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雨粒が窓に当たって痛そうな音を立てている。が、例の危険スポーツの練習はやるらしい。ほんとに?こんなド悪天候の中?やるの?飛んだ先から地面に叩きつけられる気しかしないが?マジで言ってる??練習着を着て談話室にきたハリーを五度見した。

「いや…ハリー、やめようぜ、ほら外見なって。危ないよ?どう見ても危ないよ?」
「うーん、でも箒の上に天気は関係無いから。ナマエも見に来てくれる?」
「行くわけねえ〜〜」

箒の上のほうが天気めちゃくちゃ関係すると思うんだけど、危険スポーツ脳には独特の理論があるらしい。ハリーも立派な脳筋ボーイになりやがって……。ぷくっとあざとく頬をふくらませて拗ねるハリーをつつき、マジで怪我気をつけろよ!?と念を押して見送った。ロンは双子の兄貴たちとわちゃわちゃして行った。まあ、兄弟でやれる嬉しさはあるんだろうけど……なにせ天気がね……。全員怪我をしないことを祈る。

さて私はと言うと、もはや恒例の終わらぬ宿題との戦いなわけだ。宿題vs睡眠、史上最悪の対決がかれこれもう毎晩。この戦いはまだ学期始まってそんな経ってないのに既に某歩くゾンビドラマと並ぶシーズンを誇る予感がビシビシしている。これが…絶望……?はいはい茶番乙。こんな事をしている場合でもないのである。
大人しく元々とっていた席に戻り分厚く嫌になる参考書を開いた。ちまちま細かい内容を読んでは写してまとめてたいして思うところもない自分の考えをひねり出そうとしてうとうとしていると、ナマエ、と名前が呼ばれた。うん?誰だい私を呼んだのは。顔を上げると、ネビルが向かいの席に座っていた。

「……ここ、いいかな?僕もまだレポート終わってなくて」
「もちもち。寝ちゃうとこだったから助かったよ」
「うん…僕もほんとうはもう眠いんだ」

ならネビルが眠いときは私が起こして、私が眠いときはネビルが起こしてくれれば永久機関の完成じゃん!よっしゃ。いや全然よっしゃでは無い、なんでこんな貴重な睡眠を削ってまで魔法で物質を消す理論とかいうわけわからんものを書かねばならんのか。理論をやったからと言って増えるネズミが消えるんか?もう8匹になったが??リアルネズミランドは遠慮したい。
それから私たちは大人しく向かい合ってそれぞれ違うレポートをやっていたが、うんうん唸ってはかくっと寝かけてネビルに起こされるのを3回くらい繰り返したら、ついにネビルもかくっとなりはじめたからお互い休憩にした。凝りまくる肩をぐりんぐりん回してからマグカップにコーヒーをいれてネビルに渡し、私も自分の分に口をつける。あちあち。

「うわ苦!ごめん粉入れすぎたわ、大丈夫?砂糖入れてね」
「うっ……うん……」
「……いやそれは入れすぎじゃね?」

角砂糖5個はやばくない?そこまで苦かった?それはごめん。でもその砂糖の量はいつかのルーピン教授を思い出したわ。引くほど入れてたもんな…懐かしい、先生元気にしてるかな。ちゃんと新しい服買ったかな。ぼやーっと数年前を思い出していると、ネビルがもじもじとしている。なに?どしたん?

「……この前の、ことなんだけれど」
「うん?この前?」
「マルフォイが、その……僕の両親は死喰い人のせいでずっと入院してるんだ」
「………………オウ」

突然のディープな話に一回思考が停止してしまった。そ、そっか。マルフォイくんの話では、ネビルの両親もまたヤヌス・シッキー棟に入院している模様。ということは、ずっと重病なのだろう。一気に重暗くなった空気に今晩の悪天候はぴったりすぎた。

「だから、許せなくて。……ナマエは、親のこと言われてよく平気だね」
「いや全然平気じゃないけど」

すこしチクリとした言葉に即答で返した。ぜんっぜんだめです、なんなら前は条件反射みたいなもので拳が出てたんだから相当にダメ。情けないことに前科持ちだし。まあ人には言えないけど、両親と言われても知らない人たちのようだから自分でも何がアウトなのか全然わからん。気味が悪いよね。ただ、まあ、3年のときからだいぶ地雷ってことだ。

「この前のときはさあ、ネビルが私以上に怒ってたから冷静になっただけで、ネビルが大人しかったら暴れてたのは私の方だよ」
「そうなの?全然そういうふうには見えなかったよ」
「そりゃネビルがマルフォイくんしか見えてなかったから」

わははと軽く笑うと、ネビルは緊張する頬を無理やり動かしたみたいな下手くそな笑みを浮かべる。
…………あれ、ヤヌス・シッキー棟って私の事バレてね?不安になってきた。





ハリーたちは昨晩諦めて早々に練習を切り上げたらしいが、今日も悪天候は続いている。なんなら昨日よりも大嵐って感じでバンバンいってる雨音が痛そう。城は石とガラスで出来ているから反響がすごくて、最初に音が鳴り始めたときはビビった。えっ敵襲!?って驚いた私にハリーが「死喰い人!?」って反応して、よくわからなかったけどちょっと気まずい空気にしてしまった。朝からなんかごめん。わざとじゃないんです!っていうか死喰い人ってそんな感じなんだね。未だに魔法界言葉でわからんものは多い。 そんな雹みたいな雨に降られまくってガラスの温室が心配な薬草学を終え、軽く濡れて滑る廊下を急いで走り数占い学の教室に向かう。ちょうどノットくんに聞きたいことがあったから早めに着きたかったんだけど、ちょっとハプニングがあり結構時間ギリギリになっちゃったもんで。勢いよくドアを開ければほとんどの生徒が席についていて、さらにその中にピンク色があった。

「あら、あなたどうして制服では無いの?」
「ウッワまじか」
「エー、たしかお名前は」
「ミスミョウジです、アンブリッジ先生」
「そう!ミスミョウジだったわね。ありがとう、良い子ね、セオドール」

セオドール!?セ、セオドールだって!?まさかのファーストネーム呼びに驚いて二度見したら、ノットくんは嫌そうにとっとと席につけと顎で指示してくる。いや、あの、はい……。何も言えんまま大人しく離れた席に座った。偶然隣になったハッフルパフの子が「なんで制服じゃないんだ?」と聞いてくる。

「さっきの薬草学でド派手に転んだ」
「ああ!あの騒ぎお前だったのかモンキー」

おい待て今鼻で笑ったな?イラッとした。転んだ私を笑ったのか変えの制服が無いから芋ジャーを着てる私を笑ったのかどっちだ。いやどっちも私だ。そんで誰だお前は。教科書裏の名前を確認しておく。ザ…チャ…?ざちゃりあす・すみす……スミスだな、覚えたからなコノヤロー。どっかで聞き覚えがあるような気もするけど、気のせいかな。

「そういえば、セオドールはマグル出身の子とも仲良くしていると聞いたわ。優しいのね」

アンブリッジせんせいの声は高くてキーキー言うくせに謎に通る。お陰で会話が丸聞こえというか、もしかするとそのマグルとは私のことか?と疑う。私のせいで目をつけられてしまってたらと思うと申し訳ない。と内心思っていたんだが、まあ杞憂だったよね。

「仲良く?まさか、何をおっしゃっているんですアンブリッジ先生。僕には純血のプライドがあります。マグルは低俗で考える頭もお粗末な、野蛮な貧民ですよ。一体誰がそんなことを言ったんです?我々純血の情けで魔法学校に通えているのに、思い上がりも甚だしい。そんなものと仲良く……?ハッ」

先程のスミスと比べて、ノットくんの鼻で嘲笑う声はまるでお手本のようだなと思った。あんな本心抱えながらよく私に協力出来るよなー、切り替えが上手くて羨ましいわ。

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