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間に合わねえ!と慌てて走ったものの階段に置いていかれ廊下で滑りかけ、なんとか最速で空き教室へ滑り込んだが呼び出し人は優雅に本を読みながら無情に「3分」と私が遅れた数字を言った。なんでもういる。

「ゼ…ゼェ…ハァ……むりだろ…ハァ……ハァ………ゼェ……」
「グリフィンドールの癖に抜け道も知らないのか?」
「全員がそうだと思わんでくれよ!スリザリンにだって純血主義じゃない子いるっしょ」
「いない」
「…………あっはいそうですか」

即答こえー!触らんとこ。そしてまだ息が上がっている私を無視してノットくんはス、と杖を上げた。私に向けて。えっ。

「ちょちょちょなに!?」
「クリスマス前に確認しておきたい」
「なにを!?説明を」
「Legilimens!」

バチッ

「ギャンッ…………え?今の何?」
「shit!」

ノットくんもそういう言葉使うんだねえ!?その前に言うことあるよねえ!?
魔法を撃たれたのも怖いしなんの魔法かわからないのも怖い。身体に変化は無さそうだけど、今のところはって話だし、っていうか本当になんなの?流石にイラッとして睨みつけるが、ノットくんのほうも不機嫌そうな顔で私を見ていた。

「何しやがるんじゃ!」
「意識的か?無意識か?」
「何が!なんなの!説明しろって!」
「無意識、か……?普段からそうしているのか?」
「だから!なにが!」
「生まれつき閉心術を?」
「だから説明をしろって……閉心術?」

何それ、と眉間に皺を寄せつつ聞くと、ノットくんは心を閉ざす行為だと言った。……心を閉ざすぅ?私が?意味わからん。少なくともノットくんには開いてる方じゃね?素直にそう言うと、ノットくんは奥歯にネギが挟まって取れないような微妙に嫌そうな顔をしたあと杖をしまった。はよしまえ。くわばらくわばら。
聞けば開心術とやらは相手の心を覗く魔法らしい。かけられた瞬間のこともそうだし、遡って過去の記憶なんかも見れちゃうとか──なんつうもんかけてくれてんだ。怖すぎ、魔法強すぎ。

「あっぶねー!よくわかんないけど生まれつき阻害機能持っててよかったー!」
「見られて困るものが?」
「へへ…まあ恥の多い生涯を送ってきたもんで…」
「ハ、だろうな」
「おいコラ」

まあ、つまり突発的なノットくんの実験だったが……なんの収穫も得られませんでした!乙!


魔法をかけられて、そんな大したこと……大したことではあるけど肉体的には問題なさそうな内容、けれどもなんとなく不安でマダムポンフリーのところに寄ってから寮に戻ろうと階段を降りるとスネイプ先生に会ってしまった。ゲッ。

「ここで何をしている。ポッターはどうした」
「保健室に行くとこです。ハリーは……えーと今日は会ってないな…多分校内のどっかです。ハリーになにか?」
「またくだらん企てをしているのではないかと心配しているのだ」
「1ミリも感じられない声色ですけど。あのク…くぃづ……くでゅち?がダメになってからそりゃもう落ち込んで、」
「……まさかクィデッチのことか」
「そうそれです」

信じられないという目で見られてしまったがもう慣れっこです。むしろ久々にされたよその目。発音むずいんだって!
コホンとわざとらしく咳払いをしたスネイプ先生は私をじろりと見て「怪我はしていないようだが」と言う。あっサボると思われてる!今は放課後なんですよ先生!今日は珍しく補習も罰則も無いんでサボるもなにもないんですよ!アイムフリー!

「なんかさっき魔法をかけられて不安なんで一応行っとこうかと思って」
「魔法だと?」
「開心術ってやつらしいです。レズリメンスって言ってたかな」
「Legilimens」
「そうそれです」

信じられない目リターンズってわけ。うるせえやい。
スネイプ先生は「魔法を使ったのは誰だ」と聞いてくる。しかもその声色がものすごく冷たいものだったから思わずビクッとしてしまった。

「えっと…ともだち…?」
「グリフィンドールで開心術を使える者はいないに等しい。レイブンクローかスリザリン……ノットか」
「推理はっっっや」

名探偵スネイプじゃん…なにその頭の回転力怖い。当たってるし。ハッフルパフにもいるだろ。しかしここではいそうですと答えたらノットくん怒られたりしないか…?まあ今回ばかりは怒ってもらって結構だしどうせスリザリンだからちょっとメッ!て口頭で怒られるくらいなんだろうけど、なんとなく言いづらくそっと目を逸らす。

「用心を知らぬ猿にはいい忠告になっただろう。ミスアンブリッジには気をつけるように」
「えっ」

スネイプ先生は私の反応を鼻で笑って去っていく。黒い後ろ姿をぽかんと見送った。……つ、つまり、ノットくんはお咎め無しってことか!?それはそれでなんかムカつくな!?
ぐぬぬともう見えなくなってしまった背中を睨みつけなんともいえない感情を流そうと大人気なく地団駄を踏む、とスネイプ先生が消えてった道から誰かが走ってくる。

「チョウ?」
「ナマエ……」

しっかりと手入れされている艶やかな黒髪が揺れて……えっ泣いてる!?泣いてません!?何があった!?わたわたとしていると、チョウはギッと私を睨みつつ私の横を通り過ぎ去っていった。…………ええええ。な、なんかしたか……ご機嫌ななめだったのか……え……?

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