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毎年寒さ更新してね?ってレベルで普通に寒い。まだ11月なのぉ?寒すぎ。コートを着込んでマフラーをぐるぐる巻いて靴下二重にしてハーミーお手製の湯たんぽをポケットに手袋装備して廊下は小走りで移動する。ついでにつるっと転びかけるまでがセット。滑り止め付きの床暖導入してくれホグワーツ。

「ウィーズリー、医務室のベッドは予約したか?」
「全部ミョウジで予約済みだから、オメーのベッドねーから!」

すれ違いざまに言ってきたスリザリンのでっかい生徒にクワッと言い返す。睨まれても怖くないですぅ、スネイプ先生の眉間のシワの方が怖いですぅ!タンスの角に小指ぶつけてもお前のベッドねーから!

「ったく気に食わん、大人げないったらありゃしない、おいロン気にするなよあんな奴」
「……おう」

少し振り返って声をかけるも、ロンの顔は少し青いし返事もなんか元気が無い。このところねちねちねちねち嫌味を投げられまくっててロンのメンタルがやばそうな気配を察知。これほんとに大丈夫か…?とちょいちょい心配。ハリーもハーミーも私と似たような様子でロンを伺っている。ロンの顔色は悪くなる一方だしマルフォイくんの軽い挑発にもノッちゃうし、マジでロン大丈夫か…?
と、まあそんなこんなでやってきた試合当日なわけだけど。入口近くの椅子に崩れ落ちるように座ってるロンとロンを励ましているハリーを見て心配が加速した。今や私たちの中でも頭ひとつ抜けて背が高いはずなのにめっちゃちっちゃくなってるぞ。しかもスリザリンごちゃごちゃうるさいし、またよくわかんないグッズ作ってるし。こりゃいかんな、とハーミーとジニーちゃんと顔を合わせて肩をすくめてとりあえず席に座る。ロンはぼそぼそコーンフレーク食べながら俯いて、なんつーか、あの、もう試合終了して負けましたみたいな雰囲気晒してる。これからだろうが!シャキッとせんかいシャキッと!

「調子どう?」
「おら起きろロン!おはよう!背筋伸ばせ!」
「うるさいナマエ!僕は、僕はっ」
「ちょっと神経質になってるだけさ」
「あら、それはいい兆候だわ」

席に座りながらハーミーが言う。試験だってちょっと神経質なほうがうまくいくらしい。ハーミーが言うんだから間違いないね。とりあえず牛乳を注いでハリーとロンに渡すと、ハリーは受け取って飲んだけどロンはコップを両手で持ったまま俯いて動かなくなってしまった。その様子を見てハリーが苦く笑う。

「ほら、えーと、ナマエのおまじない?やってもらったらすぐ治るよ」
「おまじない…?ああ験担ぎね、ちょっと待って。あドーモハローグッモーニン!そっちのフライドチキンくーださい!」
「無理だよ!僕コーンフレークでも吐きそうなのに!」
「違うよナマエ!ほら前僕にやってくれたでしょ、手のやつ」

せっかく隣のテーブルから受け取ったフライドチキンはロンがつっかえしたので私がいただいた。ハリーが手のひらに何か書く仕草で思い出し、人ね!はいはい任せろ、とロンの手のひらの上に漢字で人の字を書いてやる。ほら飲め!意味わかんないとか言う前に飲むんだ!

「こんな胡散臭いまじない効くわけないだろ!」
「なんだと、これは多分古くから伝わるジャパニーズトラディショナルマジックだぞ。プラセボ効果バンザイ」
「何言ってるんだよお前!」
「おはよう」

ギャンギャン文句言うロンの後ろからふわふわした声がした。揃ってそちらを見ると、ルーナが頭にライオンの頭乗せてた。……え?なに?マジ?目をこすってみるけど見間違いじゃなくガチのライオンの頭だった。そ、それ 狩猟 ( ) ってきたの……?ルーナはグリフィンドールの味方らしいがぶっちゃけそれどころではない。ありがたいけど、それ、ナニ…?

「これ、よく見てて」
グォルルウァーッ!

杖先でポンとライオンの頭を叩くとライオンが吠えた。ううううわあ!ガオーとかじゃなかった、ガチの鳴き声だった。顔もガチ。咄嗟にジニーちゃんを後ろに隠したけど私もビビり倒してるし一瞬周りの魔法使いが杖を構えた。つまり全員なんだけど…あのライオンガチじゃん……。ルーナは自信作を披露したからかビビったままの私たちを置いてご機嫌にロンを応援し去っていった。

「い、色々すごいなルーナ…ジニーちゃんだいじょぶ?」
「わ、私よりナマエのほうが心配よ」
「ウン…ビックリした……」

まだ心臓バクバクしてるもん。席に着いてそっと胸を押さえる。アンジーとアリシアが来て何か喋ってたけどあんま覚えてない、ライオンのインパクトがでかすぎて。見ろ、スリザリンもビビってら。
残念なことにルーナのびっくり応援はロンの心に逆効果をもたらしたらしく食事も進まないしガッチガチだしでどうしようもない。ハリーは諦めたのかロンの腕を掴んで立ち上がらせた。ハーミーがハリーにコソッと何か話しているのを横目にロンがぶつぶつ言っているので耳を近づける、と無理だ終わりだとかなんとか全部弱音だったので背中をバシンと叩いた。

「イタイ!なんだよ!」
「始まる前から負けるなばかもん!気合い入れろ!」
「だって─僕──そもそもナマエはクィディッチ嫌いだろ!見に来るなよ!」
「行くよ!見てっから怪我すんなよ!」
「なんでだよ!いつも嫌々だったくせにこういうときだけ!」
「チミが心配させるからでしょうううが!」

ハリーとハーミーは少し先でロンを待っていて、行きたくないと言うようによろよろ歩くロンの背中やお尻をバシバシ叩きながら進ませる。なんだかんだハリーも試合前は緊張しがちだったけど今回はロンの様子にそれどころじゃないっぽい。自分より酷い人いると落ち着く現象。

「がんばってね、ロン」

ハーミーが少し背伸びをしてロンの頬にキスをした。ハワッ。ハワワッ。思わず片手で口に手を当てる。こっちの文化じゃ頬にキスも珍しくはないけどハーミーがするのは珍しいんだよ!続けてハーミーはハリーの頬にもキスをしたので、私も近づいてそっと頬を差し出す。どきどき。

「……何してるのよナマエ」
「私も!」
「どうして」
「えっ…ロンにもハリーにもしたのに私にはしてくんないの!?」
「バカね」

とか言いつつハーミーは仕方なさそうに笑って私の頬にもチュッとしてくれた。よっしゃああ!思わずガッツポーズをすると、その手をそっと手のひらに包まれる。顔を上げるとハリーがにこにこしていた。

「僕にもして」
「ン?してもらってたじゃん今」
「ナマエは僕のこと応援してくれないの?」
「……」

エート、うーんと、これってもしかしてもしかすると期待されてる?答えを求めるべくハーミーを見ると真剣な顔でコクリと頷かれ、ロンはなんかぽやーっと頬を触っている。ま、あの、別に減るもんじゃないし、応援の気持ちだからいっか! …………と、思う気持ちはあるんだけれども。さっきフライドチキン食ってるしなあ。

「……アー、がんばれハリー!無理すんな!怪我には気をつけて!」

少し背伸びをして、両手を伸ばし屈んだハリーの頬をぐにゃぐにゃにこねくり回す。にっと笑って手を離すと、ハリーは少し目を見開いたあとゆっくりと瞬きをして頷いた。
行ってくるね、と薄く笑ったハリーの後ろに続いてぽやーっとしているロンが階段を降りていく。2人の背中を見送りながら、隣、主にハーミーから向けられる無言の視線にどことなく居心地が悪くなり誤魔化すように頬をかいた。

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