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Harryの綴りにつられてMerryがMarryになってしまったがなんとかがんばって誤魔化したクリスマスカードをハーミーに預け今度こそ見送った後、シンと静まる廊下を歩いて寮に戻る。と、誰もいないはずの談話室で、暖炉の前にでっかい白い人がいてガチビビって転んだ。

「おお、大丈夫かの」
「おおじゃねっす……マジでビビった……なんでいんの……」

おじいちゃんせめて白い服やめて、日本での幽霊のお約束だからそれ……。バクバクする心臓を抑えながら手で促され、コートとマフラーと手袋をとりつつ向かい側のソファに座ると、ダンブルドア先生は杖を一振。ポンッと紅茶…ではなくバタービールが2本出てきた。栓抜きが見当たらないから自分の杖の先で開けて渡すとダンブルドア先生はぎょっとした顔で私を見た後、笑いながらバタービールに口をつけた。

「今の、スネイプ先生には秘密で」
「むろん、ミネルバにも内緒にしておくとも」

ぽかぽかと体の内側から温まる感覚にほっと肩の力が抜けるが、喉が痛くなるような甘さだ。
そんでもってなんでダンブルドア先生は誰もいないグリフィンドールに来たのか、まさかマジでバタービール飲みに来たんじゃ。あっもしかしてお医者に止められてる…?確かに糖尿まっしぐらな味してるわ。やば、止めた方がよかったかもしれん。今からでも止めるべきかとダンブルドア先生を見ると、先生はなにやら難しそうな顔で口を開いた。

「……わしは、友情の前に秘密は無い方が良いと思うがのう」

まぁたハリーか。あー、うん、ソウカモネ……ダンブルドア先生から目を逸らし暖炉で揺れる火を見る。
私に聞いてるのか独り言なのか怪しいけど、どちらにせよ私しかいない以上私に聞かせるための発言だ。ンーなんというか、逆ギレみたいになるけどそもそもハリーが嫌がってんだからいいだろうよ。

「……もちろん必要だったら聞きますけど、でもハリーが必要じゃないって思うんなら必要ないんですよ、きっと。私にとっても」
「グリモールドプレイスに行く気は無いかね」
「無いっすねえ」

ていうかどこそれ。そのマリモだかグリモだかなんたらにハリーがいるとしても、大好きな名付け親とクリスマスが過ごせるんなら私が行ったところでおじゃま虫でしかない。
それに私はまだここから出られない、そんな気がする。願望かもしれないけど、願望だとしたら私はますます小さい人間に……うわやだなやめよう。寒いからこんなこと考えちゃうんだ、やだやだ。悪い思考を振り払うようにバタービールを呷る。それでもなおダンブルドア先生は続けた。

「ハリーの心はひどく傷ついておる。彼の心が乱れる度に彼の身は危険になるじゃろう」
「私が行ったところで変わりゃしませんて。ハリーが自分で飲み込まないと」
「安定した人間がそばに必要じゃとは思わんかね?」
「名付け親は安定した人間じゃないんですか?」
「ふむ……彼もまた複雑な身の上でな。ハリーの揺れ動き暴れる心に寄り添えるとは限らん」
「そらそうですよ、ハリーだって思春期なんだから」

肩をすくめて言うと、ダンブルドア先生はキラリと目を瞬かせる。
ハリー抜きでハリーの話をするのも正直どうかと思うけど、先生は先生でハリーに対して思うところがあるのかもしれない。去年のことがあったし、特に今年はアンブリッジの件があって確かにハリーはキレやすくなってるし。危険スポーツというストレス発散法も無くなっちゃって、ついでに試験もあって大量の宿題もあって……はあ……こっちも憂鬱ぅ……。
ソファの背に沈むように身を預けてダンブルドア先生を見つめる。ダンブルドア先生は少し考えるように静かな時間を過ごした後、自分の髭を優しく撫でつつ穏やかに笑った。

「クリスマスプレゼントはもらってやりなさい、いつか役に立つじゃろう」
「え?」

いや今そんな話してなくない?突然の話題のぶっ飛び。よくわからんが頷いておいた。
おじいちゃんあなた疲れてるのよ……あっでもバタービールは一本だけだからね、と追加で現れたビールを抱え首を振るとダンブルドア先生は悲しそうに瞼をふるわせた。ミネルバのようなことをってやっぱ止められてんじゃねーか。高血圧にお気をつけあそばせ!


今年はアンブリッジのお陰でみんな蜘蛛の子を散らすように去っていったためメリクリぼっちなわけで、つまり誰にも起こされることなく気ままにスヤスヤクリスマスだ。
マフラーを編みながら寝落ちして、起きたのは昼過ぎだった。昼過ぎといってもしっかり午後の時間、大広間はもう片付けられてるだろうしとりあえず芋ジャーの上を着ながらぼさぼさの頭で談話室に降りる。
ツリーの下にちょこんとプレゼントが置かれていた。嘘、なんか一個でかいのがある。えぇ…なに……?ビビりつつ知ってる名前から開封していく。お、ロンから百味ビーンズだ。私の朝ごはんだありがてえー!とりあえず3つつまんで口に入れる。………………ぐっ。ノーコメント。
ハーミーからは宿題計画帳だった。ありがたいけど今は見たくないかな……表紙だけ見てそっとテーブルに置いた。耳ならぬ目が痛い。そしてハリーからは可愛らしい花柄のハンカチ……うおっなんかいい香りする!花の香りの魔法がかかってるっぽい、すごいなこれ。それから小さな緑色の箱に手をつける。中を開けてびっくり。

「10円じゃん!!」

とてもとても見慣れた日本円がジュエリーのように入っていた。うそでしょどういうことなの、とまじまじと大切に見る。くるっとひっくり返してみると、ウーン。

「……偽貨じゃねえか!」

マジで何考えてんだ!?10円玉に描かれている建物の本来は平等院鳳凰堂なわけだけど、驚くことに城が刻まれていた。しかも洋風建築、多分これホグワーツだな…?いやわかんないけど、ホグワーツ城じゃなかったらマジでどこ案件。どこだしなんでだし。箱の底に入っていた小さなカードに「常に持ち歩いておけ T.N」と書かれていた。どういうことだよ。あいつマジこの前からなにかんがえてんの。どっと疲れた気分でとりあえず10円をポケットにいれておく。絶対無くす気がするけどまあそんときはそんときだ。
あとは大体がカードで、その中にも一つしっかりした手紙があったが中をチラッと見てゲンナリした。メリークリスマスならよくわからん説教はやめてほしいものだしそろそろちゃんと差出人を書いて欲しいものだ。今のとこ故人の厄介ファンが暫定の呼び名なんだけどそれでいいのか?今度から差出人不明の手紙着否しようかな。

そして差出人といえば、と一番大きな箱を見る。差出人のタグは無く、これ中にも入ってなかったら普通に先生に持っていく案件なんだけど昨日のダンブルドア先生の言葉がよぎる。もらってやりなさい、って多分これのことなんだろうなあ……。誰なんだろ。
とりあえず包装紙を剥くと、これまた上等そうな立派な縦長の箱が出てきた。私の背より少し小さいくらいの長さで開けるのも一苦労だし、一度横に倒してみるとなかなかの重量がある。さてさてさて、と箱に手をかけパカンと開けてみる。

「……箒?」

明らかに磨かれていそうなツヤツヤした箒が箱の中に収まっていた。新品の箒ってこんな感じなんだ、へえ……。ところでこれ宛名間違ってないか?もしかして:ハリー宛。
しかし私の天才的なひらめきは箱の中に同封されていたものすごく手触りの良い手紙に否定された。ナマエへ、とハッキリ書かれている。

” 親愛なるナマエ・ミョウジへ 素敵なプレゼントをありがとう。いつか君に会えることを楽しみにしています。良いホリデーを!
感謝を込めて──


「──シリウス・ブラックより”」

気のせいかと思って二度見した。変わらなかった。細く綺麗な文字でしっかり書かれてた。Sirius Black。

「……はああああ!?」

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