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ホグワーツ歓迎のご馳走を腹におさめながら、首なしニックの話を聞く。帽子は学校が大きな危機に直面しているとき、内側を強く団結しろと歌うらしい。校長室にいるから察知しやすいんだとか、ってことはダンブルドア先生も何かを察している……そらそうだ、ダンブルドア先生だけじゃなく去年を経験した人なら誰だってそう思ってる。それから首なしニックの話にロンが首を突っ込んで怒らせ、話を最後まで聞けなかったハーミーが怒る。ンーなんというか新学期が来たって感じ。寂しさが埋められていく感覚にへらっと笑っていると、ハリーが糖蜜パイを分けてくれた。

「ナマエは僕のこと、信じてくれるよね?」
「うん?そりゃもちろん」
「僕頑張るからね」
「いや無理すんなって。大人使え大人」

糖蜜パイを食べながらよくわからん話をされたものの頷いておく。信じる信じないにおいては信じる一択だから嘘は言ってない。ニコニコと笑うハリーにご機嫌だなあと私もにっこりした。
食事が終わるとダンブルドア先生のお話が始まる。はいはいいつものと聞き流していると、教員紹介でまさかの割り込みがあった。特徴的な咳払いにギョッとする。しかもいきなり可愛い顔ときたもんだ。ばぶちゃん集団かよ。わかりやすい子供向けの話し方にハーミーの眉がピシッと上がり、まあ相性の悪いのが来たと苦くなる。DADAは必修だから占い学みたいにはいかないんだよなあ……。先が思いやられるぞ。と、最初は他人事に思っていたけど、話が進んでいくと私でさえおや?と眉を上げた。そろりそろりと苛立ちが歩み寄ってくる感じ、嫌なお局に当たったときのよう。

「開放的で効果的でかつ新しい時代へ」

とても前向きな言葉で締められた長いお言葉にまばらに拍手が飛ぶ。……いや、どこの自己啓発セミナーですか。8000円くらい払わされて話を聞かされ更に本を買って帰らされるパターン。ついでに何やら不穏な雰囲気を感じる。帽子の警告にいきなりHitしてるらしい。ダンブルドア先生が当たり障りのない感想を言い、即座に危険スポーツの話に変わると、ハーミーが本当に啓発的だったわ、と鼻を鳴らして嫌味混じりに言う。それにロンが反応した。

「おもしろかったっていうのか?」
「いいえ、啓発的だったと言ったのよ」
「まさにご本人のおっしゃる放棄されるべき陳腐な演説だったね」
「……聞いていたの?」

ハリーが驚きましたと顔で言う。まあね、と1年次と比べるとシャープになった頬を人差し指でつつく。わざとらしくむうと頬が膨らんだ。

「ついにPTAの介入ありってとこ?」
「いいえ、魔法省よ。さっき私たちが話していたファッジという人は魔法大臣なの。あの人がファッジの下についていたなら、そういうこと」
「ウッッッワ……」

思ったより厄介な内容に思わず声が出ると、いきなり周りがガタガタ動き出してビビってしまった。そしてハーミーたちも慌てて立ち上がる。1年生の案内?……あ、なるほど、監督生……いつの間にお開きになったらしい。しっかりと背筋を伸ばし、2人は1年生へ声をかけた。小さな背丈がわらわらと移動していく。人が少なくなってから移動しようかなーと思っていると、隣からそっと手を差し出された。

「僕たちも行こう」
「ん?おー」

「みて、ハリー・ポッターだ」
「三大魔法学校対抗試合で……」

横を通っていくおチビたちが小声で話しているそれに、ビキリときた。ひそひそされて、指をさされて、目が合えばバケモノを見たように青くなって、そんなの不快でしかない。ハリーがなにをしたっつーんだ。食後の胃がムカムカしはじめる。体育会系じゃないけどもこれは教育的指導だと頷き口を開く。

「おいこらガキンチョ何見てんだ見物料取るぞゴラ」
「ナマエ!?1年生だから!」
「いやここはまずナメられないようにイッパツキメておかないと」
「わーやめてったら!ほら行こう!ごめん気にしないでね!」

ハリーが優しくてよかったな!ふんと鼻を鳴らすと、1年生の群れの向こうから「アレがグリフィンドール名物のモンキーだ」だの「ポッターの番犬」だの「ナマエ今日も元気だな」だの「怖がらせて……もう、あとで叱らなきゃ」だのと聞こえてきた。最後のは誰か明白なので私は「ごめんねハーミー!」と声を上げたけど、人の群れによって届いたかは不明。お、怒られないとイイナー……。つか誰だよ名物モンキーって言ったの、絶対スリザリンじゃん。ウキーッ!



ハリーに手を引かれて走るように大広間を出て、しばらく廊下を進むと人はすっかりいなくなった。歩調を弛めてちゃんと隣を歩きハリーの背中をぽんぽん叩く。と、ハリーは足を止めてじっとこちらを見た。しばしの無言。先に破ったのは私だった。

「……魔法大臣とかそういうのは、聞かない方がいい?」

ハリーは黙ってこくりと頷く。喉元がヒリヒリするのをまるっと飲み込んで、わかったと私も頷いた。すっと目がそらされ、ハリーが深くため息を吐いた。まるで体内の疲れを全て吐き出すような深さだった。

「……夏休みに、色々あって──たくさん話したいことがあるのに、僕のせいで全部話せないんだ」
「オウ」
「ううん、話せる、話せるんだけど話したくないんだ。ナマエには、話したくない。でもナマエをひとりぼっちにして嫌われたくない。セドリックのこともそう、あの子たちがどうしてあんな目で見てくるのかだってわかってるけど、でも」

話せないことばかりで、もう!ってイライラしてるハリーの背中をぽんぽん叩いた。まあ落ち着け少年。元々くしゃくしゃの頭が振られてさらにくしゃくしゃになる。

「いいよ、わかってるから気にすんな」
「ナマエ……」

ついでに私も手を伸ばしてハリーの頭を撫でる。やっぱ身長デカくなったな。手を伸ばしたときに袖が少し落ちて、糸が見えた。あ、そうだわ、と存在を思い出しローブのポケットを探る。手先に紐を掴まえてまるごと取り出した。ハリー手ぇだしてー。

「はいこれあげる」
「これ……」
「ミサンガっていうの。紐が自然に切れると願いが叶う、願掛けみたいな?おまじない的なやつ」

3人分作ったからあとで2人にも渡すけど、お先にどーぞ!そう言うと、ハリーはくしゃりと笑った。ゆったりと歩みを進めて、また立ち止まる。チラチラと目が合う。およ?なんだね少年、いやもう青年か…?

「わがまま言っていい?」
「お?珍しいね。どんとこい」
「僕……僕、これがいい」

そう言ってハリーは私の手首を掴んだ。これ、というのは……コレか?私がつけている少しヨレたミサンガを指さすと、ハリーが頷いた。

「え、これ?いいけど、何年かつけっぱだから綺麗な新品じゃないよ?」
「それがいい。つけてくれる?」
「ハリーがいいなら、まあいっか」

爪先で結んだ部分をちょいちょいと解き、ハリーの手首を借りて巻き付ける。固結びしてと言われてその通りにした。思えばこれも初めてホグワーツに来てしまった頃からつけていたもので、チョウから渡された糸ではなく元々トランクに装備されていた糸から作ったものだから、身体から離れるとなんだか不思議な気分だ。手首がやけにスースーするような。ハリーは赤と白と黒の紐を撫でる。

「嬉しい、ありがとうナマエ。…この青いやつはお守りとして僕の友達にあげてもいい?」
「いいけど、お守りとかそんなたいそうなもんじゃ」

たかが紐にあんまり重荷を負わせてやんなって。笑いながら頷いた。スナッフルズも喜ぶと思う、という言葉に去年を思い出した。あの犬か。犬につけたら糸もすぐ切れそうだなあ、なんて思いつつハリーが話せる限りの夏休みの話を聞いて寮へ向かう。
……あれ、私ら寮の合言葉聞いてなくね?と気づいたのは婦人を前にしてだった。ここは仕方がない。恒例の「誰かー!開けてー!」とドアバンをしていたら後ろから「僕完璧に答えられるよ!」と息を切らしたネビルがお助けしてくれた。なんでも今年の合言葉は最高!らしい。よくわからん。そして談話室にやっと入れたときカンッカンのハーミーが出迎えてくれてチビるかと思いました、まる。

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