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ノット先生曰く成果は上々、と羊皮紙の複製を貰い消灯前に寮へ戻る。絶対人には見られるな、と念を押されたから紙は腹とスカートの間に挟んだ。ちょっとごわごわするけど新食感の腹巻だと思えば、まあいける範囲だ。部屋に戻ればトランクの中に仕舞えばいい。……でも、私の二重人格説が進んでいくのはいい気がしない。自分が病気だということを認めたくないというか、私の知らない私がいるのが信じられない。だから、今日の成果は確かに上々かもしれないけど少しショックだった。ただ事では無いってことはわかってたけど、今までちょっと混乱してて曖昧だったものを改めてはっきり認識して、んでそれを受け入れられるかは別じゃん。飲み込む時間が欲しい。 談話室は閑散としていた。足がもう寒くて早くシャワー浴びたいと女子寮への階段を上がろうとすると、ナマエ、と声がした。

「……ハリー?」

少し見回すと暖炉の目の前の一人用のソファにハリーが座っていた。俯いていて表情がわからない。

「おー、お疲れ。ホグズミードどうだった?」
「それ、君が聞くの?」
「……?」
「最悪だったよ」

吐き捨てるようにハリーは言った。いつもよりも声が低いし、なんだかご機嫌ななめのようだ。……ノットくんさっき意味深なことを言ってたよな……ハリーと何かあった?いや、ホグズミードでなんかあったらノットくんは言ってくれるはず……って私が勝手に思ってるだけか!?やっぱ言われてないことあるよな!?

「や、あの、ハリー、違くて、そのぉ」
「……違う?何が違うんだ?君は、僕の誘いを断ってノットとデートしてた!それが事実だろ!」
「それは絶っっ対に違うわ」

食い気味に否定してしまったけどそれは絶っっっっっっ対に違うわガチで。ついでに真顔だわ。ノットくん曰くフードファイターナマエとそれにドン引くノットくんinホグズミードだったらしいから傍から見てもデートになるはずない。そもそもデートではない。しかしハリーは私の否定を鼻で笑い飛ばし声を荒らげた。

「もう僕のことなんか嫌になったんだろ。君も、僕を、頭のおかしい嘘つきだと思ってる!」
「!? そんなことない」
「じゃあどうして!?会合には来てくれなかったのに、君はノットなんかと一緒にいた!」
「アッそれは──それは、うーん、その、なんというか…」
「言い返せないじゃないか!君はそうやっていつも……ひどい、ひどいよナマエ」

ハリーは顔をくしゃくしゃに歪めて私を睨んだ。怒ってるけど泣きそうな表情に私の胸が痛む。絶対私悪くないんだけど罪悪感がずしりと来る。しかし実験してた、なんてことを言えるはずがない。洗いざらい私の事情を話す気はない。もちろん色んな意味でハリーのことを信じていない訳では無いものの、言いづらいというか、これは私の心情的な問題で。なんて言えばいいのか言葉に悩み無駄に手をにぎにぎしてしまう。

「あー、上手く言えないんだけど…」
「言い訳はもういい」
「言い訳じゃないっつの」
「じゃあどうして言ってくれなかったの」
「……あっノットくんに用があるからホグズミード行けないって言えばよかったのか!?」
「いいわけないだろ!どうしてノットをとるんだ!?」
「そりゃ前々から約束してたし、こっちにも事情がだね」
「事情って?」
「それは、…………それは言えない」

へにょりと眉尻が下がってしまう。上手く言葉も出ないし勢いも出ない、とにかくハリーが切なそうな顔をするのが悲しい気分だ。でも言えないんだよ。言いたいとも思わない。

「そんなに僕には信用がないの?君がノットをそんなに信じてるなんて知らなかった」
「もちろんハリーのことも信じてるけどノットくんのは流れ的なのもあって……いや待て今のは皮肉だな?」
「流れってなに?僕にはその流れは無かったの?今はその流れだと思わない?」
「思わないんだなぁこれが」

ギッと鋭く睨まれて少しビビるが、あまりにもハリーが私の事情を知りたがるから思わず笑みを零してしまった。ホグズミードに行けなかったのを怒ってるってよりハリーが知らないことをノットくんが知っている、ってのが気に入らないように見えてどこか微笑ましい。子供か。まだ全然子供だったわ。ハリーの座るソファの前に膝をついてハリーの両手をとる。とにかく誠心誠意伝えるしかない。

「あのねハリー、まず前提として私は君を信じてる。それから今日のことはごめん、でもノットくんとはデートとかそういうのじゃないんだ。それは信じて欲しい」

じっと目を見て話すと、ハリーはやはりむっとした。なにか言おうとして口を閉じ、深呼吸を数回してから軽く首を振ったハリーはすっごい不満そうなものの、ある程度声を出して多少スッキリしたようにも見える。顎で話の続きを促され、刺激しないようにかつちゃんと伝わるように言葉を選んだ。

「今日の理由は、今はまだちょっと言えないんですけど……いや違うな……アー、ハリーと同じように、私だって秘密を抱えてんの。んでハリーと同じように、巻き込みたくないって考えてる。君が私を巻き込みたくないと思ってるなら聞かないふりをするのが大人ってもんよ。そんで、今回私はハリーを巻き込みたくないと思ってる。だからこの件に関しては、私の気持ちを汲んで欲しい」

うまくまとまらない言葉を無理やり繋げた感は否めないけど、それでも私は懸命に話したし、多分ハリーもしっかり聞いてくれていた。今更こうやって面と向かって話すのも恥ずかしい気もするが。自分がハリーに伝えようとしているのと同時に、頭のどこかで私が私に言い聞かせているようにも思えた。
ハリーの瞳がゆらゆら揺れる。迷子のような瞳だった。

「……ナマエが気づいていて知らないふりをしてくれているのは知ってる。僕もそれに甘えてる。でも、ナマエが僕に教えてくれなかったのは悲しいし、ムカつく」
「うん、ごめん」
「ごめんって言うけど、言えないんだろう?」
「無理だね」

まあ、いつか話さないといけないことなんだろうけど、なるべく言いたくないなと思う。自分の短所を話すのとは訳が違うし、私自身まだ納得してないのに人に話す覚悟なんかない。
私の即答にハリーは諦めたようにため息を吐いた。ハリーが椅子から降りて絨毯に膝をついた。私としっかり目線が合う。

「…………本当にノットとはなにもない?」
「マジでなんも無い」
「どういう関係?」
「どう……ともだ、ちじゃないもんな……なんだろう……」
「…………そう。わかった。でもね、こんな最悪な週末初めてだよ。ナマエのバカ」

ノットくんは共犯者がしっくり来ると思っていたもののそれを伝える訳にはいかないし、でもやっぱり友達というのはいまいち気が進まないというか、いや違くね?ってなる。考え込んだ私に、ハリーはむすっとしたまま言った。すまんて。仲直り、ってわけじゃないけど、一件落着……と思いたい。もしくは保留。まだしばらく曖昧な喧嘩が続きそうな予感がした。

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