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数占い学が終わると泥でべっちゃべちゃになった制服は綺麗になって帰ってきた。サンキュー妖精さん。でも洗いたてのパリッとした制服をまた汚すのも忍びなくて、結局一日芋ジャーで過ごしてた。先生には「畑で転びました」の一言で察されて、まあマクゴナガル先生には「そういうときは魔法で綺麗にするのです、一瞬で」とお小言をいただいたが大目に見てもらった。私(の魔法)への信頼感は根強い。そんで芋ジャーを知らぬ他寮の後輩にヒソヒソされつつ授業を終えたら……今夜も戦いである……。

実を言うと今日の私はちょっと疲れ気味だ。そりゃ毎日毎日勉強に追われて意味わからん状況は5年目だし睡眠が削られてて、しかも悪天候が続くと自然と弱るもんでしょ。私にだって繊細なところはあるし。だって思春期だもん。なんつって。
借りる参考書をメモした紙をポッケに突っ込み、返却する本を両手抱えて、裸足のままローファーの踵を潰して部屋を出る。裸足のままちゃんと履くとちょっと踵が痛いんだけど、だからといって靴下をまた履くのはめんどくさい。ぺたぺたと歩きながら談話室に降りると、丁度ハリーたちも寮を出ようとしてるところに出くわした。

「あっロン待ってまってそのままドア抑えてて」
「うん? ……何してるんだよナマエ」
「図書館行くとこなんだけどこの通り両手塞がってまして。よっ、と……サンキュー!いやあ、足で開けるとマダムに怒られんだよね」
「当たり前です!レディがはしたない!」
「おわっ。ほらな」
「全面的にマダムが正しいわ」

呆れ顔のハーミーにちゃんと靴を履きなさいと言われるもへらっと笑って誤魔化した。めんどいめんどい。ついで御三方はどちらへ?と聞くと、3人は揃って顔を見合わせて私が今さっきしたような笑みを浮かべる。誤魔化すの下手くそか。いやブーメランだったわ。私はかしこいのでいつものなんか話せないやつなんだろうと察した。どこに行くのかは知らんが、雨やばいから気をつけていてらー!と声をかけると、ハリーはにっこり笑って手を振ってくれた。おやかわいい。ハリーの笑顔で晴れてくれたりしないかなあ。



図書館へ着くと、マダムピンスからなんだその服みたいな顔された。……芋ジャー見たこと無かったっけ?いや私休みの日とかこれできたけどな…マダムピンスが私を気にしたことがないってことじゃん?確かに人に興味無さそう。
すいすいと返却作業が終わり、ポケットからメモを取り出して奥の棚に向かう。薬草学の参考書はーーっと目当ての棚で曲がると、すらっとした奴が狭めの棚の間の道を塞いで参考書を立ち読みしていた。……ノットくん、いつの間に背伸びたな。

「よ」
「5年生の外出は9時までだが」
「えっヤバ」

そうだったっけ!?アンブリッジせんせいそんなん令出してたっけ!?しかし急いで振り返り時計を見たら、時間はまだ7時50分だった。8時にもなってねえじゃねえか。

「うわビビった……意地悪め。あ、ちょっと退いてよ、私も薬草学の参考書探しに来たんだ」

ノットくんは少しだけ後ろに下がり、棚の前のスペースを開けてくれた。ほんとにちょっとだな……まあいっか。隙間に入って、ちょっと背伸びをして上から順に目当ての参考書を探していく。

「……本当に奇特なやつだな、俺の純血思想を聞いて避けないとは」
「今更じゃね?」

ノットくんが純血貴族として育ってきて、スリザリンで普通に過ごしていれば大体予想はつく。ロンだってスリザリン連中の中で育ってりゃ今ごろスリザリンの制服を着てハリーと喧嘩してたんだろうし。……うわ、なんか想像しただけで笑えてくる。そんでこの想像がバレたら怒られそうだな、一生黙っとこ。

「嫌では無いのか」
「嫌なのはそっちでしょ。むしろ私が感謝するべきじゃん。我慢して付き合ってくれてありがとね」
「…………」
「った!なんで蹴ったし!」

照れ隠し下手くそかよ!それかただの足長自慢。どちらにせよ軽く蹴られた私の足のダメージはアウチなんですがね。振り返って仕返しとばかりに軽く胸を叩いてやる。……てか、ちょっとアレだな。思ったより距離が近かった。そして思ったよりノットくんは成長していた。私の顔がノットくんの胸なんだが……えっマジでいつの間にそんなに背伸びたの!?にょきにょきじゃん。こわ。

「ますます私がチビだな…」
「以前からそうだが?」
「ムカつく。ちょっと足削ってちょうだいよ」
「これだからマグルは気色が悪い」
「はいはいすみませんね」

悪かったってばさ。くるっとまた180度向きを変えて棚を見る。どこまで探したっけなあ。なんとなく見覚えのあるタイトルを滑り見ていると、ノットくんが背後でため息を吐いた。距離が近いんでよく聞こえる。っていうかもうちょっと右か左に寄ってくれてもよくない?圧がすごいんだが。

「今日のアンブリッジの話を聞いていたか?」
「いんや全然。なんか話してた?」
「純血を賛称する発言を何度か」
「へー純血主義なんだ」
「ああ。彼女は純血ではないがな。だが、やはり避けるべきはアンブリッジとの衝突だ。疑われるのも良くない。彼女は魔法省所属の保守派だから、何かあればスリザリンに味方するぞ」

彼女は純血ではない、という言葉の中にこれまたちょっと軽蔑のような色合いを乗せつつ、ノット先生は難しいことを言う。保守派、というのが何を指しているのかは魔法界をよく知らん私にはわからないが、スリザリンに味方するっていうのは心当たりがあった。声高々に自慢するマルフォイくんの声が空耳。

「あー、やっぱ?」
「何かあったのか?」
「いや、あのーなんだっけな正式名称は。く、くぃ……でゅ、ち?」
「………………Quidditch」

私のうろ覚えの下手くそな発音に、ノットくんな長考してから答えた。ザッツライト!そうそれ!危険スポーツ呼びだから名前覚えてないんだよね。この前の魔法薬学のとき、ノットくんもいたじゃんねと言うと、ノットくんは平坦な声で肯定した。危険スポーツを巡る騒動は当然耳に入っているらしいが、ノットくんはたいして興味が無さそうだった。

「とにかく、忠告はした。以後気をつけて行動するように」
「ウワッ!?」

頭上から本が降ってきて、頭にぶつかる前に慌てて受け止める。ノットくんはすたすたと行ってしまい、あっという間に一人になった。戻しとけってことかよ、と分厚い本を見る。タイトルはメモに書いたものと同じ、つまり私が探していた本だった。どーりで見つからねーわけだよ。見つからん本を探してる私を見下ろしてたのかあいつぁ。シンプルに性格が悪い。

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