え?なんで?ハリーとチョウが話すんのに私邪魔じゃね?」
「えっと…」
「告白の場にダチの応援があるのはどうかと思う派なんだよね」
「はあ……つくづくナマエって奴はわけがわからないよ」

階段をあがりながらそう言われ、ロンにぱしんと後頭部を軽く叩かれた。なにおう!と背中を叩き返すと厚いセーターがぽすんと揺れる。そんなわちゃわちゃをしていたからか階段は降りるはずの階を通り過ぎて行ってしまいああああ!3人揃って違う階へ降り立ってしまった。
……はは、ハリー私たちより先に図書館にいたりしてな。ついこの前の空き教室を思い出して全くわろえない。ホグワーツ隠し道ありすぎ忍者屋敷ならぬ忍者城かよ。

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