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ハグリッドが戻ってきたから魔法飼育学は教員交代らしい。もともとばあちゃん先生はハグリッド不在中臨時の先生だったとかで、「キメラだったらどうしよう…!」と不安がるパーバティを見送る。キメラて。存在自体ファンタジーっぽいけど魔法なんて全てファンタジー、しかも今までのことを考えるに可能性があるところが怖い。保護者からのクレームを恐れない男ハグリッドだからな……あー飼育学とってなくて良かったー!こちらはぬくぬくの室内授業です。
安心して二進数を解読していると、私の話を聞いていたノットくんがポツリと言った。

「セストラルじゃないか?」
「飼育学のこと?なにそれ」
「数ヶ月前のことに記憶障害が…痛ましい……」
「無駄に演技力あがってんな…」

ノットくんの推理はさていかに。んでセストラルってなんだっけと再度聞くと、面倒くさそうにお仲間に聞けと言われてしまった。すいませんね貧弱な記憶力で。

「それより、ポッターとウィーズリーが終身クィディッチ禁止らしいな」
「ああ…スリザリンではホットなトピックでしょ」
「ポッターに関しては全校の注目だ。あの程度の挑発にも耐えられんとは」
「いやそもそも挑発すんなよ、ってああもうこの話になると私らまで揉めそう」
「だが早速教育令のいい見せしめになったじゃないか。魔法省があのような愚かな許可を出したということが我々に対しての警告になる」

棘のあるどころか刺刺しい言い方にぎょっと目を見張りノットくんを見ると、少し俯きどこかがっかりしたような、でも嘲笑は欠かさずな表情をしていた。なにか思うところがあるらしい。というか、発言が不穏すぎる。眉を寄せた私に気づいたノットくんは片眉を上げ意地悪そうな顔に変えたが、そのわざとらしい誤魔化し方にもますますの不穏が見えた。さらにわざとらしく咳払いをしたノットくんがとんとんと私の羊皮紙を叩き数字の間違いを指摘される。あざす成績優秀者サマ。

「クリスマスの予定は?」
「え?デートのお誘い?困っちゃう」
「今年は怪我で聖マンゴに放り込まれることになりそうだな」
「やだな冗談っしょ」

ガチなトーンで言うなよ怖いな!しかも自分の手を汚さずに怪我させる気じゃねーか。怪我どころか海に沈められそうな声してたけど大丈夫?うんまあこの場合大丈夫じゃないのは私。
今のところは聖マンゴの予定もないはず、と最近のことを思い返しつつ言うと、ノットくんは「呑気なことだな」と皮肉を忘れない返事をくれた。試験もあるし、アンブリッジの件もあるしと色々問題は山積みの中で、クリスマス休暇は帰宅組の唯一の心の解放場になりそうなものだが、どうもノットくんはそれに当てはまらないらしい。私にはさっぱりわからないが貴族の付き合いがあるんだとかで、大変だねー。クソ他人事である。他人なのでね。



冬はどんどん進み寒さが増していく。そして私の着膨れも増していく。毎年言ってるけど城の中寒すぎるんだって。

「ナマエ、」
「うん?うわ冷たっ、手袋…」
「もらうね」
「いやだが??」

クリスマス休暇が近づけば近づくほどハリーはよく私の手を握るようになった。別にいいんだけど手袋は外さないで欲しいんだ。いくらハリーの手が暖かくとも風は寒いんだよ、なんつう絵本みたいなことを言う羽目になるとは人生って不思議。なおハリーは全く聞いてくれなかった。
まあ、まあね、ハリーの手くらいならまださほどのもんでもない。これは寒いからって言うより彼の不安を表すようなアクションだから、何かあるんだろうなーと察する程度で。
下級生のガキンチョに悪戯で首の後ろから雪を入れられたときはマジで死ぬかと思った。あれはいけなかった。人体から発してはいけないような叫び声を上げて廊下にぶっ倒れ、冷たさに暴れ散らかすという恥も外聞も殴り捨てたリアクションをしてしまった。しかも廊下に響いた私の叫び声が危険魔法生物の鳴き声と勘違いされたらしく、ハグリッドがアンブリッジに追加でチクチクされたことも大変申し訳なく。全ての戦犯はグリフィンドールのクソバカ下級生なんだけど……そのクソバカも私の尋常じゃない暴れっぷりに怯えて泣いちゃって……なんかごめん……。校内新聞に載せたレイブンクローは許さねえけどさ。ジニーちゃんがボコボコにしてくれるので首洗って待ってろ。
そして日々の苦しさはそれだけではない。

「ヒン……おわらない……」
「ほらあーんして」
「たすけて……ヒン……」

学生ってほんとつらい!CANMAKE HOGWARTS。ひんひん泣きながら手をインクで汚す私の隣でハリーはせっせと私の口にクッキーの欠片を運んでくれる。うま。ありがたいんだけどクッキーはもういいからちょっと手伝ってくんない?と目を向けるもハリーとて死んだ目をしていてあっ(察し)。これダメだわ。
宿題の山を前に秀才大天才ハーミーがいないのはキツいし、また一緒に苦しんでくれるロンがいないのもキツい。しかもロンはなんだかんだハーミーと2人行動も多いから自然と手伝ってもらってるのであろう、とてもとても羨ましいことです。ずるい。抜けがけだ。

「クッソ許せんぞロン!」
「いきなりなんだよ!」
「おかえりロン、ハーマイオニー」
「ええ、ただいまハリー」

見回りから帰ってきたハーミーとロンが合流する。宿題の山は変わらないが心が少し軽くなった。
手を動かしつつぺちゃくちゃ喋っていると、話題はクリスマス休暇になる。ちら、とハリーを見ると、普段と同じ様子だが少し眉間に皺を寄せているような。ハーミーは今年スキーに行くらしくご機嫌な話を聞いていると、ロンが首を傾げた。

「スキーって何?」
「スキー板っていう板に乗って、雪山を滑り降りるのよ」
「え!?板に乗るの!?」
「こういう形の細長いやつ」
「クレイジーだ…」

危険スポーツに言われたかねーや、と言いかけたがぐっと飲み込んで苦笑した。箒組はスキーとも相性は良さそうだけど、これもまた文化の違いってやつだね。そういうロンはというと、隠れ穴という秘密基地のような名前の実家に帰るらしい。するとハリーがむっとした口調で言った。

「いいね。でもどうやって帰るつもりなんだ?」
「何言ってるんだハリー!君も一緒じゃないか!」
「……え?」

おやまあ。きょとんとしたハリーと慌てた様子のロンを見守っていると、どうもホウレンソウの不足があったらしい。
どこか暗かったハリーの顔がみるみるうちに明るくなっていくのが微笑ましい。うんうん良かったねえ、とニコニコしていると、ロンがこっちを見た。

「ナマエも来るだろ?」
「へ?」
「隠れ穴に。まだ来たことないだろ、招待するよ」
「ロン、」
「今のハリーにはいたほうがいい」

何の話だかまったくさっぱりわからないがロンと誘いに乗ることは出来ない。お誘いは嬉しいけど、と断ると、ロンは複雑そうな顔をして、そんでもってハリーは反対派っぽかったくせに寂しそうな顔をした。
……クリスマス休暇をロンの実家で過ごすってだけだよね?何かあんのか?よくわからないまま中立派のハーミーを見れば、ハーミーはハーミーで呆れたように私たちを見ていた。や、あの、私だけついていけてないっす。

そうしてせまるクリスマス直前の放課後、サーシャがいつにも増してウッキウキでもう荷造りを始めついでに部屋を掃除しはじめた。ウキウキすぎるだろ。どれだけ学校生活がストレスか、気持ちはわかる。そうして私は「片付けの邪魔よ」と追い出されてしまった。ついでにアリアも不在。サーシャは訳知り顔で「アレよ、アレ」と言ってたけどどれなんだ。
さて追い出された私はというと、これまた休暇前のウキウキモードな談話室も椅子が空いておらず仕方なく諦めて寒い寒い寮の外へ足を向けた。寒さをしのげる場所…そしてレポートがかける場所……それは図書館…。
あーさっみ!とマフラー交換させられた元ハリーの現私のマフラーであるそれに顔を埋める。これ肌触りがめっちゃいい〜!本当にハリーはあのマフラーでいいのか。この肌触りを知ってしまったからにはもう返せんが。

階段に置いていかれつつ寒さで震える足をなんとか動かし図書館に入ると、やはりというか同学年とか上級生が机にかじりついていた。いつも行ってると大体似た面子になってくるよね。グリフィンドールは少ないのもお約束である。
机を横目に本棚を物色していると、横からトン、と背中を叩かれた。

「10分後に」
「お?」

手に握らされたメモには空き教室の場所が、そのまま去っていくのっぽな背中を見送る。
……10分後?10分後って言った?

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