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羽根ペン持ちながら寝ていたらしく不穏な朝を迎えてしまった。インクがガビガビになっちゃって、朝から洗面所を黒くしてアリアに苦情入れられた。ベッドにいたものの座った姿から崩れた姿勢で寝てたっぽくて背中がボキボキ。いってえ〜と伸ばしつつ階段を降りると、なにやらハーミーが一人でキャッキャ盛り上がっていた。

「見て、帽子が無くなってるわ!」
「帽子?」
「ええ、昨日の夜置いておいたの。しもべ妖精が持って行ってくれたんだわ」

よくわからんがよかったね。ハーミーは可愛らしく笑ってご機嫌だったものの、大広間でロンに帽子じゃなくて膀胱って言われて空気がピリついた。おい〜ロン〜そういうとこやぞ。しかしロンの言う通り魔法薬学が無いってのは良いな、と昨日のことを忘れてオレンジジュースを飲んだ。そのとき私は忘れていたのだ……今日もなかなか面倒くさいということに……。

呪文学。ふくろう試験のことをたくさん話されてドッキドキ、呼び寄せ呪文はその辺のもの全部巻き込んで大惨事、宿題大量で涙目。
変身術。またふくろう試験のこと言われてバックバク。消失呪文とかなにそれ無理すぎる。理論も相変わらずわからん。むしろ4年もこのわけわからん魔法に付き合ってきたのすごくないか?もう落ちても良くない?諦めモードでカタツムリを杖先でツンツンつついたら「ミスミョウジ!真面目に!」って怒られちった。

「今までの土台はあなただって出来ているのです、真面目に!勉学に取り組めば、いもり試験だって通ることができるのです」
「えっ先生正気?無理っすよ」
「最初から否定せず自信を持ち取り組みなさい!もう一度!」
「えぇ……」

こんなに熱血だったっけマクゴナガル先生……。困惑しつつ言われた通り呪文を唱えて杖を振る。きえろーっ。まあ当然何も起こらないんですけど。ほれみろと先生を見ると、マクゴナガル先生は深いため息を吐いて出来るまでやりなさいと言う。ほら!結局!そういう!出来るまでやるとか根性勝負なこと言う!そもそもカタツムリ消すとか可哀想じゃん、これ消失っていってもどっかにワープしたりすんのかな。どこ行くんだろう。
ちょくちょくマクゴナガル先生がこっちに来るためサボることは出来なかったが、やっぱ一回も成功せずに明日リベンジするため練習そして大量の宿題を出されて半泣きで教室を出た。宿題あったら練習する暇無いですかあ!?ホグワーツの教師ってみんな1日72時間くらいあると思ってんのか。


唯一消失呪文をパーフェクトにやって宿題Zeroのハーミー監督生様に宿題手伝ってお願いしますと全力で頼み込み、あまりの必死さに同情オッケーをもらってガッツポーズした。無様というなかれ、命かかってるようなもんだから。そしてお昼ご飯をかっこんで、午後イチは3人と別れて私は数占い学だ。……ベクトル先生もめちゃくちゃ宿題出すのかな。気が重すぎる。机に突っ伏して羊皮紙の端っこをぐりぐりいじっていると、「行儀が悪い」とお小言が飛んできた。

「ノットくん…お疲れ」
「あなたほどではない。が、そうだな……」

流石のノット先生も2日目にしてお疲れかよ〜と思ったけど、少しやつれたような顔の原因は学校だけじゃないような気がしてきた。本人曰く家めんどくさい(要約)だしこっちもこっちで色々あるんだね。いつも通り席についたノットくんがトントンと指でこめかみあたりを軽く叩く。これ記憶は?って聞いてるジェスチャーです。たまに喋るのめんどくさいとき彼はこうやることがある。

「今のとこは無いと思う。まだ2日目だし」
「そうか。実験についてだが」
「じっけ……間違ってないけども言い方ァ。でも付き合っといてもらって悪いけど、この宿題量じゃ当分考えらんないとこがホンネ」
「ああ、そうだろうな。計画を立てるくらいは出来るが、今年中に全て実行出来る余裕があるとは思えん。最悪ふくろう試験まで待て」
「無茶〜って思うけど同意しかない」

ふくろう試験って学期末じゃん、といいつつマジでそれ。特にノット先生は癒者狙いだから成績も科目も落とすわけにいかないらしく、あまり頼るわけにもいかない。ッカァ〜学生ってこんなに大変だったっけ!?ぼちぼち話しながら待っているとベクトル先生が入ってきて、これまたふくろう試験について話された。試験内容は実技で実際占うらしい、今まで実技なんて両手で数えるくらいだったからゲッうそでしょと慌てて羊皮紙にメモメモ。授業は意外にもちょっと基礎に戻って数字自体の意味をやったものの、それを覚えて応用しなきゃって時点でなんか嫌になってきた。ペアを組んで試しにやってみたものの当たってる気がしない。私今年全科目落とすんじゃね?既に自信もやる気も無くなってきたよね。とぼとぼと紙を提出しに行くと、ベクトル先生が紙をサッと見てから横に置いた。

「よろしい次は自己解釈を発展させてください」
「はってん。はあい……あっそうだ先生質問いいですか」
「簡潔かつ手短に許可します」
「前に姿現し?の先に空間があるって仰ってましたよね。消失呪文の先もそんな感じなんですか?」

午前中の疑問をぶつけると、ベクトル先生は少し黙って猫のように何もない空間を見つめてから口を開いた。何?何が見えてるの?猫ちゃん?

「その質問は正確には呪文学や変身学の内容に当たりますが数占い学に持ち込むという挑戦と工夫を評価しますあなたの予想は概ねあっているといえるでしょう消失呪文の”先”は数ある平行世界のどこかと言われています」
「へえーそうなんですか」
「ですが」
「……ですが!?」

話している最中にベクトル先生が呼吸を置いたことなんて初めてだぞオイ。ビビった。思わず振り向きもう教室から出ているであろうノットくんを見てしまった、ら、ノットくんは椅子から立ち上がった姿勢で鞄を片手に持ったまま興味深そうにこっちを注視していた。

「これは個人的な思想ですが私の考える理論として一般的な消失呪文の考え方は相応しくありません平行世界に移動するというのはこの世界からの消失という意味では正しくも感覚的には世界を移動させるというものであるからですしかしながら私の考え方も危険思想のひとつとして数えられる可能性があるためあくまで参考程度に留めて欲しいのですがそもそも魔法使いの身体構造はどうなっていると以前教えましたか」
「……ここでクエスチョン!?え、えっと、魔力が巡っていて、魔力源があって、魔力を放出できる」
「さようですが足りませんならばなぜ吸魂鬼が産まれますか」
「えっ、えー、えーと……」
「魂と肉体が分離しているからです」
「よろしいスリザリンに1点」

横から突然来て加点!?なんだこの謎の悔しさ。ぐぬぬと唇をちょっと噛んで教卓に近づいたノットくんを見るけど、ノットくんはベクトル先生に夢中らしい。

「魔法使いの魂と肉体は分離しているため魔力が放出される隙間があると考えられますゆえに消失呪文を使用することによって分離した肉体いわば魂を入れる媒体が消失すると私は考えます」
「つまり、肉体という世界に具現化するための媒体が消失し、魂だけが残る。そもそも世界を移動するという概念は無いということですか?」
「その通りですミスターノット」

怒涛の早口無呼吸説明にあっぷあっぷしたものの、ノット先生の解説と合わせてよくよく噛み砕いていくとなんとなく理解した、と思う。幽体離脱したら体が消えちゃったーみたいなこと……であってるよな?ってことはあのカタツムリも魂だけはあそこでにょろにょろしてるって考えるととても切ない。明日の変身学に思いを馳せてしんみりすると、ベクトル先生はついでの知識に魔法省の神秘部ってところには面白いものがあるって教えてくれた。死のアーチとかいう物騒な名前のそれをくぐると、先生の考える消失呪文の理論とは真逆にこっちは魂が消え、肉体がさ迷うんだとか。それも、いわゆる異空間を。正確には誰も帰ってきたことがないから異空間と推定しているとかで、死亡したのはそういう魂用の検証魔法で確認しているらしい。はえー。脳死状態でよく知らんところを身体だけがフラフラするってことか?なんだそれコッワ。魔法界ヤッバ。

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