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マダムポンフリーに健康の太鼓判を押されて寮に戻ると部屋は綺麗に片付いて……いるはずだったがそうでもなかった。しかもサーシャは荷造りがまだ終わってないと言うので、私を追い出しておきながら何してたんじゃ!と叱りながら荷造りを手伝いなんとか終えた翌日、談話室に降りるとハリーもロンもハーミーもいなかった。
朝は大体私が一番最後で待ってくれるのは三人の好意だから今日は普通に先に行ったんだろうな、とコートを着てマフラーを巻いていると、後ろからおはようと声をかけられる。振り向くとまだ眠そうに目を擦っているネビルがいた。

「お、ネビルおはよう」
「2人は来ないよ」
「え?」

ネビルがそっとかがむので顔を近づけると、小さい声で教えてくれた。なんでも昨日の夜中にハリーが暴れだしたらしい。暴れたっていうのは癇癪とかそういうのじゃなくて、寝てたと思ったら急に叫び出して吐いてロンのパパが襲われたと言い出したらしい。ワーオ……と思わず口を手で覆ってしまった。

「シェーマスから聞いたんだ。 ハリーは蛇の中にいてロンのパパを襲ったんだって…」
「蛇……の中…?」
「うん……。ねえ、ハリーが襲ったんじゃないよね…?夢なんだよね?昨晩マクゴナガル先生に連れていかれてから、ロンもハリーも帰ってこないんだ」
「そ……れは…」

自分が蛇になって親友の父親を襲うとかガチの悪夢すぎてなんとも言えずもにょもにょと口の中で言葉を探す。シビル先生もびっくり満点の夢占いの出来。
泣きそうなネビルの肩を軽く叩きとりあえず大広間に促した。お、お腹が空いてるから不安になるんだ!大丈夫だ!多分!どっちにしろ今一番ドンマイなのハリーと安否不明なロンのパパだし! ……夢、であってほしいもんだ。

怯えるネビルの背中をさすりつつ大広間へ行くと、ハーミーが私に手を上げて合図をしてくれた。ネビルはシェーマスたちとと食べるらしく別れてそちらへ行くとハーミーは1人だけで、どうも2人は大広間にもいないらしい。

「おはようハーミー」
「ナマエ……あの、2人は──」
「さっきハリーが悪夢見てロンと出てったってネビルから聞いた」

顔を近づけて小声で言うと、ハーミーはこくこくと頷く。そしてちら、と教員席のほうへ目配せをする。ダンブルドア先生のことかな、と目をやると、ダンブルドア先生にたどり着く前にめちゃくちゃ凄い形相をしているアンブリッジがこっちを見ていてビビった。ダンブルドア先生にはウインクをされて、それでハリーたちは大丈夫だとわかるけど、それより……アンブリッジこわ……。

「なんで私たちあんな睨まれてんの?なんかした?」
「ハリーに逃げられたと思ってるのよ、2人はもう城を出てるから」
「ああ、なるほど。どうせ今日出るか明日出るかの違いじゃん…細けえな…」

チキンのスープを飲みながらハリーがどうなったかを聞く。といってもハーミーも今朝一番にダンブルドア先生に呼ばれて聞いた話で2人には直接会ってないらしく、彼女もそわそわしていた。
しかし夢ではなかった、と聞いて思わずスプーンを落としかける。

「……正夢ってこと?」
「違うわ、本当に見ていたのよ」
「本当に?蛇の中で?」

頷かれて眉間に皺が寄る。幽体離脱したうえに憑依…?ますますとんでもない事態になってきた。そんなことがあってハリーも落ち着いてなんかいられないだろうから家に帰れたのはいいかもしれ……いや待て確かハリーの家族ってなんかやばいんだっけ?

「ハリーは家に帰って大丈夫なの?」
「大丈夫よ。あの、家といっても、……少しちがって。でも安全なところよ」
「ハリーが頼れる大人は?」
「いるわ。大好きな名付け親がね」
「ほ、なら良かった」

うんうんと頷きチキンを頬張る私をハーミーはじっと見つめた。何か言いたげな視線に首を傾げると、ハーミーは数回呼吸をしてから目力を強めて口を開く。

「ナマエは、それでいいの?私はハリーと付き合う以上ナマエも知った方がいいと思う」
「……アー…うん……」

ぽりぽりと頬をかいて肩を竦める。誤魔化すようにへらっと笑ったが、多分ハーミーにはバレてる。

「ハリーが知られたくないってんならいいよ。話したくなったら話してもらう」

わかってる、これは逃げだ。現実を知りたくない私の逃げ、深入りしたくない私の守り。そろそろちゃんと変わるときが来ているのかもしれないけど、今はまだハリーの意思を尊重するふりをして黙っていたいのだ。



ごく一部でアクシデントはあったものの我が学年の希望のクリスマス休暇が始まる。玄関前の雪がぐしゃぐしゃに踏まれていく。
ウキウキでトランクを抱えるサーシャを見送り、寒いからか少し不機嫌そうなアリアを見送り、そして1人で駅へ向かうハーミーを見送る。私は玄関までだ。寒いし、外に出るのはやっぱちょっと不安だし、あと寒いから。
足元気をつけて、と手を振ると、数歩先に行ったハーミーが何やらカツカツとブーツを鳴らして戻ってきた。

「どうしようか迷ったけれど、やっぱり書いて」
「え?なに?」

ぐい、と袋を押し付けられる。紙袋を開けるとカードが一枚と毛糸とかぎ針が入っていた。なにこれとハーミーを見ると、羽根ペンを渡される。

「ハリーにクリスマスカードを書いて。あなた滅多に書かないんだもの、絶対今書くべきよ」
「ええ…ハーミー乗り遅れるって」
「どうせ列車に乗るつもりは無いからいいのよ」

列車に乗らずにどうやって帰んの、まさか箒か!?と驚くとハーミーは呆れたように首を振った。ナイトバス…?ホグワーツ前にバス停なんてあったっけと首を傾げるも、ハーミーがはよせいと圧を強めるので仕方なく壁を机にして書くことにした。

「カードは私が渡しておくから、ハリーへのクリスマスプレゼントは帰ってきてから直接渡してね、それ」
「それ? ……これ?毛糸?」
「それでマフラーを編んでちょうだい。前のマフラーはしもべ妖精にあげたんだけれど、ハリーはもらえると思っていたらしくて大変だったの。素直に言えばいいのに、そういうところばっかり。あなたのマフラーも返ってくるかもしれないわよ」
「えっやだよ。私の体はもうあのマフラーには戻れないんだよ」
「あら、ならずっとそれを使ってるといいわ。ハリーの機嫌も保たれるし一石二鳥じゃない」

ふかふかと首元の柔らかいマフラーを揉めばハーミーはおかしそうにくすくすと笑う。よくわからんが私のクリスマス休暇はマフラーを編んで終わりそうな予感。
そしてカードには魔法がかかっているらしく、絵だけどなんかの木には雪が降っている。この木なんの木気になる木。

「この木の上に文字書いたら雪止まったりしない?」
「ヤドリギのこと?雪は止まらないでしょうけど、狭いわ。字は大きくね、ナマエの字は個性的だから」
「下手くそって言っていいんだよ」

あとスペル間違えたらごめん。不安だったからハリーの綴りをハーミーに言ってもらい書き込んだ。も、もちろん友達の名前くらい覚えてますとも!覚えてるけどね、念の為!

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