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こんにちは、アンブリッジせんせい!
言われた通り元気よくお返事すると大きめのお目目がぐりんっと私を見てにっこり笑った。

「難しくないでしょう?杖をしまって羽根ペンを出してくださいね」

もしかして終始このノリ?きっつううう。でも去年の方がマシ──でもねえな。ムカつくぞこの教授。大人しく羽根ペンを握り手の中で羽根部分をいじいじしながら”魔法省”のお話を聞く。ホグワーツって国立だったのか?初耳ィ。黒板に書かれた授業の目的とやらをガリガリと言われた通り書き写すものの、これシラバスにも乗ってんじゃんとげんなりした。旧時代の人間はなぜそんなに無駄紙を使いたがるのか。プリント地獄は嫌なんですけど。しかも質問の答え方まで指定されるとは。

「では、みなさんウィルバート・スリンクハードの『防衛術の理論』を持っていますか?」

はい、アンブリッジせんせい!
元気よくお返事して指示通り5ページを開いた。教科書持ってないわけねえだろ指定したのそっちだろうがよ。あっ教科書忘れの過去は振り返らない主義なので……。ホラ私は常に前を向く女だから。
数行しかない基礎とやらを読んでるだけでいいの?この授業超楽じゃんラッキー。と思っていたらハーミーが無言の抗議を行っていた。何してんの。そちらを見ると、ハリーも苛立たしそうな顔でアンブリッジせんせいを見ていた。しばらく見ているとアンブリッジせんせいは諦めたようにハーミーを見た。おっこれはゴングが鳴りました。カァーンッ、ファイッ!

「この章について聞きたかったの?」
「違います」
「今は読む時間よ」
「授業の目的に質問があります」
「……あなたのお名前は?」
「ハーマイオニー・グレンジャーです」
「ミスグレンジャー、ちゃんと全部読めば授業の目的ははっきりしていると思いますよ」
「でもわかりません、防衛呪文を使うことに関してはなにも書いてありません」

ハーミーの攻めのターンが続く!アンブリッジせんせいは一瞬沈黙し、劣勢かと思われた、が……防衛呪文を使う必要が無いと暗に言い、そこへ突然ロンが参戦した。挙手を、とわざわざ言って主権を握ろうとするアンブリッジせんせいだったが、なんとここでさらにハリーが参戦!トリオが揃った。そして傍観していた生徒の何人かと目が合いびくっとする。……えっなに?私もいけって言ってる?いや無理。読んでるだけの授業楽でいいもん。そっと首を振って否定すると視線がまたハリーたちに戻っていく。そういうならおまいらがいけって──と言うまでもなくディーンが参戦してパーバティも声を上げた。言い合いはどんどん熱くなっていく。実践したい生徒vs座学させたい教師から、過去のDADA教授批判にもなって試験実技に飛び、最後はハリーに着地した。悪い魔法使いが帰ってきたか来てないかとかなんとかかんとか、ぶっちゃけ話題についていけない私は羊皮紙にカエルの落書きをし始めていた。が、その手も止まる。

「セドリック・ディゴリーの死は悲しい事故です」
「殺されたんだ」

ハリーの声が震え、教室中がシーンとなった。重苦しい空気。まあ死んでないんだけど、と心の中で付け加える。……アレッ死んでないんだよね?

「ヴォルデモートがセドリックを殺した。先生もそれを知っているはずだ」

ハリーめっちゃ演技上手くない?不安になってきた。証人保護プログラムだよね!?
ハラハラと見守っていると、アンブリッジせんせいが可愛らしい声でハリーを呼ぶ。何かを羊皮紙に書いてハリーに渡し、彼を教室から追い出した。扉が締められるときバァンッ!と勢いよく鳴ってちょっとビビッた。めっちゃおこ。結局終始置いてけぼりなまま、授業が再開された。……ヴォルデモートって誰やねん。文脈的に悪い魔法使いなんだろうしディゴリー氏に手をかけようとした犯罪者ってことは察したけど、ハリーとそんな深い関係なのか。親族とかかな。人生って色々あるよね。



読んで書き写すだけで終わった授業はクッッソ暇だったけどとても楽で、しかし宿題が出されて私は泣いた。嘘でしょ。どうせならこのまま宿題も出さずにクソバカ授業であってほしかった。今日だけで出た宿題リストを前にため息を吐く。あとで図書館行かないと。 マクゴナガル先生とこから戻ってきたハリーは無言のまま私の隣にいて、ハーミーもロンもどこか気まずいような、というよりハリーの様子を伺う感じだ。ミネストローネうま。

「セドリック・ディゴリーが殺されたのを見たって言ってる……」
「『例のあの人』と決闘したって……」

「はぁーー??今どっかから羽虫の羽音が聞こえましたけどもぉーーいけませんね駆除せねば」
「ナマエ、いいから」
「うわ出たモンキーだ」

うるせえトマトぶつけんぞ。ギッと声の方向を睨みつける。ハリーに落ち着けと言うように肩を叩かれた。

「ナマエはいつも僕より怒るね……ありがとう。僕も、わからないんだ」
「なにが」
「2ヶ月前はダンブルドアのこともみんな信じてたのに……」
「そりゃ2ヶ月間もありゃ情報操作はいくらでも出来るからねえ」
「……ナマエも、見たの?」

ハリーの震える声が刺さった。そうだ触れられたくないやつなんだった。でも読まされてしまったからな……えっと……。そっと目をそらすと、ハリーの視線が刺さる刺さる。

「……もちろんハリーを信じてるよ」

へったくそすぎる話の誤魔化しに、ハリーはムッとしながらも頷いてくれた。でもどちらかというとムッとしたいのはこちらなのだ。言っとくけども私はハリーが罰則を受けなければならないということに少しカチンときている。スネイプてんてーより理不尽があってたまるかい。言論の自由さえ許されないってのは問題でしょうがよ。そう言うと、ハーミーが大きく頷いてくれた。

「その通りよ。でもそれはあなたにも言えることね、彼らを擁護するわけではないけれど無闇矢鱈陰口に喧嘩を売らないでちょうだい。それより、こんなところ早く出ましょう」
「えっアップルパイ……」
「ナマエ」
「ハイ……」

食い意地張りすぎだろとロンにからかわれたけど、私はロンもまたアップルパイに思いを馳せていたことを知っています。今日はよくブーメランが飛ぶな。

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