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チラッ。チラチラッ。チラッ。隣から細かく突き刺さってくる視線に私の頬は蜂の巣だ。最近マジでハリーが過剰めにチラチラと私を見てくる。別に前々からよく目が合うことはあったけど、いつも以上にめっちゃ見てくる。短いスパンでチラ見しすぎてもはやガン見と同類。

「……私なんかやった?」
「なにも」

そういう割になんか不機嫌そうな様子。ハリーもパンケーキが食べたいのかと皿を指さしても首を振られ、じゃあお気に入りのキドニーパイかなと切り分けて渡すとなんとも言えなさそうな顔で食べ始める。な、なんだよ…はっきり言えよ…。私たち新しく喧嘩してないよね?なにこの気まずさ。へるぷ!と向かいのハーミーを見ても知らん顔されるしロンは我関せずでフライドポテトをもしゃもしゃしている。いいな私にもポテトくれ。メープルシロップドバドバパンケーキと塩っけの強いフライドポテトとか欲望の極み。

「ナマエは僕と一緒にやろうよ、2人で」
「ん?」
「魔法の練習だよ、必要でしょ?」
「ちょっとハリー、これ以上時間作れるの?もうすぐクィディッチも始まるのよ」
「大丈夫だよ、ナマエも早く魔法を覚えた方が色々と安心だろ。今夜から始めよう」
「いやです」
「え?」
「いやです」
「どうして!?」
「レポートがあるから……かな…」

思わず遠い目になってしまう。今日の課題はどれほどか…ああっ持病の頭痛が痛くなってきた。っていうかなんで急に教育ママみたいなこと言い出してんのハリー。やめてけろ。

「別に魔法求められてるわけじゃないじゃん」
「でも実技試験はあるわよ」
「ファッ!!???」

思わず大声を出し立ち上がってしまった。椅子がガタンゴトンで周りから迷惑そうに見られる。あっすみませ……いやいやいやそれどころではない。じ…実技……?

「ナンデ…?」
「ナマエ、あなたとても大事なことを忘れてるわね。いい、私たちは今年ふくろう試験があるのよ!」
「ヒィッッ」

ムンクの叫びならぬナマエの叫び。ふくろう試験……OWL……そうだ、そうだった…。え、詰んでね?OWL試験担当もアンブリッジせんせいならワンチャンあるかもしれないけど、アンブリッジせんせいじゃなかった場合もしくはアンブリッジせんせいが裏切ってきたら実技あるくね?ハーミーの言う通りじゃね?これは詰んだ。

「私来年からはマグルとして堂々と生きていくね」
「バカなこと言わないでちょうだい!」
「ナマエ、いいから僕と練習しようね」

ガッチリとハリーに手を掴まれ、拒否の余儀なく今晩の私の行方と睡眠時間が決定した。南無三。





「アクシオ!」
「アキュしオ!」
「レダクト!」
「レだクと!」

ハリーの杖からはぽんぽんと魔法が飛び出るが私の杖からはぽふんっとよくわからない煙が出るくらいである。だから無理なんだって。普通に諦めモードの私の向かいでハリーは、ネビルは何をしたら出来るようになったとかアンジーは時間がどうとかスミスの杖の降り方がどうとかぶつぶつ言いながら私が出来ない原因を考えている。なんかめっちゃ魔法教えてんじゃん、カテキョのバイトでもしてんのかハリー。

「やっぱり発音から治さないと…」
「見てもらって悪いけどさ、これすっごく時間の無駄だって。もう解散しようぜ」
「あと少しで出来るようになるよ!」
「ハリー気づいてる?その言葉もう5回目なんだわ」
「……そうだ!ナマエがこれまでやってきた中で自信のある魔法は?」
「自信ン〜?」

こちとらイッチ年生より魔法が使えない5年生の自覚があるんだがなあ…浮遊呪文ですら扱えてないんだぞ…。しかしハリーはじっと私を見つめている。なんとも気まずい目を逸らし、少し考えてから杖を振った。

「……アー、エクスペリアームス!」

私の杖先からパチンと赤い光が出て空き教室の椅子に当たる。椅子はガシャンと倒れた。おっ上手くいった!よかった!ホッとした!そしてドヤ顔のキメ顔。

「す……すごいよナマエ!出来るじゃないか!どうしてアクシオは出来ないのにエクスペリアームスは出来るんだい!?」
「そりゃ私が人生で初めてすぐ出来るようになった魔法だからだよドヤァ」

懐かしいぜ、昔ロックハート先生の決闘クラブで教えてもらって一発で出来た奇跡の魔法なんだよなコレ。そういやロックハート先生今何してんの?新刊出したかなあ。
あまりに出来ない子すぎて1個成功しただけでめちゃくちゃ褒めてくれるハリーにへへへと笑っていると、空き教室のドアが音を立てて開かれた。おっなんだなんだ、と振り返るとまさかのピンク。ェヘンェヘン。

「物音がしたものだから、心配になってしまったのだけれど、来て正解だったわね。ハリー・ポッターと、あなたは…」
「ミョウジっす」
「そう、そうだったわねミスミョウジ。それで、何をしているの?」
「補習です」

そら見たらわかんだろ、と杖をふりふりさせる。しかしアンブリッジせんせいの眉がキッと上がって声もワントーンキッと上がりキーキー祭りだ。

「そう、そうなの、おわかりかしら?消灯前とはいえ今は夜だわ、ねえ?もう一度聞きます、あなたたちは何をしていたの?」
「補習っすね」
「男女が、二人きりで、空き教室で何をしていたというの!?」
「いやだから補習だって」
「教師をバカにするのもいい加減になさい!不純異性交遊だわ!なんて穢らわしい!」
「聞けよ」

補習だっつってんだろ。しかし何度否定してもアンブリッジせんせいの中では私とハリーが空き教室で不純異性交遊(笑)していた光景が出来上がってるらしい。ホグワーツの乱れた男女間云々の声を聞きつつハリーと目を合わせればお互いダッルという顔をしていた。そのときであった!

「何をしているのです!」
「マクゴナガル先生!」
「救世主!」

同じドアから我らがマクゴナガル先生が顔を出した。アンブリッジせんせいの声が廊下まで響いていたらしい。

「グリフィンドールの2人が不純異性交遊を!」
「補習って言ってんすけどねえ」

マクゴナガル先生は不純異性交遊と聞いて一瞬「は?」という顔をしたが私が杖をふりふりさせながら言うと納得したように頷いた。頷かれた。そうです魔法が出来ない子です。

「ミスミョウジ!消失呪文は出来るようになりましたか!?」
「ほいきたェバねすこッ!」

マクゴナガル先生のヘルプに乗っかって先程倒れた椅子に向かって杖を振る。ポヒンッと間抜けな音を立てて一回り小さい椅子が登場し椅子の上に乗っかってどんがらがっしゃんと崩れた。立った埃でハリーがゲホゲホ噎せている。素直にごめん。

「えっと…ご覧の通りで…へへ……」

私の笑い声が空き教室に虚しく響く。アンブリッジせんせいはぽかんとした後「アラ…うふふ、今日は補習のようですが、見ておりますからね!」と捨て台詞を吐いて出ていき、マクゴナガル先生は頭が痛いとこめかみを抑えながら「消失呪文というのに……ポッター、しっかり根気よく教えることです。あなたもポッターのアドバイスをよく聞くように!」と出ていき、ハリーは「がんばろうね」とにっこりした。ウーン出来るかなあ…魔法省公認の魔法の出来なさだからなあ……。

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