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数占い学の教室に入ると、ノットくんが小さく片手を上げたためそちらへ行く。アンブリッジせんせいが来たら面倒だなと思って隣の席ではなく、ノットくんのひとつずれた後ろの席に座った。前を覗き込むと、ノットくんは魔法薬学っぽいレポートをやっていた。

「いたか?」
「さっきまで変身学にいた」
「なら今は魔法生物飼育学だろうな。……あの女には気をつけろ、魔法省が後ろについているから何をやったって構わないと思っている」

そうだろうな。実際既に普通にアウトな体罰をやらかしてる。そもそも魔法省が後ろにいるなら世論的に滅多な行動は控えそうなものだが、政治家の考えというものはどの国もいつの時代もよくわからんもんだ。

「罰則を受けた同級生がいる。手に傷がついてたよ、私は嘘をついてはいけない、だと」
「なんだと?そんなことを」
「ムーディ教授よりはマシだろうけどさあ、胸糞悪い」

スリザリンでは今のところ罰則者は出ていないらしい。スリザリン生の多くの親は魔法省に楯突くのはよろしくないから、子供たちも慎重に顔色を伺っている状況という。とはいえ、スリザリンたちの中でも授業内容には物申したいことが多いそうで。特に今年は試験が控えてるから、上級生の顔色が真っ青なんだとか。グリフィンドールはグリフィンドールで色々あったけど結局どこも大変なようで。あのマルフォイくんのところでさえPTA活動にまごついてるってんだから随分な事だわ。

「それより、高等尋問官というのが気になる。しばらく様子を見るぞ。記憶はどうだ」
「あー今年になってからまだ一度も飛んでないと思う。自覚がある範囲では、だけど」
「唐突に飛んでいないのであれば治癒傾向にあるということか?」
「さあ」

むしろ去年が異常だったんでは。これで治ったか、と言われるとそう言いたいけど、ノット先生的には納得しがたいんだとかなんとか。私より考えてんじゃん。しかも癒者狙いのノットくんはお成績のためにアンブリッジと上手く繋がっておかないといけないと何やら色々画策してるっぽい。癒者は成績が全部O・優でも推薦が無いと研修通らないとか。確かに魔法省のお墨付きなら勝ち確だ。ノットくんは止まることなく羊皮紙にガリガリ書きながら唐突に言った。

「次のホグズミードに行ってみないか」
「……は?」

あまりにも予想外な誘いに開いていた教科書を閉じてしまった。なんて?

「ホグズミードだ。予定が?」
「お前にあるわけないみたいな言い方やめてくれます?」
「どうせ外に出るのが怖いんだろう」
「ウッ図星」
「だから俺がついていく。今のところ実験の手立てがない、ならばまず俺が状態を見た方が早い。記憶が残る通常の外出となれば、完治したというのは早計かもしれないが、近い状態であると判断出来る」
「……記憶が飛んだら?」
「身体は勝手に行動するだろうな」
「……こっっっわいけど一理あるわ」

しかしついこの間しばらく今年実行出来る余裕がどうのとか言ってたくせして行動が早いな。私の問題なのに私よりやる気なのも複雑だよ。ありがとう、と言うと、鼻で笑われた。そういうとこ〜。



「はあ?なんだそれ、マルフォイくんの怪我なんて去年…じゃないわ、えーと、2年前?の話じゃん」
「そうよ、とても理不尽だわ!」

今日も一日各教科からどっしり出された宿題を抱えて寮に帰ると、談話室の暖炉でハーミーが鍋を使っていた。マートラップの触手を茹でているらしく、話を聞けばアホみたいな理由でハリーに罰則が追加されたらしく、今丁度罰則中で不在。待っている間少しでも傷に効くようにと作っているらしい魔法薬作りを手伝いつつ怒るハーミーの話を聞く。すると出るわ出るわ文句の数々、しかもハーミーだけではなくロンもだし、魔法生物飼育学にいた生徒が口々に言い始めた。途中からただの悪口になって笑ったけど、よほど鬱憤が溜まっているってことだ。わかる〜マジわかる〜だいたいアンブリッジのせい。私がネズミ増やしたのもアンブリッジのせいなのでは?きっとそう。
それからハリーが帰ってきたのは日付ギリギリと深夜だった。昨日私が巻いた包帯も、さらに上から手に巻かれたスカーフも真っ赤になっていて血の気が引いた。マートラップの液が入ったボウルに手を浸すとハリーは脱力してソファに背中を預ける。顔色もあまり良くない。ロンが黄色の中に赤が混じった液を見ながら言う。

「この罰則は苦情言った方がいいと思うけどな」
「いやだ」

ハリーが強く言った。マクゴナガルが知ったら怒り狂う、とロンが続けてもハリーはまた高等尋問官がどうのと言い出す。バカ言えこういうのは黙ってた方が不利になる。人権にも関わることだぞ、とさすがに黙ってられず口を開いた。ハリーが辛い目にあって弱ってるのはわかるけど、だから被害者で居続けるのはおかしい。

「マクゴナガル先生だけでも報告した方がいいよ、なにも声を挙げずに泣き寝入りしたら向こうはますます調子に乗る」
「それで?僕がまた罰則を受けてアンブリッジはご機嫌になるだけだよ」
「それはアンブリッジが井の中の蛙なだけだ、体罰が世間に容認されるわけない」
「どうだか、どうせみんな僕が嘘をついてると思ってるんだからそもそも信じてもらえないんじゃないか?」
「ハリー、卑屈になってる場合じゃ」
「ああっ、もう放っておいてよ!!」
「……は?」
「ナマエには関係ないって言ったじゃないか!」
「…………ああそうかよ!じゃあ関係ない人間は帰る!」

つい、カッとなってしまった。お大事に!と言い捨てて私は勢いのままに女子寮の階段をあがった。
部屋のドアをバン!と開けて即ベッドにダイブした。物音が立ち、サーシュが不満げに吠える。アリアが布団の中から声を上げた。サーシャはスヤスヤだ。

「今何時だと思ってるのよ!」
「ごめぇぇん」
「はあ、またポッター?」
「う゛ん゛ん……またやっちまった……気にしないで……」
「構わないけど、さっさと寝てよね!」

枕に顔を埋めて数回深呼吸すると、私の頭がぷしゅーっと静かになっていく。……昨日の今日でこれかい私のバカめ………。

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