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「おや、君は……また会えて嬉しいよ。けれどまだ自己紹介が出来るようではないみたいだね。ああそうだ、ナースに聞いたのだけれど、君はホグワーツの生徒で僕は以前教師をしていたらしいんだ!もしかしたら僕たちはホグワーツで会っていたかもしれないね。とても感動的じゃないか!……おっと、もう検査の時間みたいだ。では失礼、また会えることを楽しみにしているよ、名も知らぬ友人よ!」

城の玄関にゴトンッとトランクが落ちて、その音で起きたような感覚。ホグワーツの玄関の目の前にいた。ああ……うん……。

「まーーーこうなると思ってましたよ」

体の向きは城の中、体は冷えている、なんなら鼻先がちょっと冷たい。手にハアーっと息をふきかけてから、トランクを持ち上げる。寮へ上がる階段の手前で、セーターを来たハリーが待っていた。目が合い、パッと笑顔になる。

「ナマエ、おかえり!」
「……ただいまあ」

ついさっきバイバイしたばかりだから実感はないが、まるで3年ぶりに会ったみたいに喜んで抱きついてきたハリーを抱き締め返した。
私はいつになったらホグワーツから出られるのか。




「イースター中は姿を見なかった。帰っていたのか?試験は大丈夫か?」

休暇明け一発目の数占い学で、真っ先に隣に座ってきたノットくんに最近デレてきたな、なんつってどうでもいいことを考えた。だんだん心開かれてる自信はあるよ。多分一瞬で閉じられるけど。

「試験はノーコメント。帰ってはない。聖マンゴに行ってた」
「……入院を?」

またか、という顔をされてうんうんと頷く。またなんだよ。無意味に羽根ペンをくるくる回して気を紛らわせる。

「休暇前に校長先生に言われてさ、行ってきたんだけどさあ」
「なんだ?」
「聖マンゴの記憶が何も無い」

ノットくんは難しい顔をした。顎に手を当てて、ふむ、と一息。

「予想していなかったわけではない、だろう?」
「まあ。むしろそうなると思ってた」

私は外に出れていないけど、身体は外に出ている。やっぱりキーは私じゃない私の時間だ。私以外私じゃないはずなんだが、私でさえ私じゃないって酷いな。あーーくそっ意味わからん。
どうにかしないとなあ、とため息を吐くと、ノットくんが「手はないのか」と聞いてきた。んーと詰まりながら考えていたことを話す。現実的にいけそうなのが真実薬だと思ってたんだけど、スネイプ先生からメッ!てされちゃったんだよねー。君んとこの寮監でしょ、どうにかしてよ。しかし公私混同はよろしくないと首を振られてしまった。ド正論。

「可能性はある、が真実薬は危険な薬だし、そもそもそれを俺に話していいのか?」
「唯一ノットくんが一番私の状態をわかってんだよね」
「しかし……いや、考えてみる価値はある」
「でももう手出せないんだって」
「真実薬にこだわる必要は無い。自分が魔法族だということを理解しているのか?4年にもなって、まだ叡智の欠片もないマグルと同族のつもりで?」
「久々に思想を顔面から浴びちまったな…」

やれやれだぜ。魔法っていったって、フリットウィック先生からは否定されちゃってるんだぜ。……あれ?そういや否定してたっけ?ハッキリとはしてないような……でも無闇に期待を抱いて砕けるのはもう嫌だなあ……考えすぎて疲れてしまった。私ってば結構繊細なんだから。
回ってきたプリントに名前を書いて、なんとなく上からぐしゃぐしゃに消してまた書き直した。ナマエ・ミョウジ、この名前と同じ名前の人がいて、私と同じ顔していて、もし本当にそうだったらまだ話は早かったのに。ため息を吐くと、辛気臭いと言われてしまった。スリザリン野郎には言われたかないね、と軽口を返すと「思ってもないことを」と鼻で笑われてしまった。よくご存知で。

「ノットくんもいくらノット先生だからってよくこんな法螺話かもしれないようなのに付き合ってくれるね」
「意味がわからないな。俺は別に付き合っているつもりはない、ただ、」
「ただ?」
「ただ…………俺もまた探求しているだけだ」

目をぱちくりした。なんだそりゃ。探求?何を?ノットくんは言葉を選ぶように、数回言いかけては止まる。

「……俺の事を話したことは無かったな」
「そうだっけ。私のばっかか、ごめんごめん」
「謝罪を求めているわけじゃない。あなたの口の堅さを信用して言うが、俺は癒者になりたいんだ」
「えっ」

ばっと口元に手を当てて驚きを控えめにする。初めて聞いた。癒者ってイコール医者だと思ってるんだけど、もしそうならこりゃすごい。素直にすげえじゃんと言うと、ノットくんは言葉だけだと返す。どういう意味?

「俺には家がある」

あっ重い話だこれ。表情は変わらないがズンッと重くなった雰囲気を察して私もスンッとなった。
曰く、ノットくんは一人息子でお母さんは既に鬼籍に、父子家庭で育ったものの家は純血主義の貴族で継がなきゃいけない。でもノットくんの夢を選ぶと卒業してすぐに継ぐことは不可能。名前だけ当主にして仕事はお父さんにやってもらえばいいじゃん、と言うと「これだから貧民は」だそうで。君私の事貧民だと思ってたの。庶民でも無かったよ、しかし価値がよく分からない財布の中身を思い出して反論はしなかった。前にルーピン教授に渡すお菓子買ったとき頭のいいふくろうさんがお金もってってくれたんだよな……。でもホグズミードのことを考えると、もう1人の私は使えるらしい。っと、話が逸れてしまった。

「父は俺に早く家を継がせたいらしい」
「ほーん。でもノットくんは癒者になりたいから時間が欲しいと」
「ああ。だから、あなただ」

…………ちょっと意味がわかりませんね。ノットくんは少し口角を上げて目を細める。多分笑ってると思うんだけども。いや、あの、言葉はこれでも選んでるんだけどさ、なんだけど、その、顔こわ。雰囲気出てていいと思うよ。ヒューッ純血主義の貴族感出てるよ。

「ヤヌス・シッキー棟に入るほどだぞ、この重大さがわかっていないのか。完治は偉大なことかもしれない。もしも論文を発表出来たら、俺は研究という大義名分の元堂々を癒者になれるだろう」

目の奧が爛々と光っていた。その先には多分バラ色の癒者ライフが見えてるんだろう、確かに研究とか好きそうだし、逆にこの性格で当主はやっていけるのか……は私の考えることじゃないけど、あまりしっくり来ないような。ノット先生はどちらかというとマッドサイエンティスト風な雰囲気。あっ褒めてるんだよ、いい意味でね。いい意味でマッドサイエンティストってどういうことなの。ちと混乱してきた。まあ、言いたいことはわかった。

「私は自分を探せて、そっちは癒者になれる。利害の一致ってわけだ」
「ああ、協力してもらおう」
「じゃあ、真実薬とか手を出すのは問題なんじゃあないのかい」

指定の劇薬みたいなもんなんだろう。おいそれと学生が手を出せるものでは無い、でも、ノット先生が癒者になるまで待てるのかと言われると、多分無理。でもそんなん下手したら逮捕だろう、アズカバンとかいうところに送られちゃうんじゃないの。そしたら大スキャンダルだよ。純血貴族の一人息子が牢獄になんて、お家も真っ逆さまだ。想像しただけで青くなってしまう。はわわと慌てる私に、ノットくんはさらりと言った。

「バレても揉み消せばいい」
「…………ソダネー」

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