164

寮に戻ると、談話室は大広間に比べ静かだった。暖炉の前で危険スポーツの選手たちが各々静かに座っていて異様な雰囲気。勝ったけど負けた感がすごい。そんでもってハリーたちはまだ帰ってきてないし、あたりを見回してみたがロンもいない。
その辺にいたシェーマスに「ロン見てきてくんね?」と声をかけた結果、部屋にもいないらしい事が発覚した。てっきりベッドで落ち込んでんのかと思ってたんだけど、これは…帰ってきてないな…?ハーミーと顔を見合わせる。

「大丈夫かしら…」
「まー朝はド緊張してたし試合はアレだったし……」

朝見たちっちゃいロンを思い出してむむむと眉間に皺が寄る。……結構ロンって思い込むと突っ走るところが…思えばロンのメンタルめちゃくちゃ落ち込むところもあまり見たことないし未知数…いやなにするかわからんぞ。思い詰めすぎて飛び降りる可能性ある?不安になってきた。

「ちょっと探してくるわ」
「わたしも、」
「入れ違いになるかもしれないしハーミーは待ってて」

むしろ入れ違ってくれたらいいんだけど、と思いつつハーミーに湯たんぽを追加で作ってもらい、これも持って行ってと渡された蛙チョコと共に外に出る。とりあえず競技場のあたりを辿るか、と夜になって暗くやけにコツコツ足音が響く廊下を走る。廊下はいない、大広間もいない、競技場……もいないし、更衣室周辺にも人は見当たらなかった。
外は曇り空から雪が降り始めて、肌も凍るように寒い。ポケットの湯たんぽを握りしめ2階の廊下を歩いていると、ふと窓の外に人影を見つけた。よく見れば白い地面に足跡がある。目を凝らせば暗い中ぼんやり見える赤毛。…………見っけ!

「おまっ、ロン〜〜!」

慌てて階段へ行き下へ降りる。動かない階段ヨシ!二段飛ばしで降りると着地にちょっと失敗してバランスを崩し外へ転がるように出たがなんとか転けるのは阻止した。
パラパラの雪の上を走りロンの元へ行くと、奴は私にも気づかずにぶつぶつと小声で言いながら歩きを止めない。なに、この足跡全部ロンなわけか、ずっとぐるぐるしていたと…?修行かよ。ストップ!と前に出て体当たりで体を止める。とにかく中へと手を引くとそらもう驚くほど冷たい。

「ウッワ凍傷大丈夫か!?」
「もうダメだ僕なんかが」
「ハイハイ反省終わり歩く方向はあっち!ヘイこれ持って!」

ハーミー特製湯たんぽの片方を持たせて中へ誘導する。屋根の下に入り、少し背伸びをしてロンの頭に乗っている雪をパッパと払う。それからポケットから出した蛙チョコの封を開け一匹捕まえるとロンの口へ無理やり放り込んだ。もごもご言いながら食べている。蛙チョコも魔法チョコだからあったまるはずだ。持たせてくれたのはさすがハーミー様様。
ちゃんと制服に着替えてローブも着ているものの逆に言えばそれだけ、私からしたら寒すぎる装備だし長時間外にいたのかロンの身体は冷えきっていて、あーーもーーとマフラーを貸してぐるぐるに巻いてやる。悪いけど流石にコートは貸してやれない、私が寒くて死んじゃう。

「ほら早く寮戻るよ!ご飯持ってきてあるから、中身わかんないけどパイとローストビーフ。ハーミーに温めてもらおうね」
「……見てただろ…」
「見てた見てた、頑張ったねロン」
「僕……僕本当になにもふぎゅっ」
「おら蛙食え」

反省終わりってさっき言ったじゃんね。喋る暇あったら蛙食って少しずつ身体をあたためなさいや。定期的にロンの口に蛙チョコを放り込みながらゆっくり寮へ戻る。レディにお小言を言われながら扉をくぐると突然ロンが立ち止まったため背中に思いっきり鼻をぶつけた。

「おげっ!なに…急に止まんなよ…」
「ロン、ナマエ、どこにいたの?」
「……歩いてた」
「雪の降る外を何時間もな!」

ボソッと言ったロンに付け加えて未だちっちゃめな背中を暖炉前へ押していく。選手たちが勢揃いしている中入るのはそりゃ気まずいかもしれないけど、今いるのはハリーとハーミーだけだ。ってわけでロンは今温まることが先決。
そういやハリー帰ってきてんじゃん。おかえり、と声をかけるとハリーはうん、と頷いた。そしてわざわざハリーから一番遠い椅子に座ったロンのことはなんとも言えないが、気持ちもわからんでもないし、とりあえずぎゅっと握ったままの手から湯たんぽを回収し、少し温まったとはいえ緊張からかガチガチの指を揉みながら火に当てさせる。わかるか、いつもなら手を振り払うであろうロンが大人しく私にされるがままになってるんだぞ。これはやばめ。

「ごめん」
「なにが?」
「僕がクィディッチができるなんて考えたから」

ボソボソ床を見ながら言うロンに反省終わりっつったろ、と半目になるがハリーとロンのお話なのでお口チャックして何故か頭上でブンブンしてる虫みたいなやつを見る。これ安全なやつ?とハーミーにこっそり聞くと、これがスニッチらしい。間近で見るの初めてかも。ハリーいっつもこんなん追いかけてんの?動体視力やば。

「僕は終身クィディッチ禁止になった」
「あ?」
「フレッドとジョージもだ」
「ひぇっ?」「は????」

唖然とハリーを見ると、イライラした様子でふい、とそっぽを向く。代わりにハーミーが事の経緯を話してくれた。う、うっそだろ……?信じられない気持ちでいっぱいだが数時間前に見た新しい令を思い出す。ホグワーツのすべての生徒に…教師も……そういうことかい……。マルフォイくんの言ったことも確かに問題だし殴りかかったハリーたちにも非は無いとは言えないけど大体アンブリッジのせいじゃん。

「みんな僕のせいだ──僕が試合であんなにひどくなければ──あの歌で上がっちゃって──」

ロンがまたぶつぶつ言い出した。ハリーはそれにいちいち反論して慰めようとするが、ロンは聞いちゃいないように暗く自分のせいだと言い張る。ハーミーは無言で私の手を取りスッと立ち上がると窓際に移動した。暖炉前の思春期男子の言い合いを、空になった蛙チョコの箱をぺこぺこ押しながら少し離れて見守る。

「外にいたときからずっとアレよ、もう口に突っ込む蛙チョコ無くなっちゃった」
「そう。……ねえ、ナマエは良かったんじゃない?」
「どゆ意味?」
「だって、ナマエはクィディッチが嫌いでしょう?」
「…………」

……まあ、あの、ウン、嫌い……好きでは無い……。ぶっちゃけ未だにあのスポーツよくわかんないし、これまでハリーが危険な目にあってきたことばかり思い出されて苦い顔になる。私の表情にハーミーは肩を竦めて窓に目を向ける。そして窓の外に何かを見つけたらしいハーミーの目が見開かれ、パッと笑顔になった。

×
人気急上昇中のBL小説
BL小説 BLove
- ナノ -